概要

エンブリオチェアは、マーク・ニューソンが1988年に設計した椅子である。シドニーのパワーハウス・ミュージアムの企画展「Take a Seat」のために設計された。

鋼の骨組みに射出成形したポリウレタンフォームを被せ、外側を伸縮する生地で覆う。脚は3本。当初はウェットスーツに用いるネオプレンが張られた。

現在も生産が続いている。ネオプレンで覆う仕様をイデーが、伸縮性の生地で覆う仕様をカッペリーニが、それぞれ製造している。

特徴・コンセプト

伸びる生地で覆う

座面と背もたれは、境目を持たない一続きの塊としてまとめられる。この形を通常の布で覆えば、曲面のいたるところに縫い目や皺が生じる。

ネオプレンは伸縮するため、曲面に沿わせても皺が寄りにくい。継ぎ目の少ない被覆が成立するのは、素材のこの性質による。カッペリーニの仕様で用いられる伸縮性の生地も、同じ性質を持つ。

ウェットスーツの生地を選ぶ

設計者は素材の選択について、色が強く質感に惹かれたこと、そしてそれがオーストラリアらしく思われたことを理由に挙げている。

ネオプレンは家具の張り地として想定された素材ではない。海に関わる用途の材を室内の家具へ持ち込んだ選択である。

骨組みと3本の脚

内部には鋼の骨組みがあり、その上にポリウレタンフォームを成形する。型で成形する製法をとるため、継ぎ目のない曲面をそのまま形にできる。射出成形したフォームと鋼の骨組みを組み合わせたこの構成は、設計者にとって当時もっとも技術的に踏み込んだものだったとされる。

脚はめっきを施した鋼管で、背側に1本、前方に2本の計3本が支える。前方の2本は座面の内部へ差し込まれ、接合部はアルミニウムの部材で補強される。

エピソード

展覧会のための設計

1988年、パワーハウス・ミュージアムの企画展「Take a Seat」に出品するものとして設計された。表面は鮮やかな色のネオプレンで覆われていた。

二つの仕様が並ぶ

製造は東京のイデーが引き受けた。ネオプレンで覆う仕様で、ブルックリン美術館の個体(収蔵番号 2009.71)もこの仕様である。

のちにイタリアのカッペリーニも製造に加わった。こちらは伸縮性の生地で覆う。二つの仕様は入れ替わったのではなく、現在も並行して供給されている。

評価と影響

設計者はこの椅子について、自身の様式がはじめて明確になった作品であり、造形と技術の両面でよく解決された最初期のもののひとつだと述べている。

パワーハウス・ミュージアムは、この椅子の輪郭を、設計者の以後の仕事に繰り返し現れる形として位置づけている。同じ1988年にはロックヒード・ラウンジも完成している。

受賞とミュージアム・コレクション

1999年のレッドドット・デザイン賞を受賞している。

収蔵番号が確認できる収蔵先は以下のとおり。

  • ブルックリン美術館(収蔵番号 2009.71。イデー製、ネオプレン張り)
  • ニューヨーク近代美術館(収蔵番号 23.2008。伸縮性の生地張り)
  • サンフランシスコ近代美術館(収蔵番号 99.49。カッペリーニからの寄贈)

基本情報

デザイナー マーク・ニューソン
ブランド イデー(ネオプレン仕様)、カッペリーニ(伸縮性生地仕様)
発表年 1988年
デザインの成立国 Australia
主要素材 鋼、アルミニウム、ポリウレタンフォーム、ネオプレンまたは伸縮性の生地
3本(背側1本、前方2本)
サイズ 仕様により異なる(ブルックリン美術館の個体・収蔵番号 2009.71 のイデー製で 幅813 × 奥行864 × 高さ794mm)

Reference

Embryo Chair | Marc Newson Ltd
https://marc-newson.com/embryo-chair/
'Embryo' chair by Marc Newson, c.2000 | Powerhouse Collection
https://collection.powerhouse.com.au/object/9731
Embryo Chair | Brooklyn Museum
https://www.brooklynmuseum.org/objects/188966
Marc Newson, Embryo chair, 1988 | SFMOMA
https://www.sfmoma.org/artwork/99.49/
Marc Newson. Embryo Chair. 1988 | MoMA
https://www.moma.org/collection/works/113892