概要

ノトは、ドイツのケルン近郊ヒュルトに拠点を置く設計事務所である。バング&オルフセンのスピーカーを継続して担当し、建築の構法を機器の筐体に持ち込む方法をとる。案件の成果をスタジオ名義で公表する方針をとるため、ユリアン・ゾンマーヨハネス・オットら担当者の氏名は原則として表に出ない。

スタジオの概要

ノト(Noto GmbH)は、ドイツ・ケルン近郊のヒュルトを拠点とするプロダクトデザイン事務所である。トルステン・フラッケンポールとアンドレ・ポウルハイムが設立し、20年以上にわたって工業製品のデザインと製品戦略を手がけてきた。

事務所が入るのは旧鋳造所の多層構造の建屋で、天井には当時のクレーンが残る。さまざまなサイズの3Dプリンターを備えた作業室を持ち、社内で試作を回す体制をとる。ケルンのデザイン界における知られざる実力者と紹介されることが多い。

顧客はバング&オルフセン、ゼンハイザー、スイスコム、グラーフ・フォン・ファーバーカステル、NUK、ファーウェイなど。なかでもバング&オルフセンとは2010年代前半から長期のパートナーシップを結び、同社のスピーカーとオーディオ機器の主要な製品群を継続して担当している。

デザインの思想とアプローチ

ノトの仕事は、音響上の要求と室内における佇まいの両方を同時に満たすことを課題とする。技術的な性能を優先して形が決まるのでもなく、外観のために性能を犠牲にするのでもない、その中間を探る進め方をとる。

建築の構法を機器へ

ベオラブ 90では、ドイツの建築家フライ・オットーが用いた4点支持の膜構造を参照している。最小の構造で最大の張力を得るというこの構法をスピーカーの外皮に適用し、張られた織物が音に反応して微細に動くことで、光の反射が変化する状態をつくった。角度によって見え方が変わるという性格は、この機種が音の指向性を室内で移動させられる点に対応している。

製品ファミリーとしての設計

ノトはバング&オルフセンのために設計した一連の機種を、共通の幾何学的な基本形態を出発点とする一続きの製品群として説明している。ベオサウンド シアター、ベオラブ 28、ベオラブ 50、ベオラブ 8は、丸みを帯びた輪郭と滑らかな側面という同じ語法を共有する。この共通性は音響上の要求からも導かれており、造形の統一と性能が同じ理由で成立している。

素材による室内への接続

織物とオーク材を主要な素材として用いる。ベオラブ 50では、背面に並べたオークの桟が通常の角度からは背面を視覚的に閉じつつ、後方へ向いたサブウーファーには十分な通気を確保する。機器としての要求と家具としての見え方を、一つの部材で同時に満たす解き方である。

設計者名を出さない方針

ノトは案件の成果をスタジオ名義で公表する方針をとっており、担当デザイナーの氏名が明示される例は多くない。例外的に、ヨハネス・オットユリアン・ゾンマーがベオラブ 28のリードデザイナーとして公表されている。

作品の特徴

担当してきたのは、家庭内に置かれる音響機器という制約の強い領域である。大型で重量があり、音響性能のために形状の自由度が限られる製品を、室内の家具として成立させる点に仕事の中心がある。

織物による外皮
ドライバーを覆う織物を主要素材として扱い、音響性能を損なわずに新しい輪郭をつくる
木材による家具化
オーク材の桟やパネルを組み合わせ、電子機器をバング&オルフセンの他の製品群と視覚的に接続する
設置方法の多様化
ベオラブ 8では、床置き、卓上、壁掛け、天井吊りの各方式に対応するスタンドとブラケットを開発。どの取り付け方でも成立する形状が条件となった
状態の可視化
ベオラブ 8では、前面の隙間に隠した表示によって指向性制御の動作状態を示す。操作の結果を使い手に返す仕組みを外形に組み込む
インターフェースの実験
ベオサウンド モーメントは両面のインターフェースを持ち、その一方はタッチに反応するオーク材で構成される

主な代表作とその特徴

バング&オルフセンのスピーカー

ベオラブ 90(2015年)

バング&オルフセン創業90年を記念して開発されたフラッグシップ機。ビームコントロールとアクティブコンペンセーションにより、音の定位を室内の任意の位置に置き、環境に応じてダイナミックレンジを自動調整する。ノトは主要素材に織物を選び、フライ・オットーの4点支持膜構造を参照した外皮を与えた。角度によって外観が変わることが、音の定位を移動できるという製品の性格に対応している。

ベオラブ 50(2017年)

ベオラブ 90に続く上位機。背面に並べたオークの桟が、視覚的な閉鎖と後方サブウーファーの通気という二つの要求を同時に満たす。ベオラブ 5の後継とするか、ベオラブ 90の弟機とするかという製品上の位置づけの検討から設計が始まった。

ベオラブ 28(2021年)

細長い縦型のワイヤレススピーカー。ヨハネス・オットとユリアン・ゾンマーがリードデザイナーを務めた。音響上の革新と室内での佇まいを両立させる、ノトとバング&オルフセンの協働の延長にある製品として位置づけられている。

ベオラブ 8

同社の製品群のなかで最も設置の自由度が高いスピーカー。床置きスタンド、卓上スタンド、壁面ブラケット、天井ブラケットのいずれにも対応し、どの取り付け方でも各方向からの見え方が成立するよう設計されている。丸みのある輪郭と滑らかな側面は、ベオサウンド シアター、ベオラブ 28、ベオラブ 50と共通の語法にあたる。

オーディオシステム

ベオサウンド モーメント

両面のインターフェースを持つ音楽再生システム。片面はタッチに反応するオーク材で構成され、木材を操作面として扱う点に特徴がある。ノトとバング&オルフセンの協働の初期にあたる製品である。

ベオサウンド エッセンス

壁面に取り付ける小型のコントローラーを中心とした音楽システム。操作を最小限の要素に絞る方向で設計されている。

ベオサウンド シアター

テレビと組み合わせるサウンドバー型の製品。ベオラブ 28以降の製品群と共通の基本形態を持つ。

功績・業績

  • トルステン・フラッケンポールとアンドレ・ポウルハイムが設立、20年以上の実績
  • 2010年代前半 バング&オルフセンとのパートナーシップを開始
  • 2015年 ベオラブ 90を発表(バング&オルフセン創業90年記念機)
  • 2017年 ベオラブ 50を発表
  • 2021年 ベオラブ 28を発表
  • 顧客にゼンハイザー、スイスコム、グラーフ・フォン・ファーバーカステル、NUK、ファーウェイなど

評価・後世に与えた影響

ノトの位置づけは、バング&オルフセンが外部の設計者に主要製品を委ねてきた体制のなかで理解される。ヤコブ・イェンセンからデイヴィッド・ルイストーステン・ヴァルーアへと続いたコペンハーゲンの系譜に対し、ノトはドイツから加わった設計者として、2010年代以降のスピーカー製品群を担ってきた。

造形上の貢献としては、織物と木材を用いて大型スピーカーを室内の家具の側へ寄せた点が挙げられる。音響性能を高めるほど筐体は大きくなるという制約に対し、素材と表面の扱いによって存在感を調整するという解き方をとった。ベオラブ 90で建築の膜構造を参照した手法は、その典型にあたる。

複数の機種にわたって共通の基本形態を維持する方針は、単発の製品ではなく製品群としての一貫性を求める現在のメーカーの要求に対応している。バング&オルフセンの副社長であるマリー・シュミットは、ノトについてブランドの文化と製品の複雑さを理解したうえで単純な解に到達する点を評価している。

収蔵

4館のAPI(MoMA、V&A、Met、AIC)で照合したが、該当する収蔵は確認できなかった。ドイツ国内の館については照合手段がない。

なお、メトロポリタン美術館には「Noto」を含む名義の作品が収蔵されているが、これはイタリアの写真家ジョルジョ・ディ・ノト(1990年生まれ)によるもので、本事務所とは別にあたる。

作品一覧

区分 作品名 ブランド
2010年代前半 オーディオ ベオサウンド モーメント(Beosound Moment) Bang & Olufsen
2010年代前半 オーディオ ベオサウンド エッセンス(Beosound Essence) Bang & Olufsen
2015年 スピーカー ベオラブ 90(Beolab 90) Bang & Olufsen
2017年 スピーカー ベオラブ 50(Beolab 50) Bang & Olufsen
2021年 スピーカー ベオラブ 28(Beolab 28) Bang & Olufsen
2020年代 オーディオ ベオサウンド シアター(Beosound Theatre) Bang & Olufsen
2020年代 スピーカー ベオラブ 8(Beolab 8) Bang & Olufsen
- 文具 パーフェクト ペンシル プロジェクト ステラ Graf von Faber-Castell

スタジオ情報

拠点 ドイツ・ヒュルト(ケルン近郊)
分野 音響機器、工業製品
主な協働ブランド Bang & Olufsen
公表方針 案件の成果はスタジオ名義で公表

Reference

Bang & Olufsen | Beolab90 - Noto
https://noto.design/projects/bang-olufsen-beolab90/
Bang & Olufsen | Beolab 50 - Noto
https://noto.design/projects/bang-olufsen-beolab-50/
Bang Olufsen | Beolab28 - Noto
https://noto.design/projects/bang-olufsen-beolab28/
Beolab 8 | Bang & Olufsen - Noto
https://noto.design/projects/beolab-8-bang-olufsen/
Behind the scenes: Beolab 50 - Bang & Olufsen
https://www.bang-olufsen.com/en/us/story/beolab-50-behind-the-scenes
Noto Design - Behance
https://www.behance.net/noto_design