グリーンチキン ─ デザインとアートの境界を問う、緑の鶏のロッキングチェア
グリーンチキン(Green Chicken)は、スペイン出身のデザイナー、ハイメ・アジョン(Jaime Hayon)が2006年に構想し、2008年に発表したアート・オブジェである。鮮烈な緑色に塗装されたファイバーグラス製の鶏がロッキングチェアの形態を纏うという造形は、デザインとアートの境界を問い直す試みとして、発表以来国際的に注目されてきた。
日常的な存在である鶏を、大きなスケールと鮮やかな色彩によって非日常的なオブジェへと変換したこの作品は、遊び心と幻想性というアジョンの作風を端的に示す代表作のひとつである。
デザインの背景と着想
本作は、2006年に上海のContrasts Gallery(現Pearl Lam Galleries)で開催された展覧会「Contrasts and Contradictions: Chapter 1」のために委嘱された作品である。この展覧会は「デザインとアートの対立」「機能性は創造性を制限するか」という問いをテーマに掲げ、デザインと純粋芸術の境界領域を探究するものであった。
アジョンは、日常的でありながらデザインの領域ではほとんど扱われてこなかった鶏という形態に着目した。彼自身の言葉によれば、「見る者に夢を見させるようなもの」を創りたかったという。円錐形の嘴と球形の耳を備えた鶏のシルエットは、幼年期の記憶やファンタジーの世界を呼び起こす。ロッキングチェアとしての機能が付与されることで、緩やかな揺動が作品に躍動感をもたらし、静止したオブジェでありながら動きを感じさせる造形となっている。
なお、本作の原型は、アジョンがスペインの磁器メーカー、リヤドロ(Lladró)との協業のなかで着想したものとされる。リヤドロからは後年、鶏のモチーフを小型の磁器フィギュリンとして展開する製品も生まれており、ひとつのモチーフがアートピースと磁器プロダクトの双方に展開された事例となっている。
造形と素材の特徴
グリーンチキンの造形は、有機的な曲線と幾何学的な抽象性を併せ持つ点に特徴がある。鶏の身体は流線型に簡略化されながらも、嘴、鶏冠、尾羽といった特徴的な要素が誇張して表現され、動物としてのアイデンティティと彫刻としての造形性が共存している。
素材にはラッカー仕上げのファイバーグラスが用いられ、メタル製のベース(ロッカー部分)と組み合わされている。鮮やかなグリーンのラッカー塗装は光沢のある表面をつくり出し、光の当たり方によって表情を変える。ファイバーグラスの軽量性と強度により、この大型オブジェを実際にロッキングチェアとして機能させることが可能になっている。
制作と限定エディション
2006年の上海での発表を経て、2008年にイタリアのLanulfi Models and Molds社によって限定エディションが制作された。同社は1981年設立のイタリアの専門工房で、高精度なモデル制作と型製造を手がけている。各作品には職人の手仕事による仕上げが施され、工業生産品とは異なる質を備えている。
限定エディションという形式は、本作がプロダクトデザインではなくアート作品として位置づけられていることを示し、コレクターズアイテムとしての希少性を担保している。
美術館コレクションと評価
グリーンチキンは、アメリカ・アトランタのハイ美術館(High Museum of Art)が2015年にDecorative Arts Acquisition Trustの資金によって収蔵している(アクセッション番号 2015.6、デザイナー:ハイメ・アジョン、制作:Lanulfi Models and Molds)。同館の現代デザイン・装飾芸術コレクションの一部として位置づけられている。
この作品は、2017〜2018年にミルウォーキー美術館で開催された個展「Jaime Hayon: Technicolor」にも出品された(同展での展示はハイ美術館所蔵品による)。また、アジョンがロシアの雑誌の表紙でグリーンチキンに跨る姿で撮影されるなど、デザイナーのパブリックイメージとも結びついた作品として知られている。
アジョン自身は初期のキャリアを「グリーンチキンやその他のクレイジーなプロダクト」に満ちた時期と振り返っており、2006年の構想から現在に至るまで、彼の代表作のひとつとして参照され続けている。
基本情報
| 作品名 | グリーンチキン / Green Chicken |
|---|---|
| デザイナー | ハイメ・アジョン / Jaime Hayon(スペイン、1974年生) |
| 制作年 | 2006年(構想)/2008年(限定エディション制作) |
| 制作 | Hayon Studio / Lanulfi Models and Molds(イタリア、1981年設立) |
| 素材 | ラッカー仕上げファイバーグラス、メタルベース |
| サイズ | H 121 × W 40 × D 100 cm(47 5/8 × 15 3/4 × 39 3/8 inches) |
| エディション | 限定エディション |
| 分類 | アート・オブジェ / ロッキングチェア |
| 初出展覧会 | 「Contrasts and Contradictions: Chapter 1」Contrasts Gallery, 上海(2006年) |
| 主要収蔵先 | ハイ美術館(アトランタ、アクセッション番号 2015.6) |