概要

フィリップ・マインツァーは、ドイツの建築家・デザイナーである。1995年に家具ブランドe15を共同で創業し、以後クリエイティブディレクターとして製品の設計と全体の方向づけを担っている。厚い無垢材を加工で整えずに扱う家具で知られ、テーブルBIGFOOTと腰掛けバッケンツァーンがその中心にある。フランクフルトを拠点に、家具の設計と並行して建築・内装の実務を続けている。1969年生まれ。

バイオグラフィー

1969年、ドイツに生まれる。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズでプロダクトデザインを、Architectural Associationで建築を学んだ。

1994年、建築を学んでいた時期にテーブルBIGFOOTを設計する。翌1995年、フローリアン・アッシェとともにロンドン東部で家具ブランドe15を立ち上げた。

e15の運営と並行してニューヨークで建築の実務にあたり、2001年にドイツへ戻った。2000年にはフランクフルトの複合店舗Bergmanの内装を手がけている。2004年からはファッションブランドCLOSEDの店舗設計を継続して担当し、以後、内装・建築・展示設計を扱う自身の事務所を主宰している。

現在はフランクフルトを拠点に、e15と設計事務所の双方でクリエイティブディレクター兼マネージングディレクターを務める。ドイツデザイン協議会(German Design Council)の理事会に名を連ね、建築・デザイン・ブランディングをめぐる講演を継続している。

デザインの思想と方法

等外とされた材から始める

1990年代前半の家具市場では、塗装された滑らかな面やガラス、金属による構成が主流にあった。マインツァーが選んだのはその逆で、節や割れを含む無垢のオーク材を、加工で整えずに製品の表に出す方向だった。最初期のテーブルは、貨車の壁板を再利用した材でつくられている。

脚に用いたのは丸太の中心部、すなわち心材である。乾燥の過程で割れが入るため、当時この部分は高級家具の材料として扱われず、廃棄される側にあった。マインツァーはこの割れを取り除く対象とせず、部材の見えがかりに残した。木の乾き方は一本ごとに異なるため、同じ設計から同じ表情の製品は生まれない。

取れる材から形を決める

材の使い方は、製品どうしの関係にも及んでいる。テーブルの製造で残る材から腰掛けを起こし、一本の木から取れる部分をできるだけ製品に振り向ける進め方は、後の製品にも引き継がれた。設計が先にあって材を探すのではなく、手元にある材の寸法から形を決める順序になっている。

接合部の扱いも一貫している。天板を脚の上に載せず、脚の間に落とし込んで隙間を残す、部材どうしの境目をそのまま見せる、といった納まりが繰り返し用いられる。部材の点数を増やさず、接合の跡を隠さないことで形が決まっている。

建築と家具を同じ手つきで扱う

プロダクトデザインと建築の双方を学び、両方の実務を並行して続けていることが、仕事の範囲に表れている。自身の事務所はe15の本社、見本市の展示、取引先の店舗の設計を手がけており、家具と、それが置かれる空間とを同じ担当が扱う体制になっている。

素材は無垢材にとどまらない。大理石真鍮、鋼を用いた小型のテーブル群では、材の厚みと重さを保ったまま部材を減らす手法が木の製品と同様に用いられている。

代表作にみる方法

BIGFOOT(1994年・テーブル)

e15の最初の製品であり、以後の方針を決めた仕事にあたる。角材の脚に心材を使い、乾燥で入る割れを残す扱いは、この設計から始まっている。1996年のケルン国際家具見本市で初めて公開された際、節と割れのあるオーク材が等外品と受け取られ、来場した販売業者に笑われたとマインツァー自身が振り返っている。同時に、展示台の前を通る人がテーブルの表面に触れずにいることはなかったとも述べている。

バッケンツァーン(1996年・腰掛け)

BIGFOOTの製造で出る端材を使うために設計された腰掛けで、四本の同じ脚だけで成り立つ。材の制約が形を決めた例として、以後もe15の説明にたびたび引かれる。2021年にはタンニンの反応で黒く発色させた仕様、2026年には同じ輪郭を板金でつくるBACKENZAHN STEELが加わり、同一の造形を別の素材で組み直す試みが続いている。造形と製法の詳細はバッケンツァーンのページで扱う。

SHIRAZ(ソファ)

アートディレクターのファラ・エブラヒミとの共同設計によるモジュール式のソファで、2007年のケルン国際家具見本市で発表された。背もたれを外して低い台と座面を並べる構成が取れるため、椅子として座る形と、床座に近い姿勢の双方に対応する。2008年にドイツ連邦共和国デザイン賞を受けている。

ENOKI(サイドテーブル)

大理石や無垢材の天板と、粉体塗装した鋼の脚を組み合わせる小型のテーブル群。木以外の素材を扱う際も、天板の厚みを削らず、支える部材を細く保つという配分は変わらない。後年には全体を金属で構成した仕様も加えられた。

評価と影響

一般に、1990年代の家具において無垢材の扱いを変えた設計者として言及される。節、割れ、心材といった、それまで避けられていた部分を製品の表に置く方針は、その後の木製家具の見え方に影響したと評価されている。

建築・内装では、台北のXue Xue Institute(2007年)、フランクフルトのAesop店舗(2015年)、黒い森の蒸留所(2015年)などを手がけた。2016年には、ローザンヌ州立美術大学(ÉCAL)の修士課程との協働で、バッケンツァーンと同じ端材だけを用いる制作課題が行われている。

受賞

対象
2006年 Interior Innovation Award(ケルン) BIGFOOT ほか
2008年 ドイツ連邦共和国デザイン賞 SHIRAZ(ファラ・エブラヒミと共同)
2008年 Interior Innovation Award(ケルン) ベッド PARDIS
2011年 Interior Innovation Award テーブル ZEHN

作品一覧

発表年 区分 作品名 ブランド
1994年 テーブル BIGFOOT e15
1994年 テーブル PONTE e15
1996年 スツール・サイドテーブル バッケンツァーン e15
1999年 ベッド MO e15
2005年 テーブル ANTON e15
2007年 ソファ SHIRAZ(ファラ・エブラヒミと共同) e15
ベッド PARDIS e15
サイドテーブル HABIBI、DREI、VIER e15
テーブル ZEHN、LONDON e15
収納家具 SHAHNAZ、MAHNAZ、FARAH、FARIBA、ARAQ、DARA e15
チェア BYRON e15
サイドテーブル ENOKI e15
2015年 テーブル HOLBORN e15
2021年 サイドテーブル Backenzahn Black Oak e15
2026年 サイドテーブル BACKENZAHN STEEL e15

プロフィール

生年 1969年
国籍 ドイツ
教育 セントラル・セント・マーチンズ(プロダクトデザイン)、Architectural Association(建築)
活動拠点 フランクフルト・アム・マイン
分野 家具・プロダクト、建築・内装
主な協働ブランド e15

Reference

Profile | PHILIPP MAINZER OFFICE FOR ARCHITECTURE AND DESIGN
http://www.philippmainzer.com/profile/
e15(プロジェクト一覧)| PHILIPP MAINZER OFFICE FOR ARCHITECTURE AND DESIGN
http://www.philippmainzer.com/tag/e15/
30 YEARS BIGFOOT | e15
https://www.e15.com/cms/en/aktuelles/30-years-bigfoot/
Design awards | e15
https://www.e15.com/cms/en/company/design-awards/
BACKENZAHN STEEL | e15
https://www.e15.com/cms/en/aktuelles/new-releases/backenzahn-steel/
e15: 30 years of 'Bigfoot' | Stylepark
https://www.stylepark.com/en/news/e15-bigfoot-backenzahn-philipp-mainzer-wood-design-stylepark-magazine
Mainzer, Philipp(統合典拠ファイル GND 1100313494)| ドイツ国立図書館
https://d-nb.info/gnd/1100313494