ABCD ソファの概要

ABCD ソファは、フランスのデザイナー、ピエール・ポランが1968年にオランダの家具メーカー、アーティフォート社のために設計したモジュラーソファである。正式にはF260シリーズにあたり、1席・2席・3席・4席以上と席数に応じて構成できるモジュラーシステムから「ABCD」の通称で呼ばれる。

本作は、卵の紙パック(エッグカートン)の有機的な起伏から着想を得たとされ、三本の波状フォームストリップをスチールベース上に配置した構造を持つ。隣り合う座面がゆるやかに傾斜しながら連なることで、着座者それぞれに肘掛けのような領域を与えつつ、隣人との自然な距離感を保つ。ポランはこれを「隣り合う社交性(side-by-side sociability)」と表現しており、もともとはホテルのロビーやラウンジといった公共空間に向けて構想された。

特徴・デザインコンセプト

ABCD ソファの特徴は、独立したセグメントが波状の曲線を描きながら連結し、一つの有機的な塊を形成する点にある。単体でも複数連結でも成立するモジュラー構造により、置かれる空間に合わせて姿を変えられる。

エッグカートンからの着想

ポランがデザインの起点としたのは、卵の紙パックが見せる規則的でありながら有機的な凹凸のリズムであった。この形状を人体を包み込むスケールへと展開することで、各座席が緩やかに傾斜した独立空間となりながら、全体としてまとまりのある連続体を実現している。曲面に沿う張地を得るために、ポランは自ら生地を工夫しながら成形したとされる。

素材と構造

構造は、スチールベースの上に三本のフォームストリップを配置し、それをストレッチ性のあるファブリックで一体的に覆うという手法による。木製フレームを併用し、初期のエディションではクロームキャスターが取り付けられ、空間内での移動を可能にしていた。金属フレームにフォームを重ね、その上からストレッチ素材を被せるこの構法は、ポランがアーティフォートとの協働のなかで用いてきた手法をモジュラーソファへと展開したものである。

カラーバリエーション

ABCD ソファは発表当初より、単色・二色・三色のバリエーションが展開された。複数色を用いたエディションでは、波打つ各セグメントの色彩が視覚的なリズムを生み、当時のポップアート的な色使いを空間に与えた。張地には、当初クヴァドラ社のトーヌスが用いられていた。

初期版と後期版の違い

ABCD ソファには生産時期による仕様差がある。1960年代末から1970年代にかけての初期エディションはクロームキャスター付きで、座面の起伏がより深く波打つ造形を特徴とする。後年の版ではキャスターに代わってキューブ型の脚部が採用され、座面はやや平坦になった。初期版には、キャスター使用時のスライドを防ぐアーティフォート刻印入りのキャップが付属する例もあり、稀少な付属品として知られる。ABCDシリーズは現在では生産されておらず、入手はヴィンテージ市場が中心となっている。

基本情報

正式名称 ABCD ソファ(F260シリーズ)/ ABCD Sofa (F260 Series)
デザイナー ピエール・ポラン / Pierre Paulin(1927–2009 / フランス)
デザイン年 1968年
ブランド アーティフォート / Artifort(オランダ)
カテゴリ モジュラーソファ
構造 スチールベース+三本のフォームストリップ(木製フレーム併用)、ストレッチファブリック張り
脚部 初期版:クロームキャスター / 後期版:キューブ型脚部
張地 ストレッチファブリック(当初クヴァドラ社トーヌス)。張替えにより各種ファブリックに対応
サイズ(3人掛け参考値) 約 W240〜245 × D76 × H64 cm
サイズ(2人掛け参考値) 約 W160 cm
モジュール構成 1席・2席・3席・4席・5席以上に対応する拡張型モジュラーシステム
カラー 単色・二色・三色(張替えにより多様な色彩に対応)
現行生産状況 ABCDシリーズは現在アーティフォート社では生産されておらず、入手はヴィンテージ市場が中心