概要
イルセ・クロフォード(1962年生まれ)は、イギリスのインテリアデザイナーである。雑誌『エル・デコレーション』英国版の創刊編集長を務めたのち、2001年にスタジオイルセを設立した。空間を視覚だけでなく、手触り、音、匂い、温度を含めて設計する立場をとる。ホテルや飲食店の内装のほか、ヘイ、デ・ラ・エスパダ、カッシーナのための家具も手がけている。
バイオグラフィー
1962年、ロンドンに生まれた。ロンドンのゴールドスミス・カレッジで学んでいる。
1989年、『エル・デコレーション』英国版の創刊編集長となり、1998年まで務めた。編集の立場から、住まいの写真と記事を通じて空間の見せ方に関わっている。1997年には著書『Sensual Home』を刊行した。
2001年、ロンドンにスタジオイルセを設立する。ホテル、飲食店、事務所、住宅の内装を手がけ、並行して家具と器物の設計も行うようになった。
2003年から2008年まで、オランダのアイントホーフェン・デザイン・アカデミーで「Man and Wellbeing」の学科を立ち上げ、責任者を務めている。
デザインの思想と方法
クロフォードが問題としたのは、内装の設計が写真で判断されることである。写真に写るのは視覚的な構成だけで、床の硬さ、椅子の座り心地、部屋の残響、素材の匂いは伝わらない。しかし人が室内で過ごす時間の質を決めるのは、むしろ後者にあたる。
視覚以外の条件を設計項目に入れる
彼女の設計では、材料の選定に触感と温度が含まれる。金属より木や革を選ぶのは見た目の理由ではなく、手や身体が触れたときの温度が違うためである。同様に、天井や壁の仕上げは音の反射に関わるため、室内の会話の聞こえ方から決まる。
使う人の側から寸法を決める
設計に入る前に、その場所で人がどう過ごすかを観察する時間を置く。腰掛ける、待つ、話す、書くといった行為ごとに必要な寸法と姿勢は異なり、そこから家具の高さと配置が決まる。空間の構成を先に決めて家具を当てはめる順序をとらない。
編集の視点を設計に持ち込む
雑誌の編集では、限られた誌面にどの要素を残すかを決める。この判断は内装の設計にも通じる。彼女の空間が視覚的に落ち着いて見えるのは、要素を減らしたうえで、残したものの質を確保しているためである。
家具を空間の一部として設計する
デ・ラ・エスパダやヘイのための家具は、いずれも自身の内装の仕事から生まれている。必要な寸法と触感の家具が既製品にない場合に設計するという順序で、単独の製品として構想されたものではない。
ヘイの歴史や他の製品について詳しくはヘイ ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
ソーホー・ハウス ベルリン(2010年)
1928年竣工の建物を改修した会員制の施設である。既存の躯体と床の痕跡を残したうえで、革、真鍮、木といった手が触れる部分の材料を選び直した。歴史的な建物の内装を、視覚的な復元ではなく触感の側から組み立てた例にあたる。
エース・ホテル ロンドン(2013年)
ショアディッチの宿泊施設の内装である。共用部を通り抜けの空間ではなく滞在できる場所として構成し、座る位置ごとに家具の寸法と照度を変えた。行為から寸法を決めるという方法が、規模の大きい施設で適用されている。
ヘイのための家具(2015年〜)
デンマークのヘイのために、椅子、卓、収納を設計した。量産に載る価格を条件としながら、木の面を塗りつぶさず、触れたときの温度が伝わる仕上げを選んでいる。価格の制約と触感の確保を両立させる構成にあたる。
ウェルビーイング コレクション(ナニマルキーナ)
ラグとクッションの系列である。ヒマラヤ産の羊毛と麻を用い、糸の太さを変えて表面の起伏をつくる。床に直接触れる部分の素材という位置づけで、視覚的な模様より足裏の感触を条件に置いている。→ウェルビーイング クッション
アイントホーフェンでの学科設立(2003-2008年)
デザイン・アカデミーに「Man and Wellbeing」の学科を設け、責任者を務めた。人が物や空間とどう関わるかを出発点とする課程で、製品の造形を扱う既存の学科とは別に置かれている。
評価と影響
クロフォードは一般に、内装の設計において視覚以外の条件を設計項目として扱う方向を示した人物と評価されている。写真映えを基準とする設計への対案として言及されることが多い。
『エル・デコレーション』英国版での編集の経験が、以後の仕事の前提にある。誌面で住まいをどう見せるかを扱った立場から、実際の空間で何が伝わらないかを問い直したという経緯である。
アイントホーフェンでの学科設立を通じて、人と物の関わりを主題とする教育の枠組みをつくった。この分野は現在、複数の教育機関で扱われている。
受賞・収蔵
受賞
- 2014年 大英帝国勲章(MBE)
- ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
収蔵
4館のAPI(MoMA、V&A、Met、AIC)で照合したが、該当する収蔵は確認できなかった。
作品一覧
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド / 場所 |
|---|---|---|---|
| 1989-1998年 | 編集 | 『エル・デコレーション』英国版 創刊編集長 | ロンドン、イギリス |
| 1997年 | 書籍 | Sensual Home | Quadrille |
| 2003-2008年 | 教育 | Man and Wellbeing 学科設立 | Design Academy Eindhoven |
| 2010年 | 内装 | ソーホー・ハウス ベルリン | ベルリン、ドイツ |
| 2013年 | 内装 | エース・ホテル ロンドン | ロンドン、イギリス |
| 2015年〜 | 家具 | ヘイのための家具 | HAY |
| 2010年代 | 家具 | デ・ラ・エスパダのための家具 | De La Espada |
| 2010年代 | ラグ | ウェルビーイング クッション | nanimarquina |
プロフィール
| 生年 | 1962年 |
|---|---|
| 出身地 | イギリス・ロンドン |
| 国籍 | イギリス |
| 活動拠点 | ロンドン |
| 分野 | インテリア、家具、テキスタイル、編集 |
| 主な協働ブランド | HAY、De La Espada、Cassina、nanimarquina、IKEA |
Reference
- Studioilse(公式)
- https://www.studioilse.com/
- Ilse Crawford | HAY
- https://hay.dk/en/hay/designers/ilse-crawford
- Ilse Crawford | De La Espada
- https://www.delaespada.com/designers/ilse-crawford
- Design Academy Eindhoven
- https://www.designacademy.nl/