概要

テレンス・コンラン(1931-2020)は、イギリスのデザイナー・実業家である。1964年にロンドンで小売店ハビタットを開き、家具と生活用品を一つの店で揃えて売る形式を確立した。設計だけでなく、流通と見せ方を含めて扱った点に特徴がある。1989年にはロンドンにデザイン・ミュージアムを開設した。

バイオグラフィー

1931年10月4日、イギリス・サリー州エシャーに生まれた。1948年から1950年にかけてロンドンのセントラル・スクール・オブ・アーツ・アンド・クラフツでテキスタイルを学んでいる。

1950年に建築家デニス・レノンの事務所に勤め、1951年のフェスティバル・オブ・ブリテンの展示にも関わった。1953年にはロンドンで最初の飲食店を開いている。

1956年、コンラン・デザイン・グループを設立し、家具、内装、グラフィックを一つの事務所で扱う体制をとった。同年、組み立て式の家具「サマ・レンジ」を発表している。

1964年5月、ロンドン・チェルシーのフラム・ロードにハビタットの1号店を開いた。1973年には同じ通りにザ・コンラン・ショップを開店している。1980年にコンラン財団を設立し、1981年にヴィクトリア・アンド・アルバート博物館内で「ボイラーハウス・プロジェクト」を開始、1989年にデザイン・ミュージアムとして独立させた。

1987年にはロンドンのミシュラン・ハウスを取得して改修し、飲食店ビベンダムを開いている。以後50店を超える飲食店を手がけた。2020年9月12日、88歳で没している。

デザインの思想と方法

コンランが着目したのは、良い設計の製品があっても、それが売られる場所と見せ方が伴わなければ届かないという点である。彼は製品の設計と同じ比重で、流通の経路と店頭の構成を扱った。

製品ではなく状態を売る

ハビタットの店頭では、家具を種類ごとに並べるのではなく、実際の部屋のように組み合わせて配置した。買い手は個々の製品ではなく、その組み合わせでできる暮らしの状態を見る。何をどう合わせるかという判断を店側が示すことで、単品では想像しにくい使い方が伝わる。

分解して運ぶ

組み立て式の家具は、完成品より体積が小さく、輸送費と保管の場所を大きく減らせる。1956年のサマ・レンジは、この方式をとった早い例にあたる。ただし当初は流通の側が受け入れず、販売にはつながらなかった。売る場所を自分で持たなければ成立しない——ハビタットの開業には、この判断が働いている。

品揃えを一つの基準でそろえる

ハビタットは、北欧の家具、南フランスの籠、業務用の調理器具、鉄鍋といった出所の異なる品を同じ店で扱った。共通するのは、装飾を持たず、用途に対して形が素直であることである。産地や様式ではなく、選定の基準を店の性格とした。

書籍で使い方を示す

1974年の『ザ・ハウス・ブック』以降、住まいの構成を扱う書籍を継続して刊行した。店頭で示せるのは一つの組み合わせだけだが、書籍なら条件の異なる多数の例を示せる。1985年には出版社コンラン・オクトパスを共同で設立している。

代表作にみる方法

サマ・レンジ(1956年)

組み立て式の収納家具の系列である。購入者が自分で組み立てることを前提とし、部材を平らに梱包して運ぶ。輸送と保管の費用を下げられるが、当時の家具店はこの形式を扱わなかった。製品の側だけでは成立しないことが示された事例にあたる。

ハビタット1号店(1964年)

チェルシーのフラム・ロードに開いた店舗である。家具、照明、食器、調理器具を同じ店で扱い、部屋のように配置して見せた。取り扱う品は北欧やフランスからの輸入と自社設計を混ぜている。設計者ではなく店が選定の基準を持つという構成が、以後の生活用品の小売の形式となった。

ザ・ハウス・ブック(1974年)

住まいの各部屋の構成を、写真と図で示した書籍である。個別の製品の紹介ではなく、部屋という単位で何をどう置くかを扱う。店頭で示せる例が限られるという制約を、出版で補う仕組みにあたる。

ミシュラン・ハウスとビベンダム(1987年)

1911年竣工のミシュラン社の旧英国本社を取得し、飲食店・店舗・事務所として改修した。既存の陶板やステンドグラスを保存したうえで、内部を明るい空間に組み替えている。歴史的な建物を用途を変えて使い続けるという方法の例にあたる。

デザイン・ミュージアム(1989年)

1981年にヴィクトリア・アンド・アルバート博物館内で始めた「ボイラーハウス・プロジェクト」を、1989年にテムズ川沿いの倉庫を改修して独立させた。工業製品の設計を、美術や工芸と同じ扱いで展示の対象とする施設である。2016年にケンジントンの旧コモンウェルス・インスティテュートへ移転した。

評価と影響

コンランは一般に、戦後イギリスにおいて、良質な設計の生活用品を広い層に届ける流通の形式をつくった人物と評価されている。製品の設計者としてよりも、選定と見せ方と販売の側での役割が中心に論じられる。

この点は批判の対象にもなっている。独自の設計者というより、既存の設計を選んで商品化する事業者だという評価があり、彼自身も自らを設計と商売の両面を持つ立場として説明していた。ハビタットは2000年代以降に競争環境の変化に対応できず、2016年に売却されている。

デザイン・ミュージアムの設立は、工業製品の設計を展示と研究の対象として制度化した点で継続的に言及される。飲食店の分野でも、1990年代に複数の店舗と食材店を同じ建物に集める形式を示し、以後の複合的な飲食施設の先例となった。

受賞・収蔵

受賞

  • 1983年 ナイト爵位
  • 2017年 名誉勲位(Companion of Honour)
  • ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)。いずれも1950年代のテキスタイルである。

  • MoMA テキスタイル「チェッカーズ」(1951年) 収蔵番号 1083.2015
  • V&A テキスタイル(1951年) 収蔵番号 CIRC.241-1951
  • V&A テキスタイル(1952年) 収蔵番号 CIRC.7-1953
  • V&A テキスタイル「リーフ」(1957年) 収蔵番号 CIRC.145-1957
  • V&A テキスタイル「ツリー・セクション」(1957年) 収蔵番号 CIRC.146A-1957
  • V&A テキスタイル「ジオメトリ・ストライプ」(1957年) 収蔵番号 CIRC.147-1957

作品一覧

区分 作品名 場所 / ブランド
1951年 テキスタイル チェッカーズ David Whitehead ほか
1953年 飲食店 スープ・キッチン ロンドン、イギリス
1956年 家具 サマ・レンジ(組み立て式) Conran Design Group
1964年 小売 ハビタット 1号店 ロンドン、イギリス
1973年 小売 ザ・コンラン・ショップ ロンドン、イギリス
1974年 書籍 ザ・ハウス・ブック Mitchell Beazley
1980年 財団 コンラン財団 ロンドン、イギリス
1985年 出版 コンラン・オクトパス ロンドン、イギリス
1986年 家具製造 ベンチマーク バークシャー、イギリス
1987年 改修・飲食店 ミシュラン・ハウス/ビベンダム ロンドン、イギリス
1989年 美術館 デザイン・ミュージアム ロンドン、イギリス
1991年 複合施設 バトラーズ・ワーフ ロンドン、イギリス
2016年 美術館 デザイン・ミュージアム 移転 ロンドン、イギリス

プロフィール

生没年 1931年10月4日〜2020年9月12日
出身地 イギリス・サリー州エシャー
国籍 イギリス
活動拠点 ロンドン
分野 家具、テキスタイル、小売、飲食店、出版
主な事業 Habitat、The Conran Shop、Conran Octopus、Benchmark、Design Museum

Reference

Design Museum
https://designmuseum.org/
The Conran Shop
https://www.conranshop.co.uk/
Benchmark Furniture
https://www.benchmarkfurniture.com/
Terence Conran | Victoria and Albert Museum
https://collections.vam.ac.uk/
The Museum of Modern Art Collection
https://www.moma.org/collection/works/2325