概要
パオロ・リッツァット(1941年生まれ)は、イタリアの建築家・デザイナーである。建築を学び、光を空間の機能として扱うところから照明の設計を始めた。1978年にルーチェプランを共同で設立し、設計者が製造企業を持つ体制をとっている。既存の器具の類型を材料と技術の側から作り直すという方法をとる。
バイオグラフィー
1941年、ミラノ生まれ。1965年にミラノ工科大学の建築学科を卒業し、照明メーカーのアルテルーチェ(Arteluce)で仕事を始めた。ジーノ・サルファッティが率いた同社は、当時のイタリアで照明設計の技術的水準を押し上げていた企業であり、リッツァットの出発点はこの環境にある。
1968年、ミラノに自身のスタジオを設立。当初の仕事の中心は建築で、1972年のセグラーテ保育所を皮切りに、住宅や集合住宅、公共施設の設計を手がけた。並行して照明の設計を続け、1973年にアルテルーチェのために設計した265ウォールランプで国際的に知られるようになる。翌1974年、アルテルーチェはフロスに吸収され、265は現在もフロスの製品として生産されている。
1978年、リッカルド・サルファッティ、サンドラ・セヴェーリとともに照明メーカーのルーチェプラン(Luceplan)を設立。設計者が製造企業を持つという体制のもとで、以降の主要な照明作品はこの会社から発表されている。1997年にはミラノのルーチェプラン本社・工場の設計も自ら手がけた。
コロンビア大学、ミラノ工科大学、デトロイトのクランブルック、セントルイスのワシントン大学、モスクワの建築大学、パレルモ大学、ヴェネツィア建築大学(IUAV)で教鞭を執っている。2024年、第28回コンパッソ・ドーロで生涯功労賞を受けた。
デザインの思想とアプローチ
リッツァットは自身の出発点を建築に置き、光を建築の中での機能として捉えるところから設計を始めたと述べている。器具の造形を先に決めるのではなく、その空間で光がどう働くべきかを決め、そこから器具の型を導く順序をとる。
類型の書き換え
彼の照明の多くは、既存の器具類型に対する再定義として組み立てられている。コスタンツァは伝統的なスタンドランプ(abat-jour)を現代の材料で組み直したものであり、265は壁付け照明に360度の回転と可動アームを与えて用途の範囲を書き換えた。新しい形を発明するより、既にある型の限界を動かす方向を選んでいる。
技術者との分業
機械工学出身のアルベルト・メダとの協働が、1980年代半ば以降の仕事の中核をなす。ベレニーチェ、ロラ、ティタニア、メトロポリ、フォルテブラッチョ、ミックスはいずれも二人の共同設計であり、構造と機構をメダが、光の性格と全体の型をリッツァットが受け持つ分担で進められた。
色を機能の一部として扱う
ティタニアは交換可能な色フィルターを備え、使用者が光の色と器具の見え方を変更できる。265にも彩度の高い色を用いたバリエーションがある。色を仕上げの選択肢としてではなく、製品の使われ方を決める要素として扱う姿勢が共通している。
作品の特徴
薄く、軽く、可動する。この三つがリッツァットの照明に一貫する。素材はアルミニウム、ポリカーボネート、メタクリレートなど、薄い断面で強度を得られるものが選ばれる。
- 可動機構の標準装備
- 265の360度回転する灯体とカウンターウェイト、フォルテブラッチョの関節アームなど、光の向きを使用者が決める機構が設計の中心に置かれる
- 薄い断面での構造
- ティタニアはアルミの肋材を並べた中空の構成で、体積の大きさに対して重量が小さい。構造を見せることが同時に外形になっている
- 建築と照明の往復
- 1970年代から建築の設計を継続しており、器具の設計にも空間側からの視点が持ち込まれている
- ファミリー展開
- コスタンツァは1986年の発表以降、フロア、テーブル、ペンダント、ウォールへ展開し、1992年には小型版のコスタンツィーナが加わった
- 他分野への展開
- 照明に限らず、アリアス、カッシーナ、クノール、カルテル、トーネットなどのために家具も設計している
主な代表作とその特徴
照明
アルテルーチェのために設計された壁付け照明。長いアームの先に灯体を置き、反対側の錘で釣り合いを取る。灯体は360度回転し、アームは水平方向に振れる。壁付けでありながら位置と向きの自由度が大きく、リッツァットの名を国際的に知らせた製品である。1974年のアルテルーチェ吸収以降はフロスが生産を継続している。
コスタンツァ(1986年)
ルーチェプランのために設計されたスタンドランプ。ポリカーボネートのシェードを細い支柱に載せ、シェードの縁に触れることで調光する。伝統的なテーブルランプの類型を、薄い樹脂と細い金属で組み直したもので、ルーチェプランの継続的な主力製品となった。フロア、テーブル、ペンダント、ウォールの各形式に展開している。1992年には小型版のコスタンツィーナが加わり、そのテーブルランプ(D13pi)はニューヨーク近代美術館に収蔵されている(収蔵番号 30.1997.1-2)。
ベレニーチェ(1985年)/ロラ(1987年)
いずれもアルベルト・メダとの共同設計。ベレニーチェはアルミの細いアームとガラスのシェードによるデスクランプ、ロラは炭素繊維の支柱を用いたフロアランプである。ロラは1989年のコンパッソ・ドーロを受賞した。
ティタニア(1989年)
メダとの共同設計によるペンダントランプ。アルミの肋材を並べた楕円形の中空体で、内側に交換可能な色フィルターを装着できる。フィルターの色を変えることで、器具の見え方と室内に落ちる光の色が同時に変わる。
メトロポリ(1992年)/ミックス(2005年)
メトロポリはメダおよびリッカルド・サルファッティとの共同設計による壁・天井灯で、1994年のコンパッソ・ドーロを受賞。ミックスはメダとの共同設計によるLEDのデスクランプで、電子回路の配置から設計することで極端に薄い灯体を実現し、2008年のコンパッソ・ドーロを受けた。ミックスはニューヨーク近代美術館に収蔵されている(収蔵番号 82.2009)。
建築
初期の建築作品
1972年のセグラーテ保育所(ミラノ近郊)を最初の完成作とし、フォルメンテーラ島の別荘(1972年)、ベッルーノ県フェルトレの住宅地区(1974年)、ボローニャ県バッツァーノの郊外住宅(1976年)が続く。1985年のモンテシーロの二世帯住宅、1986年のノヴァーラ県ガッリアーテの高齢者施設なども手がけた。
ルーチェプラン本社・工場(1997年)
自ら設立した会社の建物を自ら設計した例。製造と設計の場を一体として計画している。
功績・業績
- 1965年 ミラノ工科大学 建築学科卒業
- 1968年 ミラノに自身のスタジオを設立
- 1978年 リッカルド・サルファッティ、サンドラ・セヴェーリとルーチェプランを設立
- 1981年 コンパッソ・ドーロ受賞(D7、サンドロ・コルベルタルドと共同)
- 1989年 コンパッソ・ドーロ受賞(ロラ、アルベルト・メダと共同)
- 1994年 コンパッソ・ドーロ受賞(メトロポリ)/ヨーロッパ・コミュニティ・デザイン賞
- 2004年 ミラノ・ダルセナ地区の国際設計競技で受賞
- 2008年 コンパッソ・ドーロ受賞(ミックス)
- 2011年 コンパッソ・ドーロ受賞(アリアスのテーブル)
- 2024年 第28回コンパッソ・ドーロ 生涯功労賞
評価・後世に与えた影響
リッツァットの位置づけを決めているのは、設計者でありながら製造企業の共同設立者でもあるという二重性である。1978年のルーチェプラン設立は、設計案を企業に持ち込むという通常の関係を離れ、材料開発から生産設備までを設計の射程に含める体制をつくった。1997年に自ら本社・工場を設計したことは、その考え方の延長にある。
照明の分野では、ジーノ・サルファッティのアルテルーチェから受け継いだ技術志向を、樹脂と軽量金属の時代へ移した設計者として扱われることが多い。265は1973年の設計でありながら現在もフロスの現行品であり、コスタンツァは1986年以降ルーチェプランの主力であり続けている。いずれも造形の新奇さではなく、機構と光の質で長期の流通を得た製品にあたる。
公的な評価としては、コンパッソ・ドーロを5回受け、2024年には生涯功労賞を受けた。アルベルト・メダとの長期にわたる協働は、機械工学と建築という異なる出自の設計者が組む形式として、後続のイタリアのデザイン実務にも参照されている。
収蔵
4館のAPI(MoMA、V&A、Met、AIC)で照合したところ、計3件が確認できた。
- MoMA コスタンツィーナ テーブルランプ(D13pi、1992年) 収蔵番号 30.1997.1-2
- MoMA ミックス ランプ(2005年) 収蔵番号 82.2009
- AIC ホープ シャンデリア(2009年、アルベルト・メダと共同) 収蔵番号 2011.723
V&A、Met では該当する収蔵は確認できなかった。イタリア国内の館については照合手段がない。
作品一覧
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1972年 | 建築 | セグラーテ保育所(ミラノ) | - |
| 1972年 | 建築 | フォルメンテーラ島の別荘 | - |
| 1973年 | 照明 | 265 ウォールランプ | Arteluce → Flos |
| 1974年 | 建築 | フェルトレの住宅地区(ベッルーノ) | - |
| 1976年 | 建築 | バッツァーノの郊外住宅(ボローニャ) | - |
| 1981年 | 照明 | D7(サンドロ・コルベルタルドと共同) | Luceplan |
| 1985年 | 照明 | ベレニーチェ(Berenice/アルベルト・メダと共同) | Luceplan |
| 1985年 | 建築 | モンテシーロの二世帯住宅(ミラノ) | - |
| 1986年 | 照明 | コスタンツァ(Costanza) | Luceplan |
| 1986年 | 建築 | 高齢者施設(ガッリアーテ、ノヴァーラ) | - |
| 1987年 | 照明 | ロラ(Lola/アルベルト・メダと共同) | Luceplan |
| 1989年 | 照明 | ティタニア(Titania/アルベルト・メダと共同) | Luceplan |
| 1992年 | 照明 | メトロポリ(Metropoli/メダ、R・サルファッティと共同) | Luceplan |
| 1992年 | 照明 | コスタンツィーナ(Costanzina) | Luceplan |
| 1997年 | 建築 | ルーチェプラン本社・工場(ミラノ) | - |
| 1998年 | 照明 | フォルテブラッチョ(Fortebraccio/アルベルト・メダと共同) | Luceplan |
| 2005年 | 照明 | ミックス(Mix/アルベルト・メダと共同) | Luceplan |
| 2005年 | 照明 | クイーン・ティタニア(Queen Titania/アルベルト・メダと共同) | Luceplan |
| 2009年 | 照明 | ホープ(Hope/フランシスコ・ゴメス・パスと共同) | Luceplan |
プロフィール
| 生年 | 1941年 |
|---|---|
| 出身地 | イタリア・ミラノ |
| 国籍 | イタリア |
| 活動拠点 | ミラノ |
| 分野 | 照明、建築 |
| 主な協働ブランド | Flos、Luceplan、Arteluce |
Reference
- Paolo Rizzatto - Luceplan
- https://www.luceplan.com/designers/paolo-rizzatto/
- Paolo Rizzatto wins the Compasso d'Oro ADI for the career - Luceplan
- https://www.luceplan.com/paolo-rizzatto-wins-the-compasso-doro-adi-for-the-career/
- Paolo Rizzatto - Wikipedia(italiano)
- https://it.wikipedia.org/wiki/Paolo_Rizzatto
- Paolo Rizzatto - Wikidata
- https://www.wikidata.org/wiki/Q55219698
- Paolo Rizzatto - Fiam Italia
- https://www.fiamitalia.it/en/designer/paolo-rizzatto/
- Paolo Rizzatto - Pamono
- https://www.pamono.com/designers/paolo-rizzatto
- Tutte le edizioni del Compasso d'Oro - ADI
- https://www.adi-design.org/tutte-le-edizioni-del-compasso-d-oro.html
- Constanzina Table Lamp (D13pi) - MoMA Collection
- https://www.moma.org/collection/works/1681
- Mix Lamp - MoMA Collection
- https://www.moma.org/collection/works/120050