パラティッシ ── フィンランドが生んだ「楽園」の食卓
フィンランド語で「楽園」を意味するパラティッシ(Paratiisi)は、北欧のテーブルウェアを代表するシリーズのひとつである。1969年にアラビア(Arabia)から発表されて以来、半世紀を超えて生産が続けられてきた。たわわに実った果実とパンジー、カシスの葉を大胆に描いた絵柄は一度目にすれば忘れがたく、日常の食事を華やかなひとときへと変える。和食から洋食まで幅広い料理と調和し、北欧デザインの食器として長く親しまれている。
概要
パラティッシは、1969年に発表されたテーブルウェアシリーズである。シリーズ名に冠された「楽園」の名にふさわしく、パンジー、カシス、ぶどう、りんごといった花と果実のモチーフが白磁の上に豊かに描かれる。ミニマルな装いが主流であった当時の北欧食器のなかで、絵付けによる豊潤な装飾性を前面に打ち出した点に特徴がある。
この華やかな絵柄は、日々の食卓に彩りをもたらす実用的なデザインとして評価されてきた。発売から半世紀を超えた現在も生産が続けられ、フィンランドのみならず日本をはじめ世界各国で、北欧食器の定番として流通している。
特徴・コンセプト
絵柄の由来
パラティッシの意匠は、1967年のモントリオール万博のために制作された大型レリーフ作品「オルヴォッキメリ(Orvokkimeri/スミレの海)」に由来するとされる。白鳥とスミレの花が織りなす幻想的な情景を描いたこの作品の世界観が、日々手に取れる食器の絵付けへと落とし込まれている。豊穣な果実と花のモチーフは、シリーズの表情を決定づける中心的な要素である。
シルクスクリーン印刷による表現
パラティッシは、アラビアにおけるシルクスクリーン印刷技術の先駆的な作品のひとつである。1960年代に普及し始めたこの技法により、複数の色彩を同時に用いることが可能となり、従来の手描きでは実現しにくかった鮮明で精緻なパターンの量産が実現した。鮮やかな色彩とシャープな輪郭線は、この技術による表現の成果である。
オーバルという造形
パラティッシには、楕円(オーバル)を基調とした造形が採用されている。有機的な曲線は食卓に優雅さをもたらすとともに、料理を盛り付けた際に美しい余白を生み、盛り付けを引き立てる効果を持つ。現在は円形のプレートも展開されており、用途に応じて選べる。
三つのカラーバリエーション
パラティッシは現在、三つのカラーバリエーションで展開されている。1969年の発売当初から続くオリジナルの「カラー」は、ブルーとイエローを基調とした華やかな配色である。1972年に加わった「ブラック」は、モノトーンでグラフィカルな印象を食卓にもたらす。そして2012年、フィンランドの老舗百貨店ストックマンの創業150周年を記念して誕生した「パープル」は、落ち着いた色調が特徴で、カラーとブラックの中間的な魅力を備える。三色は混ぜ合わせて使うことで、食卓に変化と奥行きをもたらす。
背景とエピソード
生産中止と復活
パラティッシの歩みは平坦ではなかった。1974年、経済危機に直面したアラビアは製品ラインナップを大幅に縮小し、パラティッシも一度は生産を終えた。しかし復活を望む声は途絶えることなく、1988年にカラータイプが生産を再開する。この再生産にあたりプレートの形状はオーバルから円形へと変更され、デザインの再調整が行われた。ブラックタイプの復活は、さらに時を経て2000年のことである。
日本との縁
パラティッシは日本でも広く親しまれてきた。2006年、映画「かもめ食堂」の公開をきっかけに北欧ブームが到来し、劇中で使われたアラビアの食器が注目を集めた。ブラックにも人気が波及したが、前年に一度廃番となっていたため市場の在庫は少なく、入手困難な状態となる。日本からの要望を受け、2007年にブラックの生産が再開された。さらに2009年には、日本のインテリアショップ「スコープ」がアラビアに別注し、オーバル型プレートを復刻。現在このオーバルプレートは定番ラインナップに加えられている。
評価
パラティッシは、アラビアを代表するテーブルウェアシリーズとして国内外で広く知られている。実用面では、現行品はビトロポーセリン(磁器)製で電子レンジ・オーブン・食器洗浄機に対応し、縁が立ち上がった形状は汁気のある料理にも扱いやすい。重ね置きした際の収納性にも配慮されており、意匠の華やかさと日常使いの実用性を両立させている。
日本では2006年以降の北欧デザインブームを機に浸透し、現在は北欧食器の定番のひとつとして定着している。和食・洋食を問わず合わせやすく、食卓に自然になじむことも、長く使われ続ける背景にある。
基本情報
| 名称(日本語) | パラティッシ |
|---|---|
| 名称(英語) | Paratiisi |
| デザイナー | ビルガー・カイピアイネン(Birger Kaipiainen, 1915–1988 / フィンランド) |
| ブランド | アラビア(Arabia)/イッタラグループ(Iittala Group) |
| デザイン年 | 1969年 |
| 分類 | テーブルウェア(キッチン) |
| 素材 | ビトロポーセリン(磁器)※初期生産品はファイアンス陶器 |
| 製造国 | タイ(2016年まではフィンランド製) |
| カラーバリエーション | カラー(ブルー&イエロー)、ブラック(ブラック&ホワイト)、パープル |
| 主なアイテム | プレート(14cm / 16.5cm / 21cm / 26cm)、オーバルプレート(25cm / 36cm)、ボウル(13cm / 17cm / 23cm)、マグ(0.24L / 0.35L)、カップ&ソーサー(コーヒー180ml / ティー280ml)、ピッチャー、ジャー 他 |
| 装飾技法 | シルクスクリーン印刷 |
| 対応機器 | 電子レンジ、オーブン、冷凍庫、食器洗浄機 対応(現行ビトロポーセリン製品) |
| モチーフ | パンジー、カシス(黒スグリ)、ぶどう、りんご 等の花と果実 |
| 生産期間 | 1969年–1974年(初期生産)、1988年–現在(カラー再生産以降、継続生産中) |