ヤコブ・イェンセン ― 音響デザインの地平を拓いたデンマーク・モダンの巨匠
ヤコブ・イェンセン(Jacob Jensen、1926年4月29日 – 2015年5月15日)は、デンマークが生んだ20世紀を代表するインダストリアルデザイナーである。バング&オルフセン(Bang & Olufsen)のチーフデザイナーとして四半世紀以上にわたり200を超える製品を手がけ、オーディオ機器のデザイン言語を根底から刷新した。ブラッシュドアルミニウム、黒と白のプラスチック、水平基調のミニマルなフォルム——イェンセンが確立したその造形哲学は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに17作品が収蔵されるなど、世界の美術館やデザイン史において比類なき評価を受けている。
バング&オルフセンの仕事にとどまらず、その生涯で500を超える工業製品をデザインし、腕時計、電話機、オフィスチェア、キッチン家電、風力タービンに至るまで、あらゆる日用品に同等の美意識と機能性を注ぎ込んだ。「Different, but not strange(異なっているが、奇異ではない)」という自らの信条のもと、デンマーク・モダン運動の中心的存在として、アルネ・ヤコブセンやポール・ヘニングセンらと並び称される巨匠である。
バイオグラフィー
生い立ちと修業時代
1926年、コペンハーゲンのヴェスタブロ地区に、家具職人アルフレッド・イェンセンとオルガ・イェンセンの息子として生まれる。7年生で学校教育を終え、1942年に16歳で椅子張り職人の見習いとなった。やがて父の小さな家具工房で働きながら椅子やベッドのデザインを始め、その才能は自作の椅子がフレゼリク9世国王より銅メダルを授与されるという形で早くも開花する。この成功に励まされ、1948年にコペンハーゲン工芸美術学校(Danmarks Designskole、現デンマーク王立芸術アカデミー・デザインスクール)に入学。家具デザイン科に在籍したのち、建築家ヨーン・ウッツォン(Jørn Utzon)が新設したインダストリアルデザイン科に移り、1952年に同科の第一期卒業生となった。日用品の大量生産を見据えたこの新学科での経験は、のちのイェンセンのデザイン哲学の礎となる。
ベルナドッテ&ビョルンでの研鑽とマルグレーテ・ボウル
1952年から1958年にかけて、デンマーク初のインダストリアルデザイン事務所であるベルナドッテ&ビョルン(Bernadotte & Bjørn)に所属。スウェーデン王室のシグヴァルド・ベルナドッテ伯爵とデンマークの建築家アクトン・ビョルンが1949年に設立したこの事務所で、イェンセンは調理器具から磁器、X線装置、タイプライター、インターホンシステムに至る多岐にわたる製品デザインに携わった。
中でも1954年にロスティ社(Rosti)のためにデザインしたマルグレーテ・ボウルは、メラミン樹脂製のミキシングボウルとして空前のヒットとなり、イェンセン最初の商業的成功となった。デンマーク王女(のちのマルグレーテ2世女王)にちなんで名付けられたこのボウルは、底面の滑り止めゴムリングやスタッキング可能なデザインが高く評価され、今日まで全世界で2500万個以上を販売するデザインの古典として生産が続けられている。
アメリカでの経験
ベルナドッテ&ビョルン退所後、イェンセンは研鑽の場をアメリカに求めた。ニューヨークでは「インダストリアルデザインの父」と称されるレイモンド・ローウィ(Raymond Loewy)のもとで働き、ローウィの消費者志向のデザイン思想——すなわちMAYA原則(Most Advanced Yet Acceptable=最も先進的でありながら受容可能)——を深く吸収した。その後シカゴに移り、デザイン事務所ラタム・タイラー&イェンセン(Latham, Tyler & Jensen)のパートナーとなるとともに、シカゴ大学でインダストリアルデザインの助教授を務めた(1959年〜1961年)。ゼネラル・エレクトリック社のオーディオ機器デザインも手がけ、この時期に得た経験が、帰国後のバング&オルフセンとの出会いへとつながっていく。
ヤコブ・イェンセン・デザイン設立
1958年、コペンハーゲンのストランゲーゼ(Strandgade)に自身のデザインスタジオ「ヤコブ・イェンセン・インダストリアル・フォームギヴィング」を設立。1966年にはユトランド半島北部、リムフィヨルドを望むハイルスコウ(Hejlskov)の丘陵地に拠点を移した。この静謐な北欧の風景が、イェンセンの厳格で水平的なミニマリズムに大きなインスピレーションを与えたとされる。スタジオは1981年に「ヤコブ・イェンセン・デザイン(Jacob Jensen Design)」と改称され、現在もコペンハーゲンを拠点にデンマーク、中国、タイに拠点を持つ国際的デザインスタジオとして活動を続けている。
バング&オルフセンとの協働——音響デザインの革命
1964年、イェンセンはデンマークの高級オーディオメーカー、バング&オルフセンのチーフプロダクトデザイナーに就任する。ゼネラル・エレクトリック社やデンマークのTO-R社向けに手がけたオーディオデザインが同社の目に留まったことが契機であった。以降、約27年間にわたる協働は、バング&オルフセンを世界有数のオーディオブランドへと押し上げるとともに、家庭用電子機器デザインの概念そのものを変革した。
イェンセンが1967年に初めて手がけた完全なるオリジナル製品であるBeomaster 5000は、従来のオーディオ機器の常識を覆す薄型・水平型のデザインで衝撃を与えた。当時のデンマーク紙がこれを「二本の葉巻箱に収まったシネマシステム」と評したように、そのラディカルな造形は業界に波紋を広げた。
その後もBeolit 600(1970年)、Beogram 4000(1972年)、Beomaster 1900(1976年)、BeoVox 2500キューブスピーカー、Beocenter 9000(1986年)など、数々の画期的な製品を世に送り出した。とりわけBeogram 4000ターンテーブルは、航空エンジニアのカール・グスタフ・ツェーテン(Karl Gustav Zuethen)と共同で開発した革命的なツインアーム構造を持ち、レコード盤のカッティング角度に忠実なリニアトラッキング方式を採用。リーフスプリングによる防振設計は「ダンスをしても音飛びしない」と称され、オーディオデザイン史上の金字塔として半世紀を経た今なお復刻版が製造されている。
イェンセンはまた、従来のノブやダイヤルを透明プラスチックパネルや極薄のプッシュボタン、「センシタッチ」と呼ばれるタッチセンサー式コントロールに置き換え、操作インターフェースの革新にも大きく貢献した。日常的に使う「一次機能」をフロントパネルに配し、調整頻度の低い「二次機能」をヒンジ付きの蓋の下に隠すという設計思想は、技術志向のマニアだけでなく、音楽を純粋に楽しみたい幅広いユーザーに支持された。
1978年にはニューヨーク近代美術館で個展「Bang & Olufsen — Design for Sound by Jacob Jensen」が開催され、28点のオーディオ製品が展示された。ニューヨーク・タイムズ紙の建築批評家ポール・ゴールドバーガーは、これらの作品をアメリカで入手可能な量産品の中でも最も美しいものの一つと評し、イェンセンを20世紀の主要なインダストリアルデザイナーの一人に位置づけた。バング&オルフセンとの協働は1991年まで続き、その間に約234の製品と約1500のデザインモデルが生み出された。
バング&オルフセン以外の仕事
イェンセンのデザイン活動はバング&オルフセンにとどまらない。生涯を通じて500を超える工業製品をデザインし、そのクライアントはラボファ(Labofa)のオフィスチェア、スタンダード・エレクトリック・カーク社(現カーク・テレコム)のコメット電話機(1976年)、GNダナボックスの補聴器、ロスティ・メパルのキッチン用品、アルカテル=カークの電話機、JO-JO社のケーブルリール、ダンタックス社のスピーカー、NEGミコン社の風力タービン、ガゲナウ(Gaggenau)のキッチン機器、レゴ社の玩具、ローデンストックの眼鏡フレーム、マックス・ルネ社の腕時計・天文時計・ジェンセン・ワン自動車など多岐にわたった。
「万年筆を設計するにせよ、詩を書くにせよ、劇を上演するにせよ、機関車をデザインするにせよ、すべてに同じ要素が必要だ——視野、創造力、新しいアイデア、理解、そして何よりも、ほとんど無限に繰り返し作り直す能力が」とイェンセンは語っている。日用品にも高級品と同等の注意を払うべきだというその信念は、彼が手がけたあらゆる製品に一貫して表れている。
晩年と家族の継承
1989年にバング&オルフセンのデザイン業務から引退したイェンセンは、生涯の趣味であったセーリングに戻った。1990年、息子のティモシー・ヤコブ・イェンセン(Timothy Jacob Jensen)がヤコブ・イェンセン・デザインのCEO兼チーフデザイナーに就任。ティモシーは1978年、16歳で父のスタジオに弟子入りして以来、バング&オルフセンのデザインチームにも参加しており、22歳で手がけたヤコブ・イェンセン・クラシック腕時計がMoMAのデザインコレクションに収蔵されるなど、早くからその才能を発揮した。ティモシーの指揮のもと、ヤコブ・イェンセン・ブランドは腕時計、キッチン用品、気象観測機器、煙感知器など30カ国以上に展開するスカンジナビアン・ライフスタイルブランドへと成長した。
1996年にはデンマーク政府よりダネブロ勲章ナイト十字章を叙勲。1997年には自伝『Anderledes, men ikke mærkeligt(異なっているが、奇異ではない)』を上梓した。2015年5月15日、ユトランド半島のヴィアクスンにて89歳で逝去。祖父アルフレッドが1920年に創業した椅子張り・家具事業から数えて一世紀以上にわたるイェンセン家のデザインの伝統は、ティモシーの娘であるフレーヤとトーコの世代——第4世代へと継承されている。
デザインの思想とアプローチ
「Different, but not strange」——MAYA原則の進化
イェンセンのデザイン哲学の核心は、「Different, but not strange(異なっているが、奇異ではない)」という自ら名付けた信条に集約される。これはレイモンド・ローウィのMAYA原則(Most Advanced Yet Acceptable=最も先進的でありながら受容可能)を発展させたものであり、アメリカのインターナショナル・スタイルの合理性とデンマーク新古典主義の端正な造形感覚を融合させた独自のデザイン言語であった。
イェンセンはこの原則を、バング&オルフセンをはじめアルカテル、ガゲナウ、ラボファ、ゼネラル・エレクトリックなど多様なクライアントの製品に適用した。革新的でありながら人々の生活空間に自然に溶け込む製品——それがイェンセンの終始一貫した目標であった。
ミニマリズムと水平性
イェンセンの造形的特徴は、徹底した水平基調のミニマリズムにある。ブラッシュドアルミニウム、黒と白のプラスチック、滑らかな表面、幾何学的な単純形態を用い、装飾的要素を極限まで排除した。リムフィヨルドの水平線から着想を得たとされるこの厳格な造形言語には、デンマーク新古典主義の形態感覚と色彩感覚が通底している。
バング&オルフセンの製品群において、イェンセンは従来のノブ、ダイヤル、ボタンといった物理的な操作インターフェースを根本から見直し、透明プラスチックパネル、超薄型プッシュボタン、スライディングスケールといった革新的なコントロール方式を導入した。音響機器が「技術の塊」ではなく、リビングルームの美しい調度品として存在しうることを証明したのである。
制作プロセスへのこだわり
イェンセンは自身のデザインプロセスについて独特の方法論を語っている。一つの製品に対して30〜40ものモデルを制作し、最終候補に至ったモデルを自宅リビングの卓上に置いて照明を当て、一晩そのまま過ごす。翌朝、最初の6〜7秒間の印象だけで正否を判断するのだという。この直感的な判断を重視する姿勢は、Beocenter 9000の開発にあたって約80ものコンセプトデザインを経て最終形に到達したエピソードにも表れている。
バング&オルフセンの七つの企業アイデンティティ要素
イェンセンの仕事を通じて、バング&オルフセンは「We think differently(私たちは異なる思考をする)」というスローガンとともに、七つの企業アイデンティティ要素を定義した。真正性(Authenticity)、自己視覚性(Autovisuality)、信頼性(Credibility)、家庭性(Domesticity)、本質性(Essentiality)、個性(Individuality)、発明性(Inventiveness)——これらの原則は、イェンセンのデザインを通じて体現され、今日に至るまで同社のデザイン哲学の基盤であり続けている。
作品の特徴
二次元的平面性と三次元的存在感の両立
イェンセンのオーディオ製品は、二次元的に平面化された表面を特徴としつつも、空間の中で確固たる三次元的存在感を放つ。ブラッシュドアルミニウムのパネルに黒の縁取りを施し、Helveticaフォントで機能名を刻印するという統一されたグラフィック言語は、テクノロジーの複雑さを美しい秩序へと昇華させた。Beomaster 1200が「墓石(The Tombstone)」というニックネームで呼ばれたように、その極端なまでの平面性は当初こそ物議を醸したが、やがてオーディオデザインの新たな規範となった。
操作インターフェースの革新
イェンセンは、オーディオ機器の操作体験を根本から再設計した。日常的に使用する一次機能(音量、チャンネル選択など)をフロントパネルのタッチセンサーで直感的に操作可能とし、調整頻度の低い二次機能(トレブル、バス、バランスなど)はヒンジ付きの蓋の下に収納するという二層構造を採用。これにより、技術に精通しない一般ユーザーにも親しみやすい操作体系を実現した。この設計思想はBeomaster 1900(1976年)で完成の域に達し、そのセンシタッチ式コントロールは業界に大きな影響を与えた。
素材と形態の革新
従来のオーディオ機器が木製キャビネットに収められていた時代に、イェンセンはブラッシュドアルミニウムとプラスチックの組み合わせによる新しい素材表現を確立した。BeoVox 2500キューブスピーカーにみられるように、最も基本的な幾何学形態を出発点としながら、わずかなねじれや傾斜を加えることで独自のフォルムを生み出す手法は、後のバング&オルフセンのポータブルBluetoothスピーカーの造形にまで影響を及ぼしている。
主な代表作とそのエピソード
マルグレーテ・ボウル(1954年、Rosti社)
ベルナドッテ&ビョルン時代にデザインしたメラミン樹脂製ミキシングボウル。デンマーク王女マルグレーテ(のちのマルグレーテ2世)にちなんで名付けられた。赤、白、青、黄、緑の5色、3サイズでスタッキング可能という機能美を備え、1954年のクリスマスに発売されるやたちまちベストセラーとなった。1966年に底面の滑り止めゴムリングが追加され、その後もサイズやカラーの拡充が重ねられている。累計2500万個以上を販売し、現在もロスティ社から生産が続く北欧デザインの古典である。
Beomaster 1200(1969年、Bang & Olufsen)
イェンセンがバング&オルフセンのデザイン言語を確立した記念碑的チューナー/アンプリファイア。スライディングスケールによるラジオ局チューニング、アルミニウムパネル上のプリセットボタンなど、従来のオーディオ機器とは一線を画す革新的なインターフェースを導入。1969年にデンマーク工業デザイン協会のIDプライズを受賞し、MoMAの永久デザインコレクションにも収蔵された。Beocord 1200、Beogram 1200とともにBeosystem 1200を構成し、バング&オルフセン初の「デザインされたシステム」としてその後の製品展開の方向性を決定づけた。
Beolit 600(1970年、Bang & Olufsen)
ポータブルトランジスタラジオの傑作。コンパクトなボディにイェンセンの水平ミニマリズムを凝縮し、1970年のiF賞を受賞。持ち運び可能な機器にも高いデザイン品質を実現できることを証明した一台である。
Beogram 4000(1972年、Bang & Olufsen)
イェンセンの最高傑作と広く認められるターンテーブル。航空エンジニアのカール・グスタフ・ツェーテンとの協働で開発された革命的なタンジェンシャル(リニアトラッキング)トーンアームは、針がレコード盤の溝に対して常にカッティング時と同じ角度を保つことで、より忠実な音の再現を可能にした。シャーシ全体がリーフスプリングで浮いた防振構造を持ち、「ダンスプルーフ(dance-proof)」と称された。MoMAの永久コレクションに収蔵され、2020年にはバング&オルフセンが「Recreated Classics」シリーズとしてBeogram 4000cの復刻版を発表するなど、半世紀を経てなおその革新性が讃えられている。
Beomaster 1900(1976年、Bang & Olufsen)
バング&オルフセン史上最も商業的に成功した製品の一つ。「センシタッチ」と名付けられたタッチセンサー式コントロールを初搭載し、一次機能と二次機能の階層的分離というイェンセンの操作設計思想を完成させた。ヒンジ付きの蓋を開かなくとも、照明付きの読み取りパネルで動作状態を確認できるという先進性を備え、20年以上にわたるロングセラーとなった。1976年のID賞を受賞。
U70ヘッドフォン(1970年代、Bang & Olufsen)
バング&オルフセン初のヘッドフォン製品。1978年にMoMAの展覧会「Design for Sound」に出展された28作品のうちの一つであり、オーディオ・アクセサリーにもイェンセンの造形美学が徹底して適用されたことを示す作品である。
BeoVox 2500キューブスピーカー(1970年代、Bang & Olufsen)
立方体という最も基本的な幾何学形態を出発点に、巧みなプロポーションとディテール処理によって独自の存在感を持たせたスピーカー。空間を満たす音と同様に、音を発する機器もまた空間の美しい構成要素であるべきだというイェンセンの信念を体現している。
コメット電話機 Kirk 76E(1976年、Standard Electric Kirk)
オーディオ以外の分野におけるイェンセンの代表作。タッチボタン式の革新的なインターフェースを電話機に導入し、通信機器のデザインにも「Different, but not strange」の哲学を適用した作品である。
Beocenter 9000(1986年、Bang & Olufsen)
息子ティモシーとの共同デザインによる統合型オーディオシステム。最終形に至るまでに約80ものコンセプトデザインを経たとされ、イェンセンの妥協なき制作姿勢を象徴する製品である。多くのオーディオ愛好家から「マスターピース」と評価されている。
功績・業績
受賞歴
イェンセンは、世界で最も多くのデザイン賞を受賞したプロダクトデザイナーの一人として知られ、その受賞数は約100に達する。主な受賞歴は以下の通りである。
- 1949年
- フレゼリク9世国王より椅子デザイン銅メダル
- 1966年〜1991年
- iF インダストリー・フォーラム・デザイン賞(複数回受賞)
- 1969年〜1991年
- ND ノルスク・デザイン賞(複数回受賞)
- 1972年〜1996年
- デンマークID賞(9回受賞)
- 1976年
- 日本グランプリ賞
- 1977年
- フォーチュン賞
- 1978年
- IDSA賞(アメリカ工業デザイナー協会)、MoMA個展「Design for Sound by Jacob Jensen」開催
- 1983年
- トーヴァル・ビンデスボル・メダル(デンマーク最高のデザイン賞の一つ)
- 1985年
- 国際デザイン賞(大阪)
- 1985年〜1990年
- グッドデザイン賞(複数回受賞)
- 1990年
- IDクラシックス賞
- 1996年
- ダネブロ勲章ナイト十字章叙勲、デンマーク外務省「偉大なるデンマーク人」リスト掲載
美術館コレクション
イェンセンの作品は世界各地の美術館に永久収蔵されている。とりわけニューヨーク近代美術館(MoMA)には17作品が永久デザインコレクションに、さらにデザインスタディコレクションを含めると1972年から1991年の間に19作品が収蔵された。1978年にはインダストリアルデザイナーとしては極めて異例の個展がMoMAで開催されている。ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館にもBeomaster 1900が収蔵されるなど、その作品群は20世紀デザイン史における重要な位置を占めている。
評価・後世に与えた影響
オーディオデザインの規範の確立
イェンセンがバング&オルフセンのために確立したデザイン言語——水平的なミニマリズム、ブラッシュドアルミニウムと黒のコントラスト、タッチセンサー式の直感的操作——は、同社を離れた後も今日に至るまでバング&オルフセンの製品哲学の基盤であり続けている。デイヴィッド・ルイスをはじめとする後継デザイナーたちは、イェンセンが築いた造形言語を継承・発展させ、同社のブランドアイデンティティを世界に確立した。
家庭用電子機器デザインの変革
イェンセンは、家庭用電子機器が「技術装置」ではなく「美しい家具」として生活空間に存在しうることを証明した先駆者である。1970年代に日本メーカーが席巻したラックマウント式のコンポーネントシステムに対し、イェンセンはあくまで「家庭の調度品」としてのオーディオ機器のあり方を追求し続けた。この姿勢は、バング&オルフセンが「The Best of Two Worlds」を掲げたBeosystem 5000(1983年)においても一貫して貫かれている。
デンマーク・モダンの継承と発展
イェンセンは、アルネ・ヤコブセン、ポール・ヘニングセン、モーエンス・コッホ、ヨーン・ウッツォンらとともにデンマーク・モダン運動の中心的存在と位置づけられている。家具デザインの伝統に根ざしながらも、インダストリアルデザインの領域を大きく切り拓いたイェンセンの功績は、デンマークにおけるデザイン教育の発展にも寄与した。同国初のインダストリアルデザイン科第一期卒業生という事実そのものが、デンマークのデザイン史における彼の先駆的役割を象徴している。
家族によるデザインの継承
祖父アルフレッドが1920年に創業した椅子張り・家具事業から始まるイェンセン家のデザインの系譜は、ヤコブ、ティモシー、そしてティモシーの娘たちフレーヤとトーコへと四世代にわたって受け継がれている。ティモシーはヤコブの二次元的グラフィック造形を三次元的デザインへと発展させ、「Form follows feeling(形態は感情に従う)」を信条にガゲナウ、ヴァーチュ、スタインウェイ・リンドルフ(スタインウェイ&サンズ)など世界的ブランドとの協働を展開。世界で最も多くのデザイン賞を受賞したデンマーク人デザイナー、そして世界で最も受賞歴のあるデザイン一族として、イェンセン家はインダストリアルデザイン史に類例のない足跡を残している。
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1949年 | 椅子 | 椅子(銅メダル受賞作) | 自主制作 |
| 1954年 | キッチン用品 | Margrethe Bowl(マルグレーテ・ボウル) | Rosti(Bernadotte & Bjørn) |
| 1960年頃 | オーディオ | オーディオ機器各種 | General Electric |
| 1965年 | オーディオ | Beomaster 1000(Version 2 カラー変更) | Bang & Olufsen |
| 1967年 | オーディオ | Beomaster 5000(チューナー/アンプリファイア) | Bang & Olufsen |
| 1967年 | オーディオ | Beolab 5000(スピーカー) | Bang & Olufsen |
| 1967年 | 腕時計 | ステンレススチール腕時計 | Max René |
| 1969年 | オーディオ | Beomaster 1200(チューナー/アンプリファイア) | Bang & Olufsen |
| 1969年 | オーディオ | Beogram 1200(レコードプレーヤー) | Bang & Olufsen |
| 1969年 | オーディオ | Beocord 1200(カセットレコーダー) | Bang & Olufsen |
| 1969年 | オーディオ | Beomaster 3000-2(チューナー/アンプリファイア) | Bang & Olufsen |
| 1969年 | オーディオ | Beomic 2000(マイクロフォン) | Bang & Olufsen |
| 1970年 | オーディオ | Beolit 600(ポータブルトランジスタラジオ) | Bang & Olufsen |
| 1971年 | オーディオ | Beovox 2700(スピーカー) | Bang & Olufsen |
| 1971年 | オーディオ | Beovox 3700(スピーカー) | Bang & Olufsen |
| 1971年 | オーディオ | Beolit 400(ポータブルラジオ) | Bang & Olufsen |
| 1972年 | オーディオ | Beogram 4000(ターンテーブル) | Bang & Olufsen |
| 1972年 | 電話機 | E76 タッチボタン電話機 | Alcatel-Kirk |
| 1974年 | オーディオ | Beomaster 6000(チューナー/アンプリファイア/プリアンプ) | Bang & Olufsen |
| 1974年頃 | オーディオ | Beogram 4002(ターンテーブル) | Bang & Olufsen |
| 1970年代 | オーディオ | U70(ヘッドフォン) | Bang & Olufsen |
| 1970年代 | オーディオ | BeoVox 2500(キューブスピーカー) | Bang & Olufsen |
| 1970年代 | オーディオ | Beovox C40 / C75(スピーカー) | Bang & Olufsen |
| 1976年 | 電話機 | Comet 電話機(Kirk 76E) | Standard Electric Kirk |
| 1976年 | オーディオ | Beomaster 1900(レシーバー/アンプリファイア) | Bang & Olufsen |
| 1976年 | オーディオ | Beomaster 2400(レシーバー/アンプリファイア) | Bang & Olufsen |
| 1979年 | 椅子 | オフィスチェア | Labofa A/S |
| 1970年代〜 | 補聴器 | 補聴器各種 | GN Danavox |
| 1980年代 | 玩具 | 玩具各種 | LEGO |
| 1980年代 | 時計 | 天文時計 | Max René |
| 1983年 | オーディオ | Beomaster 5000(Beosystem 5000コンポーネント) | Bang & Olufsen |
| 1983年 | オーディオ | Beocord 5000(カセットデッキ) | Bang & Olufsen |
| 1983年 | オーディオ | Beogram 5000 / 5005(レコードデッキ) | Bang & Olufsen |
| 1984年頃 | 腕時計 | Jacob Jensen Classic Wristwatch(510/520シリーズ) | Jacob Jensen(Timothy Jacob Jensenデザイン) |
| 1986年 | オーディオ | Beocenter 9000(統合型オーディオシステム) | Bang & Olufsen |
| 1980年代〜 | 自動車 | Jensen-One(コンセプトカー) | Max René Ltd. |
| 1980年代〜 | スピーカー | スピーカー各種 | Dantax A/S |
| 1980年代〜 | キッチン機器 | キッチン機器各種 | Gaggenau Hausgeräte GmbH |
| 1980年代〜 | インターホン | 通信機器各種 | Stentofon |
| 1990年代〜 | 電話機 | 電話機各種 | Alcatel-Kirk |
| 1990年代〜 | ケーブルリール | ケーブルリール各種 | JO-JO A/S |
| 1990年代〜 | 風力タービン | 風力タービン | NEG Micon A/S |
| 1990年代〜 | モデム | モデム | LASAT Networks A/S |
| 1990年代〜 | 磁器 | 磁器各種 | Rosenthal Studio |
| 1990年代〜 | 眼鏡 | 眼鏡フレーム | Rodenstock |
Reference
- Jacob Jensen - Wikipedia
- https://en.wikipedia.org/wiki/Jacob_Jensen
- Jacob Jensen, a design icon - Design heritage | Bang & Olufsen
- https://www.bang-olufsen.com/en/us/story/jacob-jensen-design-icon
- About Us | Jacob Jensen Design
- https://www.jacobjensendesign.com/about
- Designer - Jacob Jensen - Beoworld
- https://beoworld.org/designer-jacob-jensen/
- Jacob Jensen | MoMA
- https://www.moma.org/artists/2909
- Jacob Jensen: Master of Danish Modern Design - Encyclopedia of Design
- https://encyclopedia.design/2024/02/23/jacob-jensen-master-of-danish-modern-design/
- BeoMaster 1900 | Jacob Jensen | V&A Explore The Collections
- https://collections.vam.ac.uk/item/O321483/beomaster-1900-audio-system-jacob-jensen/
- Jacob Jensen - beo.zone
- https://beo.zone/en/jacob-jensen/
- Timothy Jacob Jensen - Wikipedia
- https://en.wikipedia.org/wiki/Timothy_Jacob_Jensen
- BeoMaster 1200 - Beoworld
- https://beoworld.org/beomaster-1200/
- BeoMaster 1900 - Beoworld
- https://beoworld.org/beomaster-1900/
- Margrethe mixing bowl, Jacob Jensen, 1954 - Museum of Design in Plastics
- https://www.modip.ac.uk/blog/2023/03/margrethe-mixing-bowl-jacob-jensen-1954
- Our Heritage - Designers Trust
- https://designerstrust.com/en/our-heritage.htm
- Design Matters: Jacob Jensen — Sound Matters
- https://beoplay.squarespace.com/journal/design-matters-jacob-jensen
- Jacob Jensen - Jacob Jensen brand official site
- https://www.jacobjensen.com/
- Beosystem 4000c - Recreated Classics | Bang & Olufsen
- https://www.bang-olufsen.com/en/us/story/beosystem-4000c