ヴィルヘルム・ラウリッツェン

ヴィルヘルム・ラウリッツェン(Vilhelm Lauritzen、正式名ヴィルヘルム・テオドア・ラウリッツェン、1894年9月10日 - 1984年12月22日)は、デンマークを代表する建築家の一人であり、同国における機能主義(ファンクショナリズム)の先駆者として知られる。建築のみならず、家具・照明・ドアハンドルに至るまでを一貫して手がけ、その設計思想は今日のデンマーク・モダンの礎の一つに数えられている。

バイオグラフィー

1894年、シェラン島のスラーエルセに生まれる。1912年にソーロ・アカデミーを卒業し、1921年に王立デンマーク美術アカデミー建築学校を修了。翌1922年、自身の設計事務所「テイネストゥーエン・ヴィルヘルム・ラウリッツェン(現ヴィルヘルム・ラウリッツェン・アルキテクター)」を設立した。スペインとギリシャへの研修旅行が後の作風に影響を与えたと語られる。最初の主要な仕事となったダエルス百貨店は、1922年にフリッツ・シュレーゲルとの協働でコンペを制したものである。生涯を通じて、建築を「一部の特権層のためではなく、すべての人のための応用芸術」と捉える姿勢を貫いた。蝶の収集と観察を好んだことでも知られ、自然界の秩序への関心が設計にも通じていたとされる。1984年、90歳で没した。

デザインの思想とアプローチ

「形は機能に従う」という機能主義の原則に立ち、装飾を削ぎ落として、使いやすさと機能的な解決を設計の中心に据えた。本人の言葉として「美なくして生活なし(There is no life without aesthetics)」が伝えられており、機能への徹底と美意識とを両立させる姿勢がうかがえる。同時代のアルネ・ヤコブセンやフィン・ユールと比べ、自らを前面に出すことを好まず、作品そのものを遺そうとした人物として語られる。なお、フィン・ユールは1934年から1945年までの11年間、ラウリッツェンの事務所に建築家として在籍した。

作品の特徴

ラウリッツェンの設計は、建物の外形から内部の家具・照明・金物までを一体として計画する「総合芸術(ゲザムトクンストヴェルク)」的な性格を持つ。空間の各機能が建物のかたちそのものに表れるよう構成し、細部の造形や素材の扱いにまで一貫した論理を通した。装飾に頼らず、必要な機能から形を導くその手法は、一見すると簡素でありながら、周到な検討に裏づけられている。

主な代表作

ダエルス百貨店(Daells Varehus、1928–1935年)

コペンハーゲンに段階的に建設された百貨店で、デンマークにおける初期のモダン建築の一つに数えられる。1922年にフリッツ・シュレーゲルとの協働でコンペを制し、実現に至った。

コペンハーゲン空港 初代ターミナル(1936–1939年)

商業航空がまだ新しかった時代に、カストラップに建てられた初代ターミナル。1936年に設計を開始し、1939年に完成した。機能主義の立場から建物を「エアサイド」と「ランドサイド」に分ける構成を採り、この考え方は今日の世界の多くの空港にも通じている。現在は「ヴィルヘルム・ラウリッツェン・ターミナル」と呼ばれ、1998年に文化財として曳家・修復された。

ラジオ局舎(Radiohuset、1945年竣工)

デンマーク放送協会(DR)のための建物。設計は1930年代半ばに始まり、第二次世界大戦下の建設を経て1945年に完成した。家具やドアハンドルから空間構成に至るまでを一貫して設計した総合芸術として知られ、文化財に指定されている。ファサードには砂岩を、内部にはグリーンランド産大理石・真鍮・チーク材を用いた。現在は王立デンマーク音楽アカデミーが使用している。

フォルケツ・フス/VEGA(1953–1956年)

労働運動のための集会所として構想された建物で、1956年に完成した。ドアや手すり、照明、家具に至るまでラウリッツェンが細部を設計している。今日ではヨーロッパを代表するコンサート会場の一つとして知られる。

VL38(1938年、ルイスポールセン)

ラジオ局舎の建設に際し、ルイスポールセン(Louis Poulsen)と協働して設計したランプ。作業灯から着想を得ており、当初は局舎のスタジオで、製図板の上に吊るしたり、壁付けの読書灯として試された経緯を持つ。有機的な曲線を描くシェードは下向きの的確な光を放つ。テーブル・フロア・ウォールの各タイプがあり、2016年秋に白/真鍮仕様で復刻され、2017年にはブラックが加えられた。同じくラジオ局舎のために設計されたVL45ペンダントも、ルイスポールセンから製品化されている。

ヴェガチェアとフォイエ・シリーズ

VEGAのために設計されたスタッキングチェア「VLA26 ヴェガチェア」(1956年)と、ラジオ局舎のフォイエ(ホワイエ)のために設計されたベンチ・ソファ・チェアは、事務所設立100周年にあたる2022年、カール・ハンセン&サン(Carl Hansen & Søn)との協働により一般向けに復刻された。いずれも、機能を第一に据えつつ穏やかな造形をもつ、ラウリッツェンの家具設計を今日に伝えている。

功績・受賞

ダンネブロ勲章ナイト(一等)に叙されたほか、エッカースベア・メダル(1941年)、C.F.ハンセン・メダル(1954年)、アカデミー建築家協会名誉メダル(1964年)を受けている。

評価・後世への影響

ラウリッツェンは、デンマーク機能主義を切り開いた建築家として位置づけられている。照明デザイナーとしても知られるポール・ヘニングセンは、彼を近代建築を牽引した人物の一人と評したと伝えられる。ラジオ局舎やコペンハーゲン空港初代ターミナルはいずれも文化財に指定され、ヨーロッパのモダニズム建築を代表する事例として参照されてきた。事務所には1,100点を超える原設計が遺されており、VL38をはじめとする照明はルイスポールセンから、家具はカール・ハンセン&サンから、現在も製品化が続いている。

年月区分作品名ブランド
1928–1935年建築ダエルス百貨店(Daells Varehus)
1931–1932年建築ノアブロ劇場(Nørrebros Teater)
1936–1939年建築コペンハーゲン空港 初代ターミナル
1938年ライトVL38(テーブル/フロア/ウォール)ルイスポールセン
1945年竣工建築ラジオ局舎(Radiohuset)
1945年頃家具フォイエ・シリーズ(ラジオ局舎向け)Carl Hansen & Søn(2022年復刻)
1950–1951年建築シェルフーセット(Shellhuset)
1953–1956年建築フォルケツ・フス/VEGA
1956年チェアVLA26 ヴェガチェアCarl Hansen & Søn(2022年復刻)
1958–1960年建築在ワシントン・デンマーク大使館

Reference

Vilhelm Lauritzen Architects – Our founder
https://vilhelmlauritzen.com/we-are/our-founder/
Vilhelm Lauritzen Architects – Design VL38
https://vilhelmlauritzen.com/collection-of-projects/vl38/
Louis Poulsen – VL38 Table Lamp
https://www.louispoulsen.com/
Carl Hansen & Søn – The VLA Collection
https://www.carlhansen.com/en/en/collection/collections/vla-collection
Wikipedia – Vilhelm Lauritzen
https://en.wikipedia.org/wiki/Vilhelm_Lauritzen