概要
可動供給装置(Mobile Supply System)は、梅田正徳が1968年にミラノで設計した住まいの設備の提案である。台所・浴室・オーディオの3つのユニットからなり、いずれも車輪の上に載って動く。
同じ年にドイツで創設された第1回ブラウン賞を受けた。コンペティションのための案であり、実物大では作られていない。図面と模型、受賞を知らせた電報は香港のM+に収められている。
梅田正徳の設計思想や経歴について詳しくは梅田正徳 プロフィールページをご覧ください。
特徴・コンセプト
設備を床から切り離す
台所と浴室は、給排水と電気の経路に縛られて家のなかで位置が決まる。梅田はその前提を外し、器具一式を箱に納めたうえでキャスターを付けた。設計者自身は本作を、設備や器具を固定せず車輪の上で動かせるようにしたものと説明している。
設備が動けば、間取りが設備の位置に従うという関係は崩れる。建物に属していた機能を、家具と同じように置き換えられるものとして扱い直した案にあたる。
閉じて運び、開いて使う
各ユニットは箱の姿をとり、使うときに開いて中身を見せる。動かす以上、移動している間は輪郭が箱として完結していなければならない。開閉という一動作で、運ぶ状態と使う状態を1つの形に収めている。
角を丸め、白い衛生器具のような仕上げをとる点は、当時のスペースエイジの製品と共通する。
3つに分けた理由
住まいの機能を1つの装置にまとめず、台所・浴室・オーディオの3つに分けている。まとめれば大きさと重さが移動の妨げになるうえ、使う場所も揃えられてしまう。
分けたことで、必要なユニットだけを置き、あとから位置を組み替えられる。M+は、この構成が住居の主要な機能をひととおり担いながら、容易に並べ替えられる点を本作の特徴として挙げている。
エピソード
第1回ブラウン賞
ブラウン賞は、ブラウン社の創業者マックス・ブラウンの息子エルヴィン・ブラウンが1968年に設けた、ドイツで最初の国際的なデザインコンペティションである。デザインをめぐる議論を広く起こすことが当初の目的に置かれ、審査委員長は第1回から1989年までフリッツ・アイヒラーが務めた。可動供給装置は、その第1回に選ばれた案にあたる。
勤務後の夜に進めた案
梅田は1967年からミラノのカスティリオーニ兄弟の事務所に勤めていた。この案は、事務所の仕事を終えた夜の時間に進められている。
M+によれば、案は梅田の師にあたるピエル・ジャコモ・カスティリオーニの協力を得てまとめられた。フランクフルトへ送り出す前、入院していた彼は夜に病院を抜け出して図面を見に来ている。図面は5分の1の縮尺で引かれた。
電報で届いた受賞
受賞は1968年11月9日付の電報で伝えられた。梅田はフランクフルトのブラウン社に招かれて授賞式に出席している。当時27歳だった。
翌1969年1月の『ドムス』誌が、車輪のついた浴室ユニットとキッチンユニットとして本作を取り上げている。
実物大は作られないまま
この案が実物大で作られることはなかった。受賞時に製作された模型は、2年ほど巡回展示に出されるうちに傷み、修復できず処分されている。M+が収める模型は、その後あらためて作り直されたものである。
台所の構想はのちに引き継がれ、1975年に「ラ・カッサ」として製品化された。イタリアのクチーネ・メザリオが製造し、1979年のコンパッソ・ドーロにノミネートされている。
評価と影響
M+は本作の背景として、第二次世界大戦後の住宅難と生活様式の急速な変化を挙げている。当時は、規格化されていて動かせる安価な住まい、いわゆるプラグイン式の建築に関心が集まっていた。可動供給装置は、住居そのものではなく設備の側を動かす答えを返した案として位置づけられる。
梅田自身は、のちの「TAWARAYA」「月苑」と並べて本作を自身の代表作3点の1つに挙げている。一般的にも、家具と設備、家具と空間の境目をまたぐ仕事として扱われている。
受賞・収蔵
1968年、第1回ブラウン賞(ドイツ)を受けた。
M+(香港)が模型2点を収蔵している。台所のユニット(Model, Mobile Supply System (Kitchen)、1968年設計・2002年製作、収蔵番号 2016.326)と、浴室のユニット(Model, Mobile Supply System (Bath)、1968年設計・2015年製作、収蔵番号 2016.327)で、いずれもポリスチレン、塩化ビニル、アルミニウムなどによる。
図面・覚書・受賞の電報・掲載誌は、同館のアーカイブに「Archival material, Mobile Supply System」(収蔵番号 CA28/1、12点)としてまとめられている。受賞を伝えた電報は CA28/1/10 にあたる。
基本情報
| デザイナー | 梅田正徳 |
|---|---|
| 発表年 | 1968年 |
| デザインの成立国 | イタリア |
| 構成 | キッチンユニット、浴室ユニット、オーディオユニットの3点 |
| 生産 | 実物大での製品化はされていない |
Reference
- MOBILE SUPPLY SYSTEM | Umeda Design Studio
- https://umedamasanori.com/project/mobile-supply-system/
- 1968 The First Braun Prize | Umeda Design Studio
- https://umedamasanori.com/2021/04/03/first-braun-prize/
- Model, Mobile Supply System (Kitchen) | M+
- https://www.mplus.org.hk/en/collection/objects/model-mobile-supply-system-kitchen-2016326/
- Model, Mobile Supply System (Bath) | M+
- https://www.mplus.org.hk/en/collection/objects/model-mobile-supply-system-bath-2016327/
- Archival material, Mobile Supply System, CA28/1 | M+
- https://www.mplus.org.hk/en/collection/archives/archival-material-mobile-supply-system-ca28-1/
- 梅田正徳 | NPO法人建築思考プラットホームPLAT
- https://npo-plat.org/umeda-masanori.html
- BraunPrize History | Braun
- https://www.braun.de/de-de/braunprize/braunprize-history