概要

ケメックス コーヒーメーカーは、化学者ピーター・シュラムボームが1941年に考案したドリッパー一体型のコーヒーメーカーである。耐熱ボロシリケートガラスを一体で成型した砂時計型の本体に、木のカラーと革紐を組み合わせる。現在もアメリカ・マサチューセッツ州で製造されている。

特徴・コンセプト

フラスコの形をそのまま使う

形は、化学のエルレンマイヤーフラスコに由来する。円錐状の上部と丸みのある下部からなる砂時計型は、上部が抽出、下部が受けという二つの役割を一つの器で果たす。ドリッパーとサーバーを別部材にすれば、その接点で液漏れや目詰まりが起きるが、一体成型であれば継ぎ目がない。

素材には非多孔質のボロシリケートガラスを用いる。ガラス自体が匂いや味を移さないため、繰り返し使っても前に淹れたものの影響を受けない。素材の選択に、考案者の化学者としての知見が現れている。

木のカラーと革紐

中央のくびれに巻かれた木のカラーは、熱いコーヒーを注ぐ際に手を保護する断熱材であり、器具を握るための持ち手も兼ねる。二つに分割された木のカラーを手結びの革紐で留める構造は、一体成型のガラスに手仕事の要素を添えている。ガラスに直接把手を付ければ接合部が弱点になるが、外から巻いて締めるだけであれば本体は一体のままで済む。

厚いフィルター

専用のフィルターは、一般的なペーパーフィルターより厚くつくられている。厚いフィルターはコーヒーオイルや微粉を多く捕らえるため、抽出液が澄む。透明なガラス越しに抽出の様子が見えることも、この器具の性質のひとつである。

エピソード

ケメックスは、第二次世界大戦下という金属材料が不足した時期に、ガラスと木という入手可能な素材だけで成立する製品として登場した。1943年にニューヨーク近代美術館の登録記録に加わっている(収蔵番号51.1943)。

イアン・フレミングの小説『007 ロシアより愛をこめて』には、ジェームズ・ボンドが朝食でケメックスのコーヒーを淹れる場面が描かれている。

評価と影響

ガラス・木・紙・革という素材構成は、道具としての実用性と手入れのしやすさを両立させている。80年以上にわたって製法が大きく変わっていない。木のカラーと革紐は手作業で取り付けられる。

美術館コレクション

ニューヨーク近代美術館は、ボロシリケートガラス・木・革によるケメックス コーヒーメーカーを収蔵番号51.1943で登録している(1943年、ルイス・アンド・コンガーからの寄贈。寸法24.2×15.5cm)。同館はシュラムボームの他の製品も多数収蔵しており、ウォーターケトル(493.1956.a-b)やティーメーカー(494.1956.a-c)などがある。

基本情報

名称 ケメックス コーヒーメーカー / Chemex Coffeemaker
デザイナー ピーター・シュラムボーム(Peter Schlumbohm)
ブランド ケメックス(Chemex Corporation)
発表年 1941年
デザインの成立国 アメリカ
分類 コーヒーメーカー(プアオーバー式)
主要素材 ボロシリケートガラス(一体成型)、木、革
構造 抽出部と受け部が継ぎ目なくつながる。木のカラーを革紐で留める
製造 アメリカ・マサチューセッツ州
収蔵 ニューヨーク近代美術館(51.1943)

Reference