概要
プレベン・ファブリシウス(1931年–1984年)は、デンマークの家具デザイナーである。家具職人としての修業を経て設計に転じ、1961年から1968年までヨルゲン・カストホルムと共同の事務所を営んだ。二人が発表した鋼と革による椅子は、デンマークの設計がドイツの製造業と結びついた例として知られる。協働の解消後は単独で設計を続け、ウォルター・ノルのための仕事を残した。1978年からは自身が学んだ学校で教えている。
バイオグラフィー
1931年に生まれた。家具職人の親方ニルス・ヴォッダーのもとで修業し、家具職人の資格を得ている。その後、コペンハーゲンのインテリアデザインの学校(現在の王立デンマーク・アカデミー)に進んでフィン・ユールに学んだ。ヨルゲン・カストホルムと出会ったのはこの学校である。
1957年、オーレ・ハーゲンの設計事務所に入った。数年後、同じ事務所でカストホルムと再び顔を合わせている。1961年、二人は自分たちの名を冠した事務所を設立した。共同期の椅子の多くは、ドイツのキル・インターナショナルが製造している。
1968年に協働は解消された。ファブリシウスは自身の事務所を構え、ドイツのウォルター・ノルなどのために設計を続けた。1978年、かつて学んだインテリアデザインの学校の教員となり、1984年に没するまで務めている。
デザインの思想と方法
木工から入った設計
ファブリシウスの出発点は木工である。ヴォッダーの工房で身につけたのは、仕口を正確に納める手の仕事だった。共同事務所の初期に発表された家具が無垢材を主材としているのは、この経験に沿った選択である。鋼と革が加わるのはその後で、金属の扱いはカストホルムの修業に由来する。
木工の背景は、素材が替わったあとも接合部の扱いに残った。仕口や金物を覆い隠さず、組み方が見える状態で仕上げる。装飾を減らしながら、部材がどう噛み合っているかは読み取れるようにするという方針である。
帰属を分けない設計の進め方
カール・ハンセン&サンによれば、二人は一枚の図面を机越しに何度もやり取りし、どちらが引いた線か判別できなくなるまで互いに手を入れた。このため、共同期の設計は個人に帰属を分けて語りにくい。二人の名を並べて呼ぶ慣習は、作業の実態に沿っている。
木工と金工という異なる修業を持つ二人が同じ図面に手を入れる進め方は、素材をまたいだ判断を早い段階で持ち込む。座の構造を木で考えるか金属で考えるかが、図面の往復のなかで決まっていくことになる。
単独期に残したもの
1968年以降の仕事で知られるのは、1972年にウォルター・ノルから発表された肘掛け椅子とソファ(型番710)である。鋼の型材による支持構造と肘掛けが、差し込まれた座を左右から挟み込む。ウォルター・ノルは、必要と見なさないものを省いていった結果この形に至ったと説明している。
共同期に鋼と革で組み立てた方法を、一人で続けた仕事にあたる。金属の枠を細く保ち、座と背は別のクッションとして載せる構成は、共同期の椅子から引き継がれている。
代表作にみる方法
FK63 ブックケースシステム(1963年)
オーク材の棚板と側板を仕口で組む収納の体系である。組んだ跡を削り落とさずに見せ、扉には真鍮の把手を付ける。隠す方向ではなく見せる方向で仕上げを決める考え方が、この仕事にはっきり出ている。カール・ハンセン&サンが現在も製造している。
FK10/FK11 プリコチェア(1963年)
使わないときに占める場所を減らすことを課題とした折りたたみの椅子で、背もたれが完全にたためる。名称はラテン語で「たたむ」を指す。可動部の金物と接合部を露出させたまま仕上げており、機構を隠さない方針は前項の収納と共通している。高い背のFK10と低い背のFK11がある。
FK シェルチェアとラウンジチェア
一枚の面の輪郭だけで腰と背と肘掛けを賄い、部材を足さずに済ませる方法をとった椅子である。共同期に到達した形として扱われ、1969年の連邦賞を受けている。ラウンジ向けの型についてはFK ラウンジチェアを参照。
ファブリシウス(710、1972年)
単独期の代表的な仕事である。前章で述べた鋼の型材による構成をとり、座を支える枠と肘掛けを一続きの部材で兼ねる。ウォルター・ノルは現在もこの型番を製造している。
評価と影響
一般的に、デンマークの家具が木工の伝統から鋼と革へ範囲を広げた時期の設計者として位置づけられる。7年ほどの共同期に発表された設計の多くが現在も生産されており、木の仕事はカール・ハンセン&サンが、鋼と革の仕事はウォルター・ノルが、それぞれ別の系列として引き継いでいる。
1978年からの教職は、自身が家具職人の修業から設計へ進んだ道筋を、後進に伝える立場に移った時期にあたる。
受賞
- 1969年 連邦賞「グーテ・フォルム」(Bundespreis Gute Form)。この年に創設された賞の最初の授与にあたる。対象はFK シェルチェアで、ヨルゲン・カストホルムとの共同名義
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1963年 | 収納 | FK63 ブックケースシステム | Carl Hansen & Søn(現行生産) |
| 1963年 | 椅子 | FK10/FK11 プリコチェア | Carl Hansen & Søn(現行生産) |
| 1963年 | 椅子 | シミターチェア | Carl Hansen & Søn(現行生産) |
| 椅子 | グラスホッパー(FK 87) | Kill International | |
| 1967年(公開) | 椅子 | FK シェルチェア(FK 6725 ほか) | Kill International、のち Walter Knoll |
| ラウンジチェア | FK ラウンジチェア | Walter Knoll | |
| 1972年 | 肘掛け椅子・ソファ | ファブリシウス(710) | Walter Knoll |
1963年までの作品はヨルゲン・カストホルムとの共同名義である。1972年の710は単独の設計にあたる。
ウォルター・ノルの歴史や他の製品について詳しくはウォルター・ノルブランドページをご覧ください。
プロフィール
| 生没年 | 1931年〜1984年 |
|---|---|
| 国籍 | デンマーク |
| 分野 | 家具 |
| 活動拠点 | コペンハーゲン |
| 主な協働ブランド | Kill International、Walter Knoll、Carl Hansen & Søn |
| 共同事務所 | 1961年〜1968年(ヨルゲン・カストホルムと) |
Reference
- Fabricius & Kastholm | Carl Hansen & Søn
- https://www.carlhansen.com/en/en/designers/fabricius-kastholm
- Preben Fabricius & Jørgen Kastholm | Walter Knoll
- https://www.walterknoll.de/en/designers/jorgen-kastholm-and-preben-fabricius
- FK63 Cabinet | Carl Hansen & Søn
- https://www.carlhansen.com/en/en/collection/bookcases-cabinets/fk63-cabinet
- Modern Icons: Fabricius Armchair | Walter Knoll
- https://www.walterknoll.de/products/lounge-chairs/Modern-Icons-Fabricius-Armchair