概要
マーク・ニューソン(1963年生まれ)は、オーストラリア出身のインダストリアルデザイナーである。1986年のロックヒード・ラウンジで、リベット留めしたアルミ板で曲面を覆う方法を用いて以降、継ぎ目のない連続した曲面を成立させる製法を対象ごとに探る仕事を続けている。家具のほか、時計、航空機の客室、コンセプトカーを手がけ、2014年から2019年までアップルに在籍した。
バイオグラフィー
1963年10月20日、シドニーに生まれた。1984年にシドニー芸術大学で宝飾デザインと彫刻を学んで卒業している。
1986年、オーストラリア工芸評議会の助成を得て、シドニーのロズリン・オクスリー9ギャラリーで初個展を開いた。ここで発表した寝椅子が、のちにロックヒード・ラウンジとして知られる作品にあたる。
1987年に東京へ移り、イデーと組んでシャーロット・チェア、スーパーグッピーランプ、エンブリオチェアなどを手がけた。1991年にパリへ移ってスタジオを設立し、イッタラ、アレッシィ、マジス、フロスなどの製品を設計している。1994年にはスイスで時計ブランドのイケポッドを共同で立ち上げた。
2002年、カンタス航空のビジネスクラスの座席「スカイベッド」を設計し、2005年から2015年まで同社の設計顧問を務めた。2014年9月、ジョナサン・アイブの招きでアップルに入社し、主にアップルウォッチの設計に関わっている。2019年6月、アイブとともに同社を離れた。現在はイギリスを拠点としている。
デザインの思想と方法
ニューソンの仕事は、連続した曲面をどうつくるかという一点に集中している。曲面そのものは図面上でいくらでも描けるが、それを材料と加工で成立させる方法は対象ごとに異なる。彼が扱う分野が家具から時計、航空機の客室まで広いのは、対象が変わると使える製法が変わるためである。
継ぎ目を消す
ロックヒード・ラウンジでは、ファイバーグラスの芯材にアルミの薄板を張り、リベットで留めている。板は平面のままでは曲面に沿わないため、細く分割して一枚ずつ形を合わせる。結果としてリベットの列と板の継ぎ目が表面に残るが、これは工程の痕跡であり、後年の作品では逆にこれを消す方向へ進んだ。
成形の限界から形を決める
エンブリオチェアでは、ポリウレタンフォームを成形し、ネオプレンで覆っている。ネオプレンは伸びるため、複雑な曲面にも皺なく張れる。潜水服の材料を家具に用いたのは質感のためではなく、この伸縮性が必要だったからである。材料の性質が形の範囲を決めるという順序をとる。
塊から削り出す
2007年の大理石の家具では、白のカラーラ大理石の塊から棚や寝椅子を削り出した。積層でも成形でもなく、一つの塊から取るため、部材の接合が存在しない。継ぎ目を消すという主題に対する、もう一つの解き方にあたる。
既存の技法を規模ごと変える
2015年からのクロワゾネ(有線七宝)の家具では、通常は小さな器物に用いられる技法を、机や椅子の大きさで実現した。焼成に耐える大きさの窯を特注し、金属線で区切った面に釉薬を差して焼く工程を、家具の寸法で成立させている。
代表作にみる方法
ロックヒード・ラウンジ(1986-88年)
ファイバーグラスの芯材に、細く分割したアルミ板をリベットで留めた寝椅子である。板を一枚ずつ曲面に合わせるため、製作は手作業による。名称は航空機メーカーに由来し、リベット留めの外皮という構成そのものが参照元にあたる。少数のみが製作された。→ロックヒード・ラウンジ
エンブリオチェア(1988年)
成形したポリウレタンフォームをネオプレンで覆い、三本の金属脚で支える椅子である。ネオプレンの伸縮性により、継ぎ目の少ない被覆が可能になる。ニューソン自身が、自分の様式が定まった最初期の作品として挙げている。→エンブリオチェア
オルゴン シェーズロング(1989-93年)
ロックヒード・ラウンジの構成を、中空のアルミで実現した寝椅子である。中央に開口を設け、内部と外部が連続する形をとる。リベット留めの手作業ではなく、成形と溶接による製法へ移った段階にあたる。
フォード021C(1999年)
東京モーターショーで発表されたコンセプトカーである。角を大きく丸めた立方体に近い外形をとり、後部のトランクを引き出しのように開く構成とした。自動車の設計経験がない状態で、既存の車の形式を前提とせずに構成した例にあたる。
ロッキー(2012年)
マジスの子供向けの系列のために設計した揺り木馬である。ポリエチレンの一体成形でつくられ、内部が中空のため軽い。継ぎ目のない曲面という主題を、量産の樹脂成形で成立させている。→ロッキー
評価と影響
ニューソンは一般に、分野をまたいで同じ造形上の主題を追う設計者と評価されている。家具、時計、輸送機器、電子機器と対象は異なるが、いずれも連続した曲面をどの製法で成立させるかという問題を扱っている。
ロックヒード・ラウンジは製作数が少なく、市場で高値がつくことでも知られる。ただし、この作品の位置づけは価格ではなく、リベット留めの外皮という構成が以後の仕事の出発点になった点にある。
2014年から2019年までのアップルでの在籍は、独立した設計者が大規模な技術企業の設計体制に加わった例として言及される。カンタス航空との13年にわたる関係でも、座席から空港のラウンジまでを継続して手がけた。
受賞・収蔵
受賞
- ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
- 2012年 大英帝国勲章(CBE)
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、AIC=シカゴ美術館)。
- MoMA ウッドチェア(1988年) 収蔵番号 206.1998
- MoMA エンブリオチェア(1988年) 収蔵番号 23.2008
- MoMA オルゴン シェーズロング(1989年) 収蔵番号 205.1998
- MoMA トルビー 携帯電話(2004年) 収蔵番号 573.2006.1-3
- V&A MN02 ボナンザ(1999年) 収蔵番号 CD.19-2020
- V&A ロッキー(2012年) 収蔵番号 B.12-2023
- AIC トルビー 携帯電話(2003年) 収蔵番号 2019.1227.1-3
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1986-88年 | シェーズロング | ロックヒード・ラウンジ | — |
| 1987年 | 椅子 | シャーロット・チェア | Idée |
| 1987年 | 照明 | スーパーグッピー ランプ | Idée |
| 1988年 | 椅子 | エンブリオチェア | Idée / Cappellini |
| 1988年 | 椅子 | ウッドチェア | Cappellini |
| 1989-93年 | シェーズロング | オルゴン | Cappellini |
| 1994年 | 時計 | イケポッド コレクション | Ikepod |
| 1999年 | 自動車 | フォード021C(コンセプトカー) | Ford |
| 2002年 | 航空機内装 | スカイベッド(ビジネスクラス座席) | Qantas |
| 2004年 | 携帯電話 | トルビー | au design project |
| 2007年 | 家具 | 大理石家具シリーズ | Gagosian Gallery |
| 2012年 | 玩具 | ロッキー | Magis |
| 2015年 | 腕時計 | アップルウォッチ(開発に参加) | Apple |
| 2015-17年 | 家具 | クロワゾネ家具シリーズ | Gagosian Gallery |
プロフィール
| 生年 | 1963年10月20日 |
|---|---|
| 出身地 | オーストラリア・シドニー |
| 国籍 | オーストラリア |
| 活動拠点 | ロンドン |
| 分野 | 家具、時計、輸送機器、電子機器 |
| 主な協働ブランド | Cappellini、Magis、Flos、Alessi、Iittala、Qantas、Apple |
Reference
- Marc Newson Ltd(公式)
- https://marc-newson.com/
- Marc Newson | Magis
- https://www.magisdesign.com/designer/marc-newson/
- Marc Newson | Cappellini
- https://www.cappellini.com/ww/en/designers/marc-newson.html
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325
- Marc Newson | Victoria and Albert Museum
- https://collections.vam.ac.uk/