概要
ジャックは、トム・ディクソンが自身の会社ユーロラウンジのために設計した照明である。六方向へ腕の張り出した中空の形を回転成形でつくり、内側に光源を収める。1990年代半ばに設計され、ユーロラウンジが世に出した最初の製品となった。立てて照明として使うほか、腰を下ろす、積み重ねる、天板を載せて台にするといった扱い方ができる。1997年に英国のミレニアム・マークを受け、同年ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館が4点を収めている。現在はトム・ディクソンの製品として、充電池を内蔵した屋外用の照明に作り直されて生産が続く。
特徴・コンセプト
照明として構想され、あとから座れると分かった
ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)の収蔵記録によれば、この形の出発点はディクソン自身が手がけた星形の紙製ランタンにあり、その形をコンピュータ上で立体に起こしたものが原型になっている。当初は照明としてのみ構想されており、設計を進める過程で、選んだ素材と形が人の体重を支えられることが判明した。座れるという性質は要求仕様ではなく、途中で見つかった余地である。
この発見以降、設計者はこれを座り・積み・照らすものとして説明している。三つの役割はいずれも同じ一つの外殻が担っており、用途ごとに部材を足していない。天板や脚を追加せずに台や椅子として成立するのは、成形品の殻そのものに必要な強度があるためである。
回転成形が決めた形と費用
形を左右しているのは成形の方法である。回転成形は圧力をかけずに樹脂を金型の内壁へ行き渡らせるため、型に高い耐圧性能が求められない。ボーンマス芸術大学のMuseum of Design in Plasticsは、標準的な設備で型を回せる点と、それによる費用の低さが設計者にとっての利点だったと記録している。六方向へ大きく張り出した嵩のある中空の形を、小さな初期投資で量産できたのはこのためである。当時この方法が主に使われていたのは、道路の車止めや屋外の什器といった大型の樹脂製品だった。
肉厚が全体にわたって偏りにくいのも、この成形法の性質による。局所的に薄い箇所ができないため、中空でありながら人が腰かけても壊れない強度が出る。それでいて片手で動かせる重さに収まっており、V&Aはこの持ち運びやすさと強度の両立をこの製品の性格として記している。腕と腕のあいだに広い空隙があるため、複数を重ねても互いに入り込んで嵩張らない。
向きを持たない構成
初期の個体には接地用の突起がなく、上下の区別もなかった。六本の腕が三方向へ対称に伸びるため、どの向きに置いても複数の腕が床に当たって安定する。照明として立てるか、腰かけるか、台の脚部として使うかを、置き方だけで切り替えられる構成である。
素材に入った色と、にじむ光
素材は低密度のポリエチレンで、着色した粉末を型に入れるため、色は塗装ではなく素材そのものに入る。表面が擦れても下地が現れず、扱いの荒い場所に置ける。この耐久性は、住宅よりも先に酒場や夜間営業の店で評価された。
乳白の樹脂は、そのまま拡散板の役割を果たす。光源の輪郭が外に出ず、殻の面全体からにじむような光り方になる。角に丸みがあり、表面に艶がないことも同じ方向に働いている。V&Aが収める4点のうち一点は蓄光の樹脂で成形されており、消灯後もしばらく光る。
エピソード
ディクソンは1994年、樹脂による仕事のための会社としてユーロラウンジを設立している。ジャックはその最初の製品にあたる。初期の型は既製の設備を流用してつくられたもので、トム・ディクソンは金属製のボウルを手直しして六つ組み合わせた自作の型だったと説明している。成形の工程そのものは外部に委ねられ、最初の時期の個体はサマセットの農業機械メーカーであるWyedaleが成形した。
量産の途中で委託先が変わり、後期の個体はマンチェスターの樹脂製品メーカーであるMailboxが手がけている。この時期の個体には接地部に突起が加えられた。樹脂が床で擦れるのを防ぐためだが、それによって置き方が一通りに定まり、上下の区別が生まれた。灯具を通す穴の仕上げも、初期の粗いものから整えられている。
V&Aの収蔵記録は、この製品が酒場やナイトクラブのような人の集まる場所での使用を想定していたと記す。ドイツのナイトクラブでは蓄光の個体が70台使われ、スウィンドンでは照明設計者のジェレミー・ロードと組んで、40台を積み上げて内側から色を変える塔が作られている。
設計年については資料が分かれる。V&Aの収蔵記録は設計を1996年、製造を1997年とする。一方、トム・ディクソンとMuseum of Design in Plasticsはいずれも1994年の設計として扱っている。
ユーロラウンジの歴史や他の製品について詳しくはユーロラウンジブランドページをご覧ください。
評価と影響
V&Aは1997年に4点を収蔵し、当時の英国の家具デザインの先端を示す例として記録している。発売から間もない製品を、色の違う個体まで揃えて収めた扱いにあたる。同館の記録は、発売から半年で1200台が売れたことにも触れている。
現在はトム・ディクソンの製品として生産が続く。電源コードを排して充電池とLEDを内蔵し、IP65の防水等級を得て屋外にも置ける形に作り直された。光源と電池を交換できる構成を採っており、本体を使い続けられるようにしている。
トム・ディクソンの設計思想や経歴について詳しくはトム・ディクソンプロフィールページをご覧ください。
受賞歴・収蔵
1997年、英国のミレニアム・マーク(Millennium Mark Award for Great British Design)を受けている。
ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は4点を収蔵する。収蔵番号は W.8-1997(白)、W.9-1997(黄)、W.10-1997(橙)、W.11-1997(蓄光)で、製造者はいずれも Eurolounge Ltd として登録されている。
ボーンマス芸術大学のMuseum of Design in Plasticsも、2007年製の一点を収蔵している(資料番号 AIBDC:005550)。同館はこの形を玩具のジャックになぞらえて記述しており、名称もその形状に対応する。
基本情報
| デザイナー | トム・ディクソン |
|---|---|
| ブランド | ユーロラウンジ(現在はトム・ディクソン) |
| 発表年 | 1996年 |
| デザインの成立国 | イギリス |
| 主要素材 | 低密度ポリエチレン |
| 製法 | 回転成形 |
| 寸法 | 幅630×奥行630×高さ530mm(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館収蔵の個体) |
Reference
- Jack light, Victoria and Albert Museum (W.8-1997)
- https://collections.vam.ac.uk/item/O49855
- Jack light, Victoria and Albert Museum (W.9-1997)
- https://collections.vam.ac.uk/item/O50043
- Jack light, Victoria and Albert Museum (W.10-1997)
- https://collections.vam.ac.uk/item/O50047
- Jack light, Victoria and Albert Museum (W.11-1997)
- https://collections.vam.ac.uk/item/O50049
- Jack Fluoro Red, Museum of Design in Plastics (AIBDC:005550)
- https://www.modip.ac.uk/artefact/aibdc-005550
- Jack Large Portable Light, Tom Dixon
- https://www.tomdixon.net/us/lighting/portable/jack-large-portable-light-usjapo01whun