概要
UP5_6は、ガエターノ・ペッシェが1969年に設計したアームチェアとオットマンの組である。内部に骨組みを持たず、ポリウレタンフォームをストレッチ素材で覆っただけで成り立つ。球形のオットマンが鎖でアームチェアにつながれる。C&Bイタリア(現在のB&Bイタリア)が製造し、現在も生産が続く。
特徴・コンセプト
骨組みのない椅子
ペッシェはスポンジの性質から発想したと述べている。圧縮しても手を離せば元に戻る。当時まだ新しい素材だった軟質の発泡ポリウレタンなら、内部構造を持たない椅子の連作が作れるのではないか、という着想である。
実際、この椅子には木や金属のフレームがない。成形したフォームをストレッチ素材のカバーで覆い、底面に麻の布を張るだけで形が保たれる。素材と成形技術の研究は、チェザーレ・カッシーナがC&B(カッシーナとブスネッリ)の研究センターでペッシェに委ねたものだった。
真空パックと膨張
発売当初、製品は真空パックで出荷された。体積を90パーセント減らし、厚さ10cmほどの円盤状に圧縮する。購入者が開封すると空気が入り、椅子は自力で膨らんで本来の形になる。デンバー美術館の記録では、この過程に15分ほどかかる。
輸送効率のための工夫だが、開封が製品体験の一部になるという副次的な効果を持った。1969年のミラノ家具見本市では、平たい円盤が来場者の前で次々と椅子に変わっていく様子が公開されている。
形とオットマン
アームチェアの形は、古代の豊穣の女神像を参照している。座ると身体が包み込まれる。一方、球形のオットマンは鎖でアームチェアにつながれており、囚人の足枷に見立てられている。
ペッシェは、女性についての個人的な考えを語ろうとしたのだと説明している。女性は自らそれと知らずに自分自身の看守であり続けてきた、という認識から、囚人の姿を借りた形を与えたという。座り心地のよさを示す形と、拘束を示す形が、一つの製品のなかで並置される。
成立と生産の経緯
アップ・シリーズは7点で構成され、UP5_6はそのうちの一組である。人体を思わせる形をとるのはこの一組だけで、他はより抽象的な塊の形をしている。
生産は1973年にいったん止まり、1990年代に再開された。現行品は「セリエ・アップ 2000」として展開され、冷成形の軟質ポリウレタンフォームが用いられる。真空パックによる出荷は行われていない。3歳以上の子ども向けに、寸法を縮めたUP Jも用意されている。
評価と影響
2022年、第27回コンパッソ・ドーロADIにおいて、アップ・シリーズがプロダクト・キャリア賞を受賞した。長期にわたって生産と評価が続いた過去のデザインを対象とする部門で、発表当時には受賞していない。受賞を受けて、B&Bイタリアは限定の記念仕様を発売している。
発表50年にあたる2019年4月、ミラノデザインウィークにあわせてドゥオーモ広場に高さ8メートルの彫刻《マエスタ・ソフェレンテ(苦しむ聖母)》が設置された。UP5_6を巨大化したもので、多数の矢が突き立てられ、周囲を獣の頭部が囲む。矢は女性が受ける暴力を、獣は加害の側を指すとされた。
設置初日、フェミニスト団体「ノン・ウナ・ディ・メーノ」が抗議を行った。同団体は、この作品が女性を再び動かない身体、被害者として描くだけで、暴力をふるう側を問うていないと批判した。翌日には別の表現者が座面に赤い塗料をかけている。ペッシェは、作品が議論の機会になることを望むと述べる一方、抗議した人々は自作の意味を理解していないとも述べた。この製品が家具として評価されると同時に、その表現をめぐる評価が分かれ続けていることは、記録しておく必要がある。
美術館コレクション
ニューヨーク近代美術館は、ストレッチ生地で覆ったポリウレタンフォームによる組を収蔵番号124.1992.a-bで登録している(製造元からの寄贈。同館の記録では、アームチェアが101.6×110.5×114.3cm、オットマンが直径57.2cmとされ、現行品とは寸法が異なる)。同館はアップ・シリーズの他の型も収蔵しており、Up 1 Chair(1113.1969)とその折り畳み状態の個体(1114.1969)がある。デンバー美術館も収蔵番号1994.260a-bで登録している。
ガエターノ・ペッシェの設計思想や経歴について詳しくはガエターノ・ペッシェプロフィールページをご覧ください。
B&B Italiaの歴史や他の製品について詳しくはB&B Italiaブランドページをご覧ください。
基本情報
| 名称 | UP5_6(アップ 5・6) |
|---|---|
| 別称 | ラ・マンマ、ビッグ・ママ、ドンナ、ブロウ・アップ |
| デザイナー | ガエターノ・ペッシェ(Gaetano Pesce) |
| ブランド | B&Bイタリア(当初はC&Bイタリア) |
| 発表年 | 1969年 |
| デザインの成立国 | イタリア |
| 構成 | アームチェアと球形オットマンの組。鎖でつながれる |
| 主要素材 | 冷成形軟質ポリウレタンフォーム、ストレッチ素材のカバー、麻の底布 |
| シリーズ | アップ・シリーズ(全7点)。子ども向けのUP Jもある |
| 受賞 | コンパッソ・ドーロADI プロダクト・キャリア賞(2022年) |
| 収蔵 | ニューヨーク近代美術館(124.1992.a-b)、デンバー美術館(1994.260a-b) |
Reference
- Up 5 Lounge Chair with Up 6 Ottoman | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/2223