ラ・レリジューズ:修道女の頭巾から生まれた光の彫刻

1923年、フランスの建築家ピエール・シャローは、パリ、サン・ジェルマン大通りに位置するダルザス夫妻の邸宅のために、一台の照明器具を設計した。後に「ラ・レリジューズ(La Religieuse)」と呼ばれるこの作品は、照明の実用性にとどまらず、光と素材による彫刻的な存在として20世紀デザイン史に位置づけられている。

「レリジューズ」とはフランス語で「修道女」を意味する。三角形のアルバトル(雪花石膏)パネルが頂部に配された姿が、かつての修道女たちが被っていたコルネット(角頭巾)を想起させることから、この愛称が与えられた。正式型番はSN31である。

円錐形の木製台座と、その上に冠される幾何学的なアルバトルのシェードという相反する形態を、シャローは一つの造形にまとめた。半透明のアルバトルを通した光は柔らかく、室内に落ち着いた明るさをもたらす。発表から一世紀を経た現在も、この照明の制作は続けられている。

概要

ラ・レリジューズは、ピエール・シャローが1923年に最初のプロトタイプを制作し、1924年のサロン・ドートンヌで金属製バージョンが公式に発表されたフロアランプである。当初「SN31」という型番で呼ばれていたが、そのアルバトルのシェードが修道女のコルネットに似ていたことから、いつしか「ラ・レリジューズ」という名で親しまれるようになった。

この照明は、フロアランプ(パルケ)、テーブルランプ(シンプル・ファス、ドゥーブル・ファス)、ベッドサイドランプ(シュヴェ)の三つのサイズで展開され、台座の素材も木材と金属の両方が存在する。アルバトルのほか、布やパーチメントのシェードを用いたバリエーションも制作された。

現在、ガレリーMCDE(Galerie MCDE)がピエール・シャローの公式エディターとして、フランスの職人たちの手仕事によるリエディションを制作・販売している。

特徴・コンセプト

ラ・レリジューズの設計思想は、素材の対比と統合にある。シャローは、温かみのある木の丸みと、冷たく鋭いアルバトルの角をひとつの造形体の中で共存させることで、照明器具としての機能を超えた彫刻的表現を実現した。

素材の対話

台座に用いられるアカジュー(マホガニー)またはパリサンドル仕上げのアカジューは、滑らかで豊かな木目を持ち、光を受けて深い艶を放つ。その上に載る四枚の三角形アルバトルパネルは、金属のフレームに取り付けられ、光源を包み込む。アルバトルは光を完全に遮断するのではなく、その半透明性によって光を吸収・拡散し、白熱光の強い輝度を柔らかな面光源へと変容させる。

形態の対比

円錐形の台座が描く有機的な曲線と、頂部のアルバトルが構成する直線的・幾何学的な形態との間には、明確な造形的緊張が存在する。この対比はアール・デコの装飾性とモダニズムの機能性とを接続するものであり、シャローの作品全体に通底する美学を端的に表現している。

光の制御

アルバトルは、ガラスとは異なる仕方で光を透過・拡散する。ラ・レリジューズにおいて光は、たんなる照明手段ではなく、空間の質を左右する要素として扱われている。

エピソード

ダルザス邸と誕生の経緯

ラ・レリジューズの最初のプロトタイプは、1923年にパリ、サン・ジェルマン大通りのジャン・ダルザス博士とアニー・ダルザスの邸宅のために制作された。シャローとダルザス家との関係は深く、後に彼の建築的代表作となる「メゾン・ド・ヴェール(ガラスの家)」(1928〜1932年)も、同じダルザス夫妻のために設計されたものである。最初のバージョンは、折り曲げた金属板を台座とし、アルバトルのシェードを冠したものであった。

映画への登場

1924年、映画監督マルセル・レルビエの前衛映画『非人情(L'Inhumaine)』では、ロベール・マレ=ステヴァンスの監修のもと、ポール・ポワレの衣装やルネ・ラリックの装飾品とともにシャローの家具がセットに用いられ、ラ・レリジューズも作中に登場した。続く1926年の映画『眩暈(Le Vertige)』でも、シャローは装飾デザインを担当し、自らの照明器具を作品世界に組み込んでいる。

著名なコレクターたちのもとへ

ラ・レリジューズは発表後まもなく、パリの知識層やブルジョワジーの間で高い支持を得た。化粧品帝国の創始者エレナ・ルビンスタイン、実業家ダニエル・ドレフュス、彫刻家シャナ・オルロフといった文化的名士たちが、それぞれの邸宅にこの照明を迎え入れた。1927年には、トゥールのグラン・ホテルのサロンにも設置され、公共空間におけるモダンデザインの先駆的事例となった。

評価

ラ・レリジューズは、20世紀デザインを代表する照明のひとつとして国際的に高く評価されている。パリのポンピドゥー・センター(国立近代美術館)は、金属製の台座を持つオリジナルのラ・レリジューズをコレクションに収蔵しており、同館のデザインコレクションにおいて重要な位置を占めている。

2016年、ニューヨークのジューイッシュ・ミュージアムにおいて開催された「Pierre Chareau: Modern Architecture and Design」展は、シャローの米国初の大規模回顧展であり、ラ・レリジューズを含む約180点の作品を通じて、その全創作活動が紹介された。建築史家エスター・ダ・コスタ・マイヤーがキュレーションを手がけたこの展覧会は、シャローの再評価に大きく貢献した。

オークション市場においても、オリジナルのラ・レリジューズは高値で取引されている。2023年にはパリサンドル材の台座にアルバトルのシェードを備えたオリジナルが383,500ユーロで落札されており、コレクター市場での需要は根強い。

ガレリーMCDEによるリエディションは、シャローの遺産を現代の生活空間へと橋渡しする取り組みとして、デザイン専門メディアやインテリア誌からも高く評価されている。フランスの職人による手仕事で制作されるリエディションは、カルティエやブシュロンといったメゾンの空間演出にも用いられている。

基本情報

作品名 ラ・レリジューズ / La Religieuse(型番: SN31)
デザイナー ピエール・シャロー / Pierre Chareau(1883–1950)フランス
デザイン年 1923年(プロトタイプ)、1924年(サロン・ドートンヌ発表)
ブランド(リエディション) Galerie MCDE(ガレリーMCDE)
製造国 フランス
分類 フロアランプ / テーブルランプ / ベッドサイドランプ
主要素材 アカジュー(マホガニー)またはパリサンドル仕上げアカジュー、アルバトル(雪花石膏)、鍛鉄(フォージドアイアン)
サイズ(フロアランプ) W 53 × D 27 × H 190 cm
サイズ(ベッドサイドランプ) H 45 × Diam. 14 cm
仕上げ ポリウレタンニス仕上げ / タンポン仕上げ(フレンチポリッシュ)
アルバトル仕上げ 白アルバトル(白縞)/ 白アルバトル(茶縞)/ ミックス選択可
光源 E14(最大40W)※光源別売
収蔵 ポンピドゥー・センター(国立近代美術館、パリ)ほか