Artifort(アーティフォート)
Artifortは、1890年の創業以来、オランダを代表するデザイン家具メーカーとして、世界の家具デザイン史に不朽の足跡を刻み続けています。「Art(芸術)」と「Comfort(快適)」を融合させたその名が示すとおり、機能性と美的感性を高次元で両立させた家具づくりを一貫して追求してまいりました。ニューヨーク近代美術館(MoMA)やパリのポンピドゥー・センターといった世界屈指の美術館の永久コレクションに収蔵される数々の名作を生み出し、現代デザインの潮流を牽引する存在として国際的に高い評価を獲得しています。
Pierre Paulin、Kho Liang Ie、Geoffrey D. Harcourtをはじめとする巨匠たちとの協働により、Artifortは20世紀のミッドセンチュリーモダンを代表する革新的なシーティングデザインを世に送り出してきました。有機的なフォルムと鮮やかな色彩、そして革新的な製造技術を駆使した作品群は、発表から半世紀以上を経た今なお、時代を超越した魅力を放ち続けています。
ブランドの特徴・コンセプト
Artifortの名は、ラテン語の「Ars(芸術・知識)」と「Fortis(強固・力強い)」に由来し、そこには「Comfort(快適)」の意も込められています。この名が体現するとおり、同ブランドは美的デザイン、堅牢な品質、そして座る人の快適性という三つの価値を融合させることを創業以来の理念としてきました。
Artifortの家具を特徴づけるのは、大胆かつ有機的なフォルム、革新的な素材と製造技術の追求、そして人間工学に基づいた快適性への徹底したこだわりです。1960年代にPierre Paulinが導入したストレッチファブリックとフォームを組み合わせた画期的な製法は、家具デザインの概念を根本から覆し、彫刻のような造形美と身体を包み込む座り心地の両立を実現しました。この革新的アプローチは今日に至るまでArtifortのDNAとして脈々と受け継がれています。
また、Artifortは持続可能性を重視し、世代を超えて受け継がれる耐久性の高い家具づくりを信条としています。熟練の職人による伝統的なアップホルスタリー技術と最新の製造技術を融合させ、オランダ・スキンデル、ベルギー・ラナケンの自社工場において一貫生産を行っています。
ブランドヒストリー
1890年、Jules Wagemansがオランダ南部の都市マーストリヒトにて椅子張り工房を開業したことに、Artifortの歴史は始まります。息子のHenricus Wagemansは事業を家具製造へと拡大し、1920年代末にはアムステルダムにショールームを構え、オランダ全土にその名を知られるブランドへと成長させました。
1928年、世界恐慌の影響を受けるなか、「H. Wagemans & Van Tuinen」は差別化戦略として新たなブランド名「Artifort」を採用します。1930年代初頭には、一本の鋼線から編み上げる革新的な「Epedaインテリアスプリング」の特許を取得。この技術により、従来の藁や馬毛を用いた製法に比べ、格段に優れた耐久性と快適性を実現しました。
1939年、Theo Ruthがデザイン開発部門の責任者に就任。1952年のCongo Chair、1953年のPenguin Chairといった、組み立て式の革新的な構造を持つチェアを発表し、Artifortを革新的デザインの発信源として確立しました。
1958年、インテリアデザイナーのKho Liang Ieが美学顧問として参画したことで、Artifortは黄金時代を迎えます。Kho Liang Ieは卓越した審美眼と国際的なネットワークを駆使し、フランス人デザイナーPierre Paulin、イギリス人デザイナーGeoffrey D. Harcourtといった才能を次々と発掘。Pierre Paulinが生み出したMushroom Chair(1960年)、Orange Slice Chair(1960年)、Ribbon Chair(1966年)、Tongue Chair(1967年)などの革新的なシーティングは、ポップアートの精神を体現する彫刻的造形と鮮やかな色彩で世界中の注目を集め、Artifortの名を国際的に不動のものとしました。
1960年代以降、Geoffrey D. Harcourtによるコントラクト家具シリーズの成功により、Artifortは住宅市場のみならずオフィスや公共空間といったプロジェクト市場においても飛躍的な成長を遂げます。1998年には、オランダ・スキンデルに本拠を置くLande Groupの傘下に入り、新たな製造拠点の整備とともに更なる発展を続けています。
現在もArtifortは、Jasper Morrison、Patrick Norguet、Khodi Feiz、Monica Förster、Luca Nichettoといった世界的デザイナーとの協働を通じて、伝統と革新を融合させた新たなコレクションを発表し続けています。2014年にはKhodi Feizがアートディレクターに就任し、ブランドの未来を見据えた新たな方向性を示しています。
代表的なインテリアとその特徴
Mushroom Chair(マッシュルームチェア)F560
1960年、Pierre Paulinが手がけたMushroomチェアは、世界で最も著名なチェアデザインのひとつとして知られています。その名のとおりキノコを思わせる有機的なフォルムは、水着姿の女性の曲線美からインスピレーションを得たとPaulin自身が語っています。金属チューブのフレームにフォームを被せ、継ぎ目のない一枚のストレッチファブリックで包み込むという画期的な製法は、家具製造の概念を根本から変革しました。ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵されており、半世紀以上を経た今なおArtifortを象徴するアイコニックな存在です。
Orange Slice Chair(オレンジスライスチェア)F437
1960年に発表されたOrange Slice Chairは、二つの同一形状のシェルがオレンジの断面を想起させることからその名が付けられました。圧縮成型されたビーチ材にフォームを被せた二つの湾曲したシェルが、クロームまたはパウダーコートのスチールフレームに載る構造となっています。空間を開放的に、そして陽気に演出するその愛らしいフォルムは、発表から65年以上を経た現在も世界中で愛され続けるArtifortの代名詞的存在です。
Ribbon Chair(リボンチェア)F582
1966年に発表されたRibbon Chairは、一本のリボンが優雅にうねるかのような流麗なフォルムが特徴です。水平スプリングを内蔵した金属フレームをフォームとストレッチファブリックで覆い、ラッカー仕上げの合板台座に載せた構造となっています。メルボルンのビクトリア国立美術館をはじめ世界各地の美術館に収蔵される、応用美術の傑作として高く評価されています。
Tongue Chair(タンチェア)F577
1967年発表のTongue Chairは、舌のような大胆かつ表現力豊かな造形で知られる彫刻的なラウンジチェアです。脚のない低い姿勢のデザインは、反体制的でポップアートに影響を受けた若者のライフスタイルへの訴求を意図したものでした。金属チューブフレームにラテックスフォームとストレッチファブリックを被せた構造で、リラックスした姿勢を自然に促す流動的なフォルムを実現しています。MoMAの永久コレクションに収蔵されています。
Congo Chair(コンゴチェア)
1952年、Theo Ruthが発表したCongo Chairは、Artifortがモダンデザインへと舵を切る転換点となった記念碑的作品です。アフリカ・コンゴから持ち帰られた組み立て式の木製椅子にインスピレーションを得て開発されました。背もたれと座面が二つの独立したパーツで構成され、ネジや金具を使わずに組み合わせる「テンションフィックス」構造を採用。この革新的な設計思想は、1953年のPenguin Chairへと発展し、Artifortのデザイン哲学の礎を築きました。
F510/F511 Lounge Chair
1967年、Geoffrey D. Harcourtがデザインした500シリーズは、未来的でありながらどこか懐かしさも感じさせる独特の存在感を持つシェルシートのコレクションです。オフィスや公共空間での使用を通じて、デザインを愛する人々の住空間にも浸透していきました。堅牢な金属ベースの上に載る快適なシェルシートは、座る人を自然と招き入れ、くつろぎへと誘います。
C683 Sofa
1968年、Kho Liang Ieがデザインしたソファで、抑制された簡潔さのなかに洗練された美意識が宿る逸品です。完璧な角度で設計された座面と背もたれは、リラックスして過ごすのに最適な姿勢を提供します。水平方向のクッションステッチが特徴の背もたれは、発表から半世紀以上を経た今なお時代を超越した外観を保っています。
主なデザイナー
Pierre Paulin(ピエール・ポラン)1927-2009
フランスを代表する家具デザイナー。1958年にArtifortに参画し、以後約50年にわたる協働関係を築きました。フォームを被せた金属フレームにストレッチファブリックを張るという革新的な製法を導入し、Mushroom、Orange Slice、Ribbon、Tongueといった彫刻的なシーティングを次々と発表。その功績はフランス政府からも高く評価され、ポンピドゥー大統領、ミッテラン大統領のエリゼ宮私邸のインテリアデザインも手がけました。「椅子の製造はかなり原始的だと思っていました。新しいプロセスを考え出そうとしていたのです」という言葉に、彼の革新への飽くなき探求心が表れています。
Kho Liang Ie(コー・リャン・イェー)1927-1975
インドネシア・マゲラン生まれ、オランダで活躍したデザイナー・美学顧問。1958年にArtifortに参画し、その先見性と国際的なネットワークにより、ブランドの世界的成功に決定的な役割を果たしました。Pierre PaulinやGeoffrey D. Harcourtといった才能を発掘し、Harry Siermanとともに現在も使用されているArtifortのロゴをデザイン。自身もC683ソファなどの名作を手がけています。また、アムステルダム・スキポール空港のインテリアデザインでも知られています。
Geoffrey D. Harcourt RDI(ジェフリー・D・ハーコート)1935-
イギリス・ロンドン出身のデザイナー。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学んだ後、1962年にオックスフォードシャーに自身のスタジオを設立。Artifortとの協働により、500シリーズや042シリーズなどコントラクト市場向けの家具コレクションを多数発表し、ブランドの国際的な事業拡大に大きく貢献しました。「まず人ありき、次に椅子」という信条のもと、人間工学と美しいデザインの両立を追求。その作品はステデリック美術館、ポンピドゥー・センター、ヴィクトリア&アルバート博物館などに収蔵されています。
Theo Ruth(テオ・ルース)1915-1971
オランダ・マーストリヒト生まれ。Artifort初の専属デザイナーとして、1936年に家具職人として入社後、1939年にデザイン開発部門の責任者に就任。Congo Chair(1952年)やPenguin Chair(1953年)といった革新的な組み立て式チェアを発表し、Artifortのモダンデザインへの転換を牽引しました。Kho Liang IeやPierre Paulinの採用にも深く関わり、Artifortのデザイン伝統の礎を築いた功労者です。
現代のデザイナー
現在もArtifortは、Jasper Morrison、Patrick Norguet、Monica Förster、Luca Nichettoといった世界的デザイナーとの協働を続けています。2014年にアートディレクターに就任したイラン出身のKhodi Feizは、Bras、Beso、Aloaなどのコレクションを手がけ、Artifortの伝統を継承しながら新たな時代のデザインを牽引しています。
受賞歴・コレクション収蔵
Artifortの作品は、世界の主要な美術館・博物館の永久コレクションに収蔵されています。
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)- Mushroom Chair、Tongue Chair 他
- パリ・ポンピドゥー・センター
- パリ装飾美術館
- ロンドン・ヴィクトリア&アルバート博物館
- アムステルダム・ステデリック美術館
- メルボルン・ビクトリア国立美術館 - Ribbon Chair
- ヴァイル・アム・ライン・ヴィトラ・デザイン・ミュージアム
基本情報
| 設立 | 1890年(ブランド名「Artifort」は1928年より) |
|---|---|
| 創業者 | Jules Wagemans(ジュール・ワーヘマンス) |
| 本社所在地 | オランダ・スキンデル(Schijndel) |
| 製造拠点 | オランダ・スキンデル、ベルギー・ラナケン、トルコ・ブルサ |
| 親会社 | Lande Group(1998年より) |
| アートディレクター | Khodi Feiz(2014年より) |
| 公式サイト | https://www.artifort.com/ |