概要

ピエール・シャロー(1883-1950)は、フランスの家具デザイナー・建築家である。1920年代に、鉄や合板といった工業材料と銘木を同じ家具で組み合わせる構成をとった。可動の機構を得意とし、扇のように開く机や向きを変えられる照明を残している。1932年に完成したパリの「ガラスの家」は、ガラスブロックの壁と可動の間仕切りで構成された住宅である。

バイオグラフィー

1883年8月4日、フランスのボルドーに生まれた。1900年からパリの家具会社ワリング&ジローに勤め、製図と室内の仕事に携わっている。設計の専門教育は受けていない。

1919年に独立し、家具と室内の設計を始めた。1920年代には家具、照明、室内の設計を継続して手がけている。

1928年から1932年にかけて、パリのサン=ギヨーム通りに「ガラスの家(メゾン・ド・ヴェール)」を設計した。オランダ人建築家ベルナルト・ベイフーとの共同で、依頼主は医師のジャン・ダルザス夫妻である。

1940年、ドイツ軍の侵攻を受けてアメリカへ渡った。ニューヨーク近郊で活動し、1950年に没している。

デザインの思想と方法

シャローが扱ったのは、工業製品として流通していた部材を、家具と建築にそのまま使えるかという問題である。鉄骨、有孔鋼板、ガラスブロック、工場用の照明器具——いずれも住宅で使う想定のない材料だった。

工業材料と銘木を同じ家具に置く

1920年代の家具では、鉄の脚に紫檀やマホガニーの天板を載せる構成を用いた。材料の格が揃わないため、通常は組み合わせない。シャローはこの対比をそのまま構成とし、金属の細さと木の厚みを対置させた。

動く機構を家具に組み込む

扇のように開く机、向きを変えられる照明、回転する棚など、可動の要素を持つ家具を多く設計した。使わないときには閉じ、使うときに開く。限られた面積で複数の用途を満たすための処理にあたる。

光を通す壁で部屋を仕切る

「ガラスの家」では、外壁の大部分をガラスブロックとした。光は通すが視線は通さないため、外部からの視線を遮りながら室内に光を入れられる。密集した市街地の敷地という条件から出た解法である。

設備と構造を見せる

鉄骨の柱、露出した配管、有孔鋼板の間仕切りは、仕上げ材で覆われない。工場や病院で使う部材を住宅に持ち込むという判断であり、当時の住宅設計としては例外的だった。

代表作にみる方法

ラ・レリジューズ(1923年頃)

アラバスターの板を組み合わせた照明である。板が光を透過し、輪郭は幾何学的な面の集合になる。名称は修道女の頭巾を思わせる形に由来する。→ラ・レリジューズ

扇形に開く机

天板が扇のように開閉する机である。閉じれば小さく収まり、開けば作業面が広がる。回転軸を一箇所に置き、複数の板を重ねて扇状に配する構成をとる。

フルール ランプ(1924年頃)

金属の支持部にアラバスターの笠を組み合わせた照明である。ニューヨーク近代美術館が収蔵している(収蔵番号1251.2018)。

ガラスの家(1928-1932年、パリ)

ベルナルト・ベイフーとの共同設計による住宅である。既存の建物の下層を残したまま、鉄骨で新しい構造を組み、外壁の大部分をガラスブロックとした。医院と住居を兼ねるため、可動の間仕切りで用途に応じて空間を仕切る。露出した鉄骨、有孔鋼板の扉、工場用の照明が用いられている。

ル・シガール

金属と木を組み合わせた家具である。シカゴ美術館が収蔵している(収蔵番号1992.384)。

評価と影響

シャローは一般に、1920年代から30年代のフランスにおいて、工業材料を住宅と家具に持ち込んだ設計者と評価されている。設備と構造を仕上げで覆わないという方向は、当時としては前例が少ない。

「ガラスの家」は、1930年代の住宅としては例外的な構成をとる。ガラスブロックの壁、可動の間仕切り、露出した鉄骨という要素が、後年の建築で参照されている。現在も個人所有だが、限定的に公開されている。

1940年の渡米後の活動は限られており、生前の評価は主にフランス国内にとどまった。1993年にパリ装飾美術館で回顧展が、2016年にニューヨークのユダヤ博物館で展覧会が開かれ、以後の再検討が進んでいる。

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。

  • MoMA フルール ランプ(モデルLP166、1924年頃) 収蔵番号 1251.2018
  • MoMA ガラスの家の資料(1966年撮影) 収蔵番号 935.2012.1-7
  • MoMA 書簡(1927年) 収蔵番号 1166.2015
  • V&A 資料(1920年代) 収蔵番号 MISC.2:35-1934
  • V&A 資料(1927-28年) 収蔵番号 MISC.2:34-1934
  • Met 『Intérieurs-I』(1924年) 収蔵番号 1991.1073.217(1)
  • Met 『Intérieurs Français』(1925年) 収蔵番号 1991.1073.176
  • AIC ル・シガール(1920-30年代) 収蔵番号 1992.384

MoMA の 935.2012 番台は、ガラスの家を1966年に記録した資料にあたる。

作品一覧

区分 作品名 ブランド / 場所
1923年頃 照明 ラ・レリジューズ Galerie MCDE
1924年頃 照明 フルール ランプ(モデルLP166)
1920年代 デスク 扇形に開く机
1920-30年代 家具 ル・シガール
1920年代 内装 住宅・店舗の室内設計 パリ、フランス
1928-1932年 建築 ガラスの家(ベルナルト・ベイフーと共同) パリ、フランス
1940年代 建築 ロバート・マザーウェル邸 イーストハンプトン、アメリカ

プロフィール

生没年 1883年8月4日〜1950年
出身地 フランス・ボルドー
国籍 フランス
活動拠点 パリ、ニューヨーク
分野 家具、照明、建築、インテリア
主な協働ブランド Galerie MCDE

Reference

Maison de Verre
https://www.maisondeverre-chareau.com/
The Museum of Modern Art Collection
https://www.moma.org/collection/works/2325
The Metropolitan Museum of Art Collection
https://www.metmuseum.org/art/collection
The Art Institute of Chicago Collection
https://www.artic.edu/collection
Musée des Arts Décoratifs, Paris
https://madparis.fr/en