概要
サマ・レンジは、テレンス・コンランが1960年代初頭に発表した収納家具のシリーズである。完成品としてではなく、部材と留め具を平たく箱に納めたノックダウンの状態で売り、組み立ては購入者に任せた。イギリスで量産家具にこの方式を持ち込んだ早い例にあたる。しかし家具店での扱いが伸びず、コンランが1964年に自分の店ハビタットを開く発端になった。現在は生産されていない。
特徴・コンセプト
組み立てを買い手に渡す
組み上がった家具は、空気を抱えたまま倉庫と荷台を占める。輸送と保管にかかる費用は最終的な価格に乗り、材料や仕上げに回せる分を削っていく。サマ・レンジは、部材を平らに重ねられる形に整理して箱に納め、組み立てを購入者の手に移すことで、この部分を先に削った。組み立ての手間と引き換えに、同じ価格で仕上げの水準を上げる、あるいは同じ水準を下の価格帯で出すという計算である。
コンランは、質の高いデザインは一部の人のためではなく社会全体が手にできるものであるべきだという考えを繰り返し述べている。サマ・レンジの構成は、その考えを価格の側から実現しようとしたものだった。
寸法を揃えた箱を並べる
ユニットは幅と高さを揃えた箱で、引き出し、棚、扉のどれを納めるかを選べる。横に並べれば天板の高さが一本の線で通り、上に積めば壁面の収納になる。どの位置に何を置くかは使う人が決める。
現存する個体では、床に置く箱を深く、その上に載る棚を浅くとった構成が見られる。上段が前にせり出さないため、壁沿いに高く積んでも部屋の手前側が狭くならない。
作り付けの収納を製品にする
壁一面を使う収納は、当時は建築工事か特注の造作で用意するものだった。図面を起こし、現場の寸法に合わせ、取り付ける工程がそのまま費用になる。サマ・レンジは、それを規格化したユニットの組み合わせに置き換えた。1964年1月のオブザーバー紙は、特注でしか成立しなかった種類の構成が製品として供給されるようになった点と、取り付けの費用が抑えられる点を取り上げている。
チークと突板
現存する個体の多くはチーク材と突板で構成されている。1950年代から60年代のイギリスでは、輸入チークが現代的な家具の標準的な材として扱われていた。無垢材で幅の広い面を作れば重く、反りにも備えなければならないが、芯材に突板を貼れば同じ見え方を軽い板で得られる。箱を持ち帰って自分で組み立てるという前提とも、この軽さは噛み合っている。
エピソード
コンランは1950年代からロンドンで家具の製造と内装設計を手がけ、1960年代初頭には業務用家具で一定の受注を得ていた。サマ・レンジは、その経験を家庭向けに広げた製品だった。後年コンランは、当時の自分が分かっていなかったのは製品そのものだけでは足りないということだった、と述べている。自社の家具は、並べられた店の売り場のなかで場違いに見えたという。
展示会では多くの小売店が注文を出した。ところがコンランたちが実際に店を回ってみると、届いた家具が組み立てられないまま置かれていたり、仕入れた事実そのものが把握されていなかったりした。売り場の見せ方が変わらないかぎりこの家具は売れない、というのが彼らの結論だった。
生産は1960年代初頭にノーフォーク州セットフォードの約4万平方フィートの工場へ移り、ロンドンから約80人の従業員が家族とともに移っている。そして1964年5月11日、ロンドンのフラム・ロードにハビタットの1号店が開く。組み立てた状態のサマ・レンジを、フランス製の調理器具や食器と一緒に並べる店だった。自分の家具を売る場所を自分で用意するという判断が、その後の小売事業の出発点になっている。
なお、発表年を1956年とする記述も見られるが、その年はコンラン・デザイン・グループを設立した年にあたる。コンラン自身はサマ・レンジを1960年代初頭の製品として語っている。
評価と影響
サマ・レンジは長く生産された製品ではない。現在は中古で扱われるにとどまる。一方でこの家具をめぐる経緯は、製品の設計と売り場の設計を切り離せないことを示した例として繰り返し語られてきた。コンランは以後、家具の設計と同じ比重で店舗と品揃えの設計に取り組み、ハビタットはイギリスの生活用品小売のあり方に影響を与えている。
買い手が自分で組み立てる家具は、その後の量産家具で一般的な形式になった。サマ・レンジは、それがまだ小売の現場に受け入れられていなかった時期の試みにあたる。
テレンス・コンランの設計思想や経歴について詳しくはテレンス・コンランプロフィールページをご覧ください。
基本情報
| 名称 | サマ・レンジ / Summa Range |
|---|---|
| デザイナー | テレンス・コンラン(Terence Conran) |
| 製造・販売 | コンランの家具製造部門(ノーフォーク州セットフォード工場)/1964年以降はハビタットで販売 |
| 発表年 | 1962年ごろ |
| デザインの成立国 | イギリス |
| 分類 | 収納家具(モジュール式) |
| 構造 | ノックダウン。規格化した箱型ユニットを組み合わせる |
| 主要素材 | チーク材、チーク突板 |
| 生産 | 現在は行われていない |
Reference
- Terence Conran | Design Museum(本人インタビューを含むプロフィール)
- https://designmuseum.org/designers/terence-conran
- Sir Terence Conran Timeline | Design Museum
- https://designmuseum.org/mourning-the-loss-of-sir-terence-conran/sir-terence-conran-timeline
- Sir Terence Conran dies aged 88 | Furniture News
- https://furniturenews.net/news/sir-terence-conran-dies-aged-88
- Tributes to 'revolutionary' designer Terence Conran | Architects' Journal
- https://www.architectsjournal.co.uk/news/tributes-to-revolutionary-designer-terence-conran-who-has-died-aged-88
- Terence Conran's Habitat | ADSAUSAGE ARCHIVES(1964年1月19日 The Observer 紙の記事を引用)
- https://www.adsausage.com/blog/terence-conran-habitat
- The life of Terence Conran | Christian Watson
- https://christian-watson.com/journal/conran/