Beogram 4000は、1972年にデンマークの高級オーディオメーカーBang & Olufsen(バング&オルフセン)から発売されたレコードプレーヤーである。デザインを手がけたのは、同社と長年にわたる協働関係を築いたインダストリアルデザイナー、ヤコブ・イェンセン。本機は世界初の完全電子制御式タンジェンシャル・トラッキング・アームを搭載し、オーディオ機器のデザインと技術の両面において革命的な一歩を刻んだ。
続く1974年には改良型のBeogram 4002が登場し、モーター性能の向上と細部の洗練が施された。両モデルは、北欧モダニズムの精華として、また機能美を極限まで追求した工業デザインの金字塔として、今日に至るまで世界中のコレクターとデザイン愛好家から深い敬意を集め続けている。
特徴・コンセプト
タンジェンシャル・トラッキング・アーム
Beogram 4000の最も革新的な特徴は、世界初の完全電子制御式タンジェンシャル(リニア)トラッキング・アームの採用である。従来のトーンアームがレコード盤の外周から内周へ向かって弧を描くのに対し、タンジェンシャル方式ではアームがレコード溝に対して常に正接(タンジェント)を保ちながら直線的に移動する。この機構により、針がレコード溝に刻まれた音楽信号を理想的な角度で読み取ることが可能となり、トラッキングエラーを理論上ゼロに近づけることができる。
アームの駆動には光学センサーとサーボモーターが採用され、針先にかかる横方向の力を検知してアームを微細に制御する精緻なシステムが構築された。この電子制御技術は当時としては極めて先進的であり、Bang & Olufsenの技術力を世界に示すものとなった。
ミニマリズムの極致
ヤコブ・イェンセンが追求したのは、あらゆる装飾を排し、機能そのものを美へと昇華させるミニマリズムの美学である。Beogram 4000は、わずか9センチメートルという驚異的な薄さを実現し、従来のレコードプレーヤーの概念を覆した。アルミニウムとローズウッドを組み合わせた筐体は、幾何学的な簡潔さと有機的な温もりを見事に調和させている。
操作パネルには機械式のボタンやスイッチを一切排し、タッチセンサー式のコントロールを世界で初めて採用した。指で軽く触れるだけで再生、停止、アームの移動が可能となり、操作性と美観の両立が図られた。この革新は、後のオーディオ機器やさらには家電製品全般のインターフェースデザインに多大な影響を与えることとなる。
素材と仕上げ
天板にはヘアライン仕上げのアルミニウムが用いられ、光の加減によって繊細な表情の変化を見せる。プラッターはアルミダイキャスト製で、振動を抑制するための特殊なダンピング処理が施されている。ダストカバーはスモークがかったアクリル製で、本体のミニマルな美しさを損なうことなく、レコードと機構を保護する役割を果たす。
エピソード
イェンセンとBang & Olufsenの出会い
ヤコブ・イェンセンは1964年にBang & Olufsenとの協働を開始した。当時、同社は技術的には優れた製品を製造していたものの、デザイン面では競合他社に後れを取っていた。イェンセンは「技術は見えなくてもよい。使う人にとって大切なのは体験である」という哲学のもと、複雑な機構を極限まで単純化した外観の中に収めることを目指した。
開発の舞台裏
Beogram 4000の開発は、Bang & Olufsenのエンジニアチームとイェンセンの緊密な連携のもとで進められた。タンジェンシャル・トラッキング機構の実現には数年の歳月を要し、幾度もの試行錯誤が重ねられた。イェンセンは技術者たちに「不可能と言わないでほしい」と繰り返し求め、デザインの妥協を許さなかった。その結果、技術とデザインが高次元で融合した製品が誕生したのである。
MoMAへの収蔵
Beogram 4000は発売後まもなく、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに選定された。工業製品でありながら美術品としての価値を認められたこの事実は、イェンセンのデザイン哲学とBang & Olufsenの卓越した技術力が、単なる商品を超えた文化的意義を持つことを証明するものであった。
評価
Beogram 4000は、発売当初からオーディオ評論家とデザイン批評家の双方から絶賛を浴びた。その革新的な外観は「宇宙時代のデザイン」と評され、1970年代のモダンインテリアにおけるステータスシンボルとなった。音響性能についても、タンジェンシャル・トラッキング方式による歪みの少ない再生は高く評価され、ハイファイオーディオの新たな基準を打ち立てた。
デザイン史家のカーラ・グリーンバーグは本機を「20世紀後半における最も影響力のある工業デザインの一つ」と位置づけ、その後のオーディオ機器、コンピューター、携帯電話に至るまでの製品デザインに与えた影響の大きさを指摘している。特にタッチセンサー式インターフェースの先駆的採用は、現代のタッチスクリーン文化を予見するものであったと評されている。
今日においても、Beogram 4000/4002はヴィンテージオーディオ市場で高い人気を誇り、良好な状態の個体は数千ドルで取引されている。単なる骨董品としてではなく、現役のレコードプレーヤーとして愛用するコレクターも少なくない。
受賞歴・収蔵
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久コレクション収蔵
- iF デザイン賞(ドイツ)
- デンマーク・デザイン・カウンシル賞
- ID賞(アメリカ)
- ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)コレクション
- デンマーク・デザインミュージアム コレクション
基本情報
| 製品名 | Beogram 4000 / Beogram 4002 |
|---|---|
| デザイナー | ヤコブ・イェンセン(Jacob Jensen) |
| メーカー | Bang & Olufsen(バング&オルフセン) |
| 発売年 | 1972年(4000)/ 1974年(4002) |
| 生産国 | デンマーク |
| 駆動方式 | 電子制御タンジェンシャル・トラッキング |
| 対応レコード | 33⅓回転 / 45回転 |
| 外形寸法 | 約 W550 × D420 × H90 mm |
| 素材 | アルミニウム、ローズウッド、アクリル |
| カートリッジ | MMC(Moving Micro Cross)カートリッジ専用 |