ブックワームは、1993年のミラノ家具見本市で発表され、翌1994年からイタリアの家具メーカー、カルテル社によって量産が始まったウォールシェルフである。デザインしたのは、イスラエルに生まれロンドンを拠点とするロン・アラッド。当初はスプリング鋼による一点物として構想されたが、カルテル社との協働でPVC製の量産品として生まれ変わり、アラッドの代表作の一つとなった。
ブックワームの特徴は、その名のとおり、本の虫が這うような曲線を描く柔軟な形状にある。直線的な本棚の概念から離れ、壁面への取り付け方次第で形が変わる自由な造形を可能にした。ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の永久コレクションに収蔵されているほか、2008年から2009年にかけてポンピドゥー・センターとニューヨーク近代美術館を巡回したアラッドの回顧展「ロン・アラッド:ノー・ディシプリン」でも紹介された。
特徴・コンセプト
素材と製造技術
ブックワームの出発点は、スプリング鋼による一点物だった。アラッドはカルテル社との協働を通じて、押出成形によるPVC製へと仕様を変え、量産と普及を実現した。プラスチック成形を得意とするカルテル社の技術によって、重量とコストを抑えながら、曲線を描く形状を保つことができた。
用いられる難燃性PVCは、柔軟性と強度を併せ持つ。各ブックエンドは約10kgの荷重を支え、収納家具として実用に足りる。曲線を描いた状態で壁面に固定することで素材に適度な張力が生まれ、耐久性も高まる。
ユーザー参加型デザイン
ブックワームのもう一つの特徴は、最終的な形を使用者に委ねる点にある。壁面への取り付け方によって、螺旋状、緩やかな波形、あるいはその中間の形状を作り出せる。同じ製品でありながら、設置される空間の数だけ異なる表情を持つ。
この設計は、完成品を提供するのではなく、造形のための枠組みを差し出すというアラッドの考え方を表している。使用者は、最終的な形に関わる作り手として位置づけられる。
エピソード
製品名の「Bookworm(本の虫)」は、読書家を指す言葉であると同時に、蛇行する形状が虫の這う様子を思わせることから名付けられた。この言葉遊びには、実用と造形、機能と遊び心を軽やかに結びつけるアラッドの姿勢がうかがえる。「本棚とはこうあるべき」という前提に対して、別のあり方を示した一作である。
評価
カルテル社は本作を「世界で最も大胆な本棚」と表現している。その新しさは造形の斬新さにとどまらず、直交と安定を重んじる従来の家具デザインに対し、有機的な曲線と動的なバランスという別の美学を示した点にある。
ブックワームはアラッドのベストセラーの一つとなり、30年以上にわたって生産が続いている。住宅のインテリアだけでなく、ブティックやギャラリー、オフィスなど多様な空間で使われ、その都度異なる形を見せている。
後世への影響
ブックワームは、プラスチックという素材の可能性を広げ、家具デザインに新たな方向を示した。カルテル社が1970年代以降に進めてきたプラスチック家具の系譜において、90年代を代表する一作に位置づけられる。1972年にニューヨーク近代美術館で開催された「イタリア:ニュー・ドメスティック・ランドスケープ」以来、イタリアのデザインが追求してきた遊び心と実験精神を、90年代に受け継いだ作品といえる。
アラッドの仕事は、デザインが機能の追求にとどまらず、驚きと喜びをもたらすものであるという考えに貫かれている。ブックワームは、既成概念に挑み、使用者を造形のプロセスに招き入れる一例として、後のデザイナーにも影響を与えている。
基本情報
| デザイナー | ロン・アラッド(Ron Arad) |
|---|---|
| メーカー | カルテル(Kartell) |
| デザイン年 | 1993年(ミラノ家具見本市発表) |
| 製造開始 | 1994年 |
| 素材 | 難燃性PVC(ポリ塩化ビニル) |
| 製造技術 | 押出成形 |
| サイズ展開 | 3種(ブックエンド7個:長さ320cm/11個:長さ520cm/17個:長さ820cm。奥行20cm・高さ19cm共通) |
| 耐荷重 | 各ブックエンド約10kg |
| 生産国 | イタリア |
| コレクション | ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(ロンドン) |