革新の軌跡

1996年、CDの黄金期に登場したBeoSound 9000は、従来のオーディオシステムの概念を根底から覆す革新的なデザインで世界を驚かせました。Bang & Olufsenのチーフデザイナーを務めたデイビッド・ルイスが手掛けたこの作品は、技術を隠すのではなく、むしろ積極的に見せることで、音楽体験に新たな次元をもたらしました。

6枚のCDを一列に配置し、ガラス扉越しにその動作を鑑賞できるという斬新な発想は、単なるオーディオ機器を超えて、動く彫刻作品としての地位を確立しました。その洗練された美しさと機能性の融合は、四半世紀を経た今もなお、デザイン史上における重要な到達点として評価されています。

デザインの哲学

BeoSound 9000の誕生には、ひとつの印象的なエピソードがあります。1995年のロンドン、ソーホー地区。デイビッド・ルイスがレコードショップの前を通りかかった際、ショーウィンドウに並べられた6枚のCDアルバムを目にしました。その瞬間、音楽を「隠す」のではなく「見せる」という革命的なコンセプトが生まれたのです。

ルイスの設計哲学の中核にあったのは、製品の長寿命化という理念でした。流行に左右されることなく、時代を超えて愛される製品を創造すること。それは単に耐久性の問題ではなく、デザインそのものが持つ普遍的な価値の追求でした。彼は「形は内容の延長に過ぎない」と語り、機能と美学の完璧な調和を目指しました。

オートビジュアリティの概念

BeoSound 9000が体現する「オートビジュアリティ」は、基本機能を視覚化し、ユーザーと音楽の間により親密な関係を築くという革新的な概念です。CDの回転、クランパーの優雅な動き、そしてガラス扉の静かな開閉。これらすべての要素が、音楽鑑賞を視覚的な体験へと昇華させています。

技術革新と精密工学

BeoSound 9000の最も印象的な特徴のひとつは、その驚異的な速度で動くCDクランパー機構です。0から100km/hまで5.5秒で加速するフェラーリに匹敵する速度で移動するこのメカニズムは、6枚のCD間をシームレスに移動し、まるで1枚のCDを再生しているかのような連続性を実現しました。

この高速動作を安全に制御するため、Bang & Olufsenのエンジニアたちは「ストーリーボーディング」と呼ばれる開発手法を採用しました。映画制作から着想を得たこの手法により、あらゆる使用シナリオを予測し、センサーによる安全機構を実装。ガラス扉が開いている際には自動的に動作速度を落とし、指や異物を検知すると即座に停止するなど、最先端の安全技術が組み込まれています。

細部へのこだわり

BeoSound 9000の優れたデザインは、その細部にまで及んでいます。本体は7つの異なる配置方法に対応し、垂直・水平・斜めのいずれの設置でも完璧に動作します。Bang & Olufsenのロゴが配置された円形プレートは回転可能で、どの向きに設置してもロゴが正しい方向を向くよう配慮されています。

さらに驚くべきは、コントロールパネルの可逆性です。磁石で固定されたパネルは、電源を入れたまま取り外して180度回転させることができ、その際ディスプレイも自動的に反転します。また、CDは再生後、最初に挿入された際の向きに自動的に戻される機能も備えており、アルバムアートワークが常に読みやすい向きで表示されます。

文化的影響と評価

BeoSound 9000は、その革新性により数多くの栄誉を受けています。発売直後から「これまでに設計された最も象徴的な音楽システム」と評され、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションにも選定されました。また、iFデザイン賞をはじめとする国際的なデザイン賞を多数受賞し、工業デザインの歴史に確固たる地位を築きました。

映画やテレビドラマでの露出も多く、特に高級感や洗練された生活様式を表現する際の象徴的な小道具として頻繁に登場しました。その存在感は単なる音響機器を超え、オーナーの審美眼と文化的素養を表現するステートメントピースとしての役割を果たしてきました。

現代への継承

2024年、Bang & Olufsenは「Recreated Classics Programme」の一環として、限定200台のBeosystem 9000cを発表しました。オリジナルのBeoSound 9000を工場で完全に分解・再構築し、Bluetooth接続などの現代的な機能を追加。デンマークのストルーアにあるFactory 3では、1996年当時の製造に携わった職人たちが、同じ作業台を使用して復刻作業を行うという、まさに時を超えた職人技の継承が実現しました。

55,000ドルという価格設定にもかかわらず、即座に完売したこの限定版は、BeoSound 9000が持つ不朽の価値を改めて証明しました。CDという物理メディアが過去のものとなりつつある現代において、なおその存在感を失わないBeoSound 9000は、真のデザインアイコンが持つべき普遍性を体現しています。

基本情報

製品名 BeoSound 9000
メーカー Bang & Olufsen
デザイナー デイビッド・ルイス(David Lewis)
発売年 1996年
製造期間 1996年〜2011年
寸法 W900 × H70 × D300 mm
重量 11.5 kg
仕上げ ブラック/アルミニウム、ブラック/ホワイト(1500台限定)
CD容量 6枚
ラジオ FM/AM(60局プリセット、RDS対応)
消費電力 通常12W、スタンバイ時1.2W以下
接続端子 Power Link、AUX、MasterLink、デジタル出力(S/PDIF)、ヘッドフォン
主な受賞歴 iFデザイン賞、グッドデザイン賞(日本)、MoMAパーマネントコレクション選定
参考価格(1996年発売時) 5,650マルク(ドイツ)