概要
ミス・ブランチは、倉俣史朗が1988年に発表したアームチェアである。座面・背もたれ・肘掛けを透明なアクリル樹脂の板で構成し、その厚みの中に造花の薔薇を封じている。脚はアルマイトで紫に染めたアルミニウムのパイプによる。
製作は株式会社イシマルが担い、コクヨがスポンサーとして協力した。工程の大半が手作業になるため製作数は限られ、コクヨによれば当初の56点にのちの18点を加えた計74点が作られたにとどまる。ポストモダン期の家具として、また倉俣が晩年に手がけたアクリルの仕事として参照されてきた。
倉俣史朗の設計思想や経歴について詳しくは倉俣史朗 プロフィールページをご覧ください。
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特徴・コンセプト
樹脂の内側に置く
アクリル樹脂は液状で流し込み、硬化させて固める。この途中で対象を沈めれば、それは板の厚みの中に留まる。表面に貼る方法や模様として刷る方法と違い、薔薇は板の内部で位置が定まり、後から動かすことも取り出すこともできない。
狙った高さに薔薇を浮かせるには、樹脂が固まるまでのあいだ花をその位置に押さえ続ける必要がある。ニューヨーク近代美術館は、ピンセットで一輪ずつ保持しながら周囲の樹脂を硬化させたと記録している。透明な板に気泡が残れば封じた花の見え方が損なわれるため、流し込みにも泡を巻き込まない進め方が要る。工程が手作業に寄ったのはこの条件によるもので、製作数が限られた理由でもある。
薔薇が造花である理由
倉俣は当初、生花の薔薇を封じることを試みている。しかし花は樹脂の中で焼けてしまい、造花に替えられた。ニューヨーク近代美術館は、ブランチ・デュボワが偽りの人物である以上、素材も偽物でなければならない、という倉俣の言葉を伝えている。素材の側の制約から出た変更が、名称との対応をつくったことになる。
板を組み、脚を差し込む
本体は一体の殻ではなく、座面・背もたれ・左右の肘掛けを別々の板として作り、組み合わせている。サンフランシスコ近代美術館は、肘掛けと背もたれが全体の一部としてではなく個々の要素として見えるよう、接合と比率が決められていると説明する。透明な板が交わる線が、そのまま椅子の輪郭を描く。
脚は座面裏に彫られた溝へ差し込む方式をとり、抜き取ることができる。
エピソード
コクヨの協力とKAGU展
コクヨは1987年、家具商品のデザインを見直すにあたり、当時副社長だった黒田章裕が建築家の安藤忠雄を介して倉俣と会っている。倉俣は画一的な事務椅子ではなく、働く人がそれぞれ椅子を選べるという考えを示し、薔薇の模様の生地を張った事務椅子を制作した。
この事務椅子と、同じ時期に設計していたミス・ブランチは、1988年、東京デザイナーズウィークの一環としてアクシス・ギャラリーで開かれた「KAGU」展に出品された。コクヨは同展にスポンサーとして協力している。翌1989年には、パリのギャルリー・イヴ・ガストゥで開かれた個展でも展示された。
プロトタイプと肘掛けの変更
最初のプロトタイプは1点だけ作られ、コクヨが保管している。一般に知られる形は、このプロトタイプをもとに肘掛けのデザインを変更したものである。
名称と赤い薔薇
名称は、テネシー・ウィリアムズの戯曲『欲望という名の電車』の登場人物ブランチ・デュボワによる。倉俣は同作の映画を観たと語っており、封じられた赤い薔薇は、彼女が身に着けていた花、あるいは衣服の模様だったとされる。
ただし倉俣が観たとされる映画はモノクロで、赤い薔薇は画面に映らない。当時クラマタデザイン事務所に在籍したスタッフは、倉俣の話には倉俣にしか見えていないものが登場したと述べている。
倉俣の没後
倉俣は1991年に没した。コクヨは、作品に関する権利が分散せずに保護されることを望み、ミス・ブランチの製造販売権を著作権継承者であるクラマタデザイン事務所へ返却している。
評価と影響
一般的に、倉俣の晩年の仕事を代表する椅子として扱われている。国内外の美術館が収蔵し、回顧展では展示の中心に置かれることが多い。
ブリュッセルのデザイン美術館は、この椅子を、倉俣がアクリルという素材の表現力を探った一連の仕事の最初のものとして位置づけている。大阪中之島美術館は、椅子としての機能を持ちながらオブジェのような存在感をもつ点を挙げ、家具か美術かという問いとあわせて紹介している。
収蔵
ニューヨーク近代美術館は1998年に収蔵番号202.1998で収蔵しており、同館の記録では、この1点が56点からなる連作の42番とされている。サンフランシスコ近代美術館は収蔵番号91.27.A-E、ブリュッセルのデザイン美術館は収蔵番号PLAS.1036で収蔵する。
国内では、富山県美術館、石橋財団アーティゾン美術館、大阪中之島美術館が、それぞれ自館の展覧会資料で所蔵を公表している。いずれも収蔵番号は公開されていない。
基本情報
| デザイナー | 倉俣史朗 |
|---|---|
| 製作 | イシマル(スポンサー協力:コクヨ) |
| 発表年 | 1988年(発売は1989年) |
| デザインの成立国 | Japan |
| 主要素材 | アクリル樹脂、造花、アルマイト染色仕上げのアルミニウムパイプ |
| サイズ | 手作業による製作のため記録に差がある(ニューヨーク近代美術館収蔵品:幅632 × 奥行594 × 高さ943mm/JAPAN Design Resource Database の登録値:幅620 × 奥行600 × 高さ875mm) |
| 製作数 | 当初56点、のちに18点を追加した計74点 |
Reference
- Miss Blanche(ミス・ブランチ) | JAPAN Design Resource Database
- https://designdesigndesign.jp/database/12_01/
- Shiro Kuramata. Miss Blanche Chair. 1988 | The Museum of Modern Art
- https://www.moma.org/collection/works/2630
- Shiro Kuramata, Miss Blanche chair, 1988 | SFMOMA
- https://www.sfmoma.org/artwork/91.27.A-E/
- Miss Blanche | Design Museum Brussels
- https://collection.designmuseum.brussels/en/miss-blanche
- Osaka Art & Design 2024に倉俣史朗氏の作品「ミス・ブランチ」が特別展示 | コクヨ
- https://www.kokuyo.com/news/release/osaka_art_design_2024/
- 1988年 倉俣史朗「ミス・ブランチ」を発表 | コクヨ ファニチャー(Internet Archive 保存版)
- https://web.archive.org/web/20260306082405/https://www.kokuyo-furniture.co.jp/company/history/article_04.html
- 倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙 | 富山県美術館
- https://tad-toyama.jp/exhibition-event/17929
- 倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙 | 京都国立近代美術館
- https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionarchive/2024/459.html
- TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション | 大阪中之島美術館
- https://nakka-art.jp/exhibition-post/trio-2024/