Beolit 600およびBeolit 707は、デンマークの高級オーディオメーカー、バング&オルフセンが1970年代に発表したポータブルラジオの傑作である。両モデルともに、同社の黄金期を支えた伝説的インダストリアルデザイナー、ヤコブ・イェンセンの手によって生み出された。Beolit 600は1972年、Beolit 707は1975年にそれぞれ発表され、いずれもポータブルオーディオ機器のデザインに革命をもたらした。

これらの製品は、単なる携帯型ラジオの枠を超え、スカンジナビアン・ミニマリズムの精髄を体現する工業デザインの金字塔として、現在もなお世界中のデザイン愛好家から深い敬意を集めている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界有数の美術館に永久収蔵されており、その芸術的価値は時代を超えて高く評価され続けている。

デザインの特徴とコンセプト

Beolitシリーズの設計思想の根幹には、ヤコブ・イェンセンが追求した「機能美」という概念がある。無駄を極限まで削ぎ落とした純粋な形態、直線と曲線の精緻なバランス、そして使用者の直感に訴えかける操作性——これらすべてが高度に調和している。

造形言語

Beolit 600/707の筐体は、鮮やかな発色のプラスチック素材とアルミニウムを組み合わせた構成となっている。幾何学的な直方体をベースとしながらも、角に施された微妙なラウンド処理により、手に取った際の柔らかな触感を実現している。表面には繊細なテクスチャーが施され、指紋の付着を防ぎながらも高級感を損なわない仕上げが為されている。

革新的なインターフェース

イェンセンがこのシリーズで導入した最も革新的な要素は、スライド式コントロールパネルである。従来のラジオで一般的であった回転式ダイヤルに代わり、水平方向にスライドさせるリニアコントロールを採用することで、視覚的にも触覚的にも直感的な操作を可能にした。周波数帯域は明快なグラフィックで表示され、使用者は一目で現在の設定を把握できる設計となっている。

音響設計

デザインの美しさのみならず、Beolitシリーズは音質においても妥協を許さなかった。コンパクトな筐体内に最適化されたスピーカーユニットを配置し、ポータブル機器とは思えない豊かな音場を実現している。バング&オルフセンの音響技術の粋を集めた設計は、単なる「持ち運べるラジオ」という概念を根本から覆すものであった。

開発にまつわるエピソード

ヤコブ・イェンセンとバング&オルフセンの協働関係は、1965年に始まった。当時、同社は高品質なオーディオ機器のメーカーとして一定の評価を得ていたものの、デザイン面では必ずしも他社と差別化できていなかった。イェンセンの参画により、同社の製品は技術的卓越性と美的革新性を兼ね備えたものへと変貌を遂げていく。

Beolit 600の開発において、イェンセンは「ラジオとは何か」という根本的な問いに立ち返った。彼は従来のポータブルラジオが抱える問題——煩雑な操作系、凡庸な外観、持ち運びにくい形状——を一つひとつ解決していった。その結果として生まれたのが、家具のように室内に置いても違和感がなく、かつ屋外への携行も容易な、まったく新しいカテゴリーの製品であった。

Beolit 707は、600で確立されたデザインフィロソフィーをさらに洗練させた進化形として位置づけられる。より精緻になったディテール処理、改良された操作性、そして当時の最新技術を取り入れた音響システムにより、ポータブルオーディオのあるべき姿を提示した。

評価と文化的意義

Beolit 600/707は発表当時から、デザイン界および音響機器業界において絶賛をもって迎えられた。両モデルは単なる電子機器を超え、ライフスタイルを象徴するアイコンとしての地位を確立した。

デザイン史の観点からは、これらの製品はスカンジナビアン・デザインがいかにして工業製品の美学を変革し得るかを証明した重要な事例として位置づけられている。イェンセンの手がけたBeolitシリーズは、ダイター・ラムスがブラウン社で追求したドイツ的機能主義とは異なる、北欧独自のアプローチを体現するものであった。温かみのある色彩、人間工学に基づいた形態、そして生活空間との親和性——これらの要素が織りなす調和は、後のポータブル機器デザインに多大な影響を与えた。

受賞歴

Beolit 600は1973年にデンマーク工業デザイン賞(ID賞)を受賞し、その革新性が公式に認められた。ID賞はデンマークにおける最も権威あるデザイン賞であり、この受賞はイェンセンとバング&オルフセンの協働がいかに先駆的であったかを物語っている。同シリーズは以降も複数のデザイン賞を獲得し、現代に至るまでその価値を認められ続けている。

さらに、Beolitシリーズはニューヨーク近代美術館(MoMA)、ロンドンのデザイン・ミュージアムなど、世界屈指のデザイン美術館の永久コレクションに収蔵されている。これは、同製品が単なる商業製品ではなく、20世紀後半の工業デザイン史における重要な遺産であることの証左である。

基本情報

製品名 Beolit 600 / Beolit 707
デザイナー ヤコブ・イェンセン(Jacob Jensen)
メーカー バング&オルフセン(Bang & Olufsen)
製造国 デンマーク
発表年 Beolit 600:1972年 / Beolit 707:1975年
製品カテゴリー ポータブルラジオ
主要素材 ABS樹脂、アルミニウム
受賞 デンマーク工業デザイン賞(ID賞)1973年ほか
収蔵美術館 ニューヨーク近代美術館(MoMA)、デザイン・ミュージアム(ロンドン)ほか