バイオグラフィー
1939年2月19日、イギリス・ロンドン生まれ。本名デイヴィッド・ウィットフィールド・ルイス(David Whitfield Lewis)。幼少期よりデンマークのデザインと建築に強い関心を抱き、当初は家具デザイナーを志すも、ロンドンのセントラル・スクール・オブ・アート・アンド・デザイン(現セントラル・セント・マーチンズ)の家具科が定員に達していたため、インダストリアルデザインの道を選ぶ。1957年から1960年まで同校に学び、卒業と同時に王立芸術協会(RSA)の奨学金を授与された。
在学中にロンドンでナニーとして働いていたデンマーク人女性マリアンヌと出会い、やがて結婚。1960年代初頭にデンマークへ移住し、以後、同国を終生の拠点とする。1965年、デンマークを代表するオーディオ・ビジュアル・ブランド、バング&オルフセン(Bang & Olufsen、以下B&O)にフリーランスデザイナーとして参画。当初はB&Oの外部デザイナーであったヤコブ・イェンセンのもとで働き、両者の最初の協働作品となったBeolab 5000システムは、「スライドルール」モチーフと木材×アルミニウムの調和が高い評価を得て、1967年にiFデザイン賞を受賞した。
1968年からはもう一人のB&O外部デザイナー、ヘニング・モルデンハワーのもとで1980年まで協働し、Beovision 600をはじめ数々の製品を手がける。1982年(一部資料では1970年代後半とも)にコペンハーゲンにて自身のデザインスタジオ「David Lewis Designers」を設立。同時期にB&Oのチーフデザイナーに就任し、以後約30年にわたり、フリーランスという独立した立場を維持しながら同社のデザイン方向性を主導した。この独特のフリーランス関係により、マーケティング部門やエンジニアに対しても妥協なき美的信念を貫く自由が確保され、数々のアイコニックな製品が生み出された。
B&O以外にも、エリック・ヨルゲンセン(Erik Jørgensen)のためのソファ、ヴェストフロスト(Vestfrost)の冷蔵庫、ヴォス(Voss)やエレクトロラックス(Electrolux)のキッチン機器、L. Goofの歯科用機器(受賞歴あり)、ASUS NX90ラップトップなど、幅広い分野で活躍した。2011年11月8日、短い闘病の末、デンマークにて家族に見守られながら逝去。享年72歳。遺志に基づき、David Lewis Designersはスタジオディレクターのトーステン・ヴァルール(Torsten Valeur)のもとで活動を継続し、2018年にValeur Designersへと名称を変更して現在に至る。
デザインの思想とアプローチ
デイヴィッド・ルイスのデザイン哲学は、「形態は内容の延長にすぎない(Form is nothing more than an extension of content)」という言葉に凝縮される。テクノロジーが人間に奉仕すべきであり、その逆であってはならないという信念のもと、複雑さを排し、簡潔さの中に深みを追求した。「物事を複雑にしなければしないほど、人々はそれをより興味深く感じる」と語り、ガジェット主義や過剰な機能の搭載に一貫して異を唱えた。
その設計プロセスは、きわめてアナログ的であった。コンピュータを「抑制的すぎ、扱いが複雑すぎる」として退け、鉛筆と紙による手描きのスケッチ、段ボールやプラスチックの模型による立体的な検証を好んだ。6名程度の少数精鋭チームと月に数日だけ集まり、残りの時間はそれぞれが独立してアイデアを練るという独自の方法論を採用。美術館やアンティークディーラーへの定期的な訪問からインスピレーションを得ると同時に、日常の苛立ち――たとえば土曜の午後にサッカーを観戦しているときのテレビ画面への映り込み――が革新的な技術開発の契機となることもあった。
ルイスは「なぜ?」とは問わず、常に「なぜだめなのか?(Why not?)」と問い続けた。B&OのCEOが製品の奥行きをわずか数センチ増やすよう要請した際にも毅然としてこれを拒否し、結果としてその妥協なき姿勢がダイヤモンドカッティングによるアルミニウム加工など、素材とエンジニアリングにおける革新的な技術発展を促した。製品は最低10年間の耐久性と魅力を持つべきであり、不要なモデルチェンジではなく、真に必要とされたときにのみ新製品を世に送り出すという「スロー・エボリューション」の理念を貫いた。
作品の特徴
ルイスの作品群を貫く最大の特徴は、テクノロジーを生活空間に調和させるという徹底した意志である。従来の家電製品が「マットブラックの箱」として部屋の隅に追いやられていた時代に、ルイスはアルミニウム、ガラス、高品質のアノダイズ仕上げといった素材を駆使し、使用していないときにも空間の美的要素として成立する製品を追求した。
テレビジョン:「消えた水槽」への挑戦
ルイスにとってテレビは、電源が切られた状態では「水槽と、居間を覗き込む目の間のようなもの」であった。Beovision MXシリーズにおいてはB&O初の自社デザインテレビを実現し、コントラストスクリーンやステレオサウンドの統合、モニターのような軽快な佇まいにより、テレビを部屋の中央にさえ配置できるインテリアオブジェへと昇華させた。後にはモーターベースによる自動回転機能を導入し、視聴者がテレビに合わせるのではなく、テレビが視聴者に向きを変えるという発想を具現化した。
スピーカー:「黒い箱への反乱」
「BeoLabスピーカーは、無関心と、家の隅でうなるような重い木製の箱への反乱である」というルイスの言葉は、スピーカーデザインに対する彼の根本的な問いかけを端的に示している。BeoLab 8000はフリーマーケットで見つけたオルガンパイプにインスピレーションを得た細身のシルエットで、以後無数の模倣品を生んだ。周囲の色彩を映し込むポリッシュドアルミニウムの採用は、スピーカーが家具から際立ちつつも調和するという、相反する要求を同時に満たすものであった。
オーディオシステム:見せる音楽体験
BeoSound 9000に代表されるように、ルイスは音楽メディアを「隠す」のではなく「見せる」ことで、使用体験そのものをデザインの一部とした。6枚のCDが一列に並ぶ透明なガラス蓋のデザインは、家族それぞれが好みのCDをセットし、その存在を視覚的にも楽しめる「ファミリーマシン」としての思想を体現している。BeoSound Ouvertureでは世界初となるCDの垂直再生を実現し、壁掛け設置を可能にするとともに、手を近づけるだけでガラスドアが自動的に開く直感的なインターフェースを導入した。
主な代表作とその特徴・エピソード
Beolab 5000(1965年、ヤコブ・イェンセンとの協働)
ルイスがB&Oに参画して最初に携わった製品。アンプ、ラジオチューナー、スピーカーで構成されるシステムで、チーク材やローズウッドとシルバーの組み合わせに「スライドルール」モチーフの操作パネルを備え、ボリュームやバス、トレブルのセレクターを滑らせる操作性が高く評価された。1967年にiFデザイン賞を受賞し、B&Oのデザインアイデンティティの基礎を築いた作品として位置づけられている。
Beovision 600(1970年、ヘニング・モルデンハワーとの協働)
17インチのテレビセットで、部屋間の移動を前提にデザインされたB&O初の可搬型テレビ。キャスター付きスタンドと収納可能なサイドハンドルを備え、移動時にはポータブルに、設置時には据え置きの佇まいに変化する二面性を持つ。iFデザイン賞を受賞し、ルイスの初期を代表するアイコンとなった。
Beovision MX 2000(1985年)
B&O初の自社デザインテレビシリーズであるMXファミリーの中核。モニターのような軽快なフォルムにコントラストスクリーン、VisionClear技術を統合し、テレビを壁際から解放して部屋の中央にも置ける自由な配置を実現した。1986年にデンマークIDプライズを受賞。MXシリーズはその後も進化を重ね、MX 7000ではB&O独自のモーターベースを導入するに至った。
Beocord VX5000(1989年)
B&Oのフラッグシップ・ビデオレコーダー。最大9チャンネルの同時表示機能を搭載し、鋼鉄、アルミニウム、プラスチックによる精緻な仕上げが施された。ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵されている3作品の一つ。
BeoSound Ouverture(1991年)
世界初のCDの垂直再生を実現したハイファイ・システム。壁掛け設置が可能なフラットなアルミニウム筐体に、手を近づけると自動的に開くガラスドアを備える。セットしたCDを直立した状態で見せるデザインは、音楽メディアの存在感を際立たせるルイスの思想を端的に表現している。
BeoLab 8000(1992年)
フリーマーケットで見つけたオルガンパイプにインスピレーションを得た、細身の円柱型アクティブスピーカー。ポリッシュドアルミニウムの外装は周囲の空間の色彩を映し込み、家具として空間に溶け込むと同時にその存在感を主張する。その革新的なフォルムは発表以来無数の模倣品を生み出した。MoMA永久コレクション収蔵。1993年にiFデザイン賞受賞。
BeoLab 6000(1992年)
BeoLab 8000の思想を継承しつつ、よりコンパクトな形態を実現したアクティブスピーカー。わずか3リットルの内容積から最大限の音響を引き出し、シルバー、ブラック、グレー、ブルー、レッド、グリーンなど豊富なカラーバリエーションを展開した。MoMA永久コレクション収蔵。1993年にiFデザイン賞受賞。
BeoSound 9000(1996年)
ルイスの最も象徴的な作品の一つ。6枚のCDを一列に並べて表示する横長のガラス筐体は、音楽を「ブラックボックスに隠す」のではなく「誇らしげに見せる」という哲学の結晶であった。自動ガラスドア、世界最速のCDチェンジャー機構を搭載し、壁掛け・スタンド設置の両方に対応。2023年にはB&Oにより「Beosystem 9000c」として復刻されている。
BeoLab 5(2003年)
B&Oのフラッグシップ・スピーカー。アコースティック・レンズ・テクノロジー(ALT)を初めて搭載し、180度の広範な音場を実現した全デジタル・スピーカー。ルイスのデザインによりコンパクトな筐体に収められなければ、通常の戸棚ほどの大きさになっていたとされる。その独特のフォルムは「ダーレク」に例えられることもあった。
Samsung Serenata(2007年、Samsung/B&Oコラボレーション)
サムスンとB&Oのコラボレーションによる音楽携帯電話。ICEpower技術を搭載し、ルイスらしいアルミニウムの精緻な仕上げが施された。B&Oの音響技術とモバイルデバイスの融合という新たな領域への挑戦であった。
功績・業績
デイヴィッド・ルイスは、半世紀近くにわたりバング&オルフセンのデザインを牽引し、同社を世界的なデザインブランドとして確立する上で中心的な役割を果たした。チーフデザイナーとして1980年代以降のほぼすべてのB&O製品のデザイン方向性を決定し、木材とメタルの古典的な北欧デザインから、ガラス、アルミニウム、高品質アノダイズ仕上げによる現代的な造形言語への転換を主導した。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久デザインコレクションにはBeocord VX5000、Beovox Conaサブウーファー、BeoLab 6000の3作品が収蔵されており、家電製品がデザインの芸術的領域において認められることを示す顕著な事例となっている。
ルイスが受けた主要な栄誉は以下の通りである。
- ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(RDI)
- 1995年、英国王立芸術・製造・商業奨励協会(RSA)より授与。産業における卓越した創造的デザインを達成したイギリス国民に贈られる称号で、同時保持者は100名に限定される。
- ダネブロー勲章ナイト
- 2002年、デンマーク女王マルグレーテ2世より授与。デンマークの利益に特別な貢献を果たした人物に贈られる。
- デンマーク・デザイン・カウンシル年間賞
- 2003年度。「実践的または理論的に優れた成果を達成した人物」への年間賞として授与。
- 英国王立建築家協会(RIBA)名誉フェロー
- 2007年授与。
- デンマークIDプライズ
- 1976年、1982年、1986年、1990年、1994年の計5回受賞。
- 日本グッドデザイン賞(Gマーク)
- 1989年、1990年、1991年、1993年、1994年、1996年、1998年に受賞。1992年にはグッドデザイン大賞(グランプリ)を受賞。
- iFデザイン賞
- 1967年(Beolab 5000)、1993年(BeoLab 6000、BeoLab 8000)、1998年(BeoLab 4000)ほか複数回受賞。
評価・後世に与えた影響
デイヴィッド・ルイスは、家電製品のデザインを機能的な工業製品の枠組みから解放し、生活空間を構成する文化的オブジェクトへと昇華させた先駆者として高く評価されている。「テクノロジーの混乱を片付けよう、シンプルにしよう(Let's clean up and simplify the technological mess)」というその信念は、ミニマリズムとユーザー中心設計の潮流において今なお重要な指針とされている。
ルイスの最大の遺産は、デザインが技術に従属するのではなく、技術がデザインの要求に応えるべきであるという価値観をB&Oという企業文化に根づかせたことにある。彼のデザイン要求がダイヤモンドカッティングによるアルミニウム加工など、素材技術の革新を促した事実は、卓越したデザインビジョンがエンジニアリングの限界を押し広げ得ることの証左である。
ルイスの逝去後、スタジオはトーステン・ヴァルールのもとValeur Designersとして活動を継続しており、「なぜ?」ではなく「なぜだめなのか?」と問い続けるルイスの精神は、次世代のデザイナーたちに受け継がれている。BeoLab 8000の精神を継承したBeoLab 18や、BeoSound 9000のリクリエイテッド・クラシック版であるBeosystem 9000cなど、ルイスのオリジナル・ビジョンに基づく製品が21世紀においても新たな形で息づいている。
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1965年 | オーディオシステム | Beolab 5000(ヤコブ・イェンセンとの協働) | Bang & Olufsen |
| 1968年頃 | テレビ | Beovision 400 | Bang & Olufsen |
| 1969年 | オーディオシステム | BeoMaster 3000 | Bang & Olufsen |
| 1970年 | テレビ | Beovision 600 / 601(ヘニング・モルデンハワーとの協働) | Bang & Olufsen |
| 1983年 | オーディオシステム | BeoCenter 2200 | Bang & Olufsen |
| 1985年 | テレビ | Beovision MX 2000 | Bang & Olufsen |
| 1985年 | リモコン | Beolink 1000 | Bang & Olufsen |
| 1985年 | スピーカー | Beovox Red Line | Bang & Olufsen |
| 1986年 | テレビ | Beovision LX 2800 | Bang & Olufsen |
| 1988年頃 | ビデオレコーダー | Beocord VX5000 | Bang & Olufsen |
| 1991年 | オーディオシステム | BeoSound Ouverture | Bang & Olufsen |
| 1991年 | オーディオシステム | Beosystem 2500 | Bang & Olufsen |
| 1992年 | スピーカー | BeoLab 6000 | Bang & Olufsen |
| 1992年 | スピーカー | BeoLab 8000 | Bang & Olufsen |
| 1993年 | オーディオシステム | BeoSound Century | Bang & Olufsen |
| 1993年 | スピーカー | BeoLab LCS 9000 | Bang & Olufsen |
| 1994年 | リモコン | Beo 4 | Bang & Olufsen |
| 1995年 | テレビ | BeoVision Avant | Bang & Olufsen |
| 1995年 | アンプ | BeoLink Passive | Bang & Olufsen |
| 1996年 | オーディオシステム | BeoSound 9000 | Bang & Olufsen |
| 1997年 | テレビ | BeoCenter AV 5 | Bang & Olufsen |
| 1997年 | スピーカー | BeoLab 4000 | Bang & Olufsen |
| 1999年 | テレビ | Beovision 1 | Bang & Olufsen |
| 1999年 | スピーカー | BeoLab 1 | Bang & Olufsen |
| 2002年 | テレビ | BeoVision 5 | Bang & Olufsen |
| 2003年 | テレビ | BeoCenter 6 | Bang & Olufsen |
| 2003年 | スピーカー | BeoLab 3 | Bang & Olufsen |
| 2003年 | スピーカー | BeoLab 5 | Bang & Olufsen |
| 2006年 | オーディオシステム | BeoSound 3 | Bang & Olufsen |
| 2007年 | 携帯電話 | Samsung Serenata | Samsung / Bang & Olufsen |
| 2010年 | オーディオシステム | BeoSound 8 | Bang & Olufsen |
| 2010年 | ラップトップ | ASUS NX90 | ASUS / Bang & Olufsen |
| 年代不詳 | ソファ | ソファ(名称不詳) | Erik Jørgensen |
| 年代不詳 | キッチン機器 | 冷蔵庫ほか | Vestfrost |
| 年代不詳 | キッチン機器 | キッチン機器 | Voss / Electrolux |
| 年代不詳 | 医療機器 | 歯科用機器 | L. Goof |
Reference
- David Lewis, Iconic Designer | Bang & Olufsen
- https://www.bang-olufsen.com/en/us/story/david-lewis
- David Lewis (designer) - Wikipedia
- https://en.wikipedia.org/wiki/David_Lewis_(designer)
- David Lewis - 1939-2011 | What Hi-Fi?
- https://www.whathifi.com/news/david-lewis-1939-2011
- David Lewis | beo.zone
- https://beo.zone/en/david-lewis/
- Designer - David Lewis - Beoworld
- https://beoworld.org/designer-david-lewis/
- David Whitfield Lewis - Valeur Designers
- https://valeurdesigners.com/mr-david-lewis/
- History - Valeur Designers
- https://valeurdesigners.com/history/
- Designer David Lewis, of Bang & Olufsen Fame, Passes Away - Core77
- https://www.core77.com/posts/21007/designer-david-lewis-of-bang-olufsen-fame-passes-away-21007
- Bang and Olufsen: Design which lasts the distance - Pocket-lint
- https://www.pocket-lint.com/speakers/news/bang-and-olufsen/113013-david-lewis-bang-and-olufsen/
- David Lewis B&O | IndesignLive
- https://www.indesignlive.com/people/david-lewis-bo
- David Lewis. Beocord VX 5000 Video Cassette Recorder. 1989 | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/2359
- The History of Beolab (the Laboratory) | Bang & Olufsen
- https://www.bang-olufsen.com/en/int/story/beolab-history