ウェルビーイング クッションは、2019年にイギリス人デザイナーのイルゼ・クロフォードがスペインのテキスタイルブランド、nanimarquinaのために手がけたクッションコレクションである。このコレクションは、人間の感覚体験を中心に据え、触覚、素材感、職人技術、そして品質に焦点を当てた、心地よいテキスタイル製品群の一部として誕生した。
プロジェクトの始まりは2017年4月。nanimarquinaとイルゼ・クロフォードは、天然素材、持続可能でローカルな繊維、手紡ぎ、漂白剤不使用、染料不使用という明確な基準を設定し、深い研究プロセスを開始した。その結果、意識的で人間中心的、感覚的で美しい成果物が生み出され、nanimarquinaのラグ製造における知識体系に新たな革新をもたらした。
ウェルビーイング クッションには、「Heavy Cushion」と「Light Cushion」の2つのラインが存在する。Heavy Cushionは80×80cmの大判サイズで、手紡ぎのアフガンウール製で、充填材にはコルクが使用されている。一方、Light Cushionは40×40cmまたは40×60cmのサイズで、タッサーシルクを主素材とし、羊毛の充填材が使用されている。
特徴・コンセプト
ウェルビーイング クッションの最大の特徴は、その徹底した天然素材へのこだわりにある。アフガニスタンの高地で放牧される羊から採取された手紡ぎウール、イラクサ、ジュート、リネン、タッサーシルクに加え、コルク、木材、生ウール、生コットンなど、すべての素材がコレクションの製造地にできるだけ近い場所から慎重に調達されている。
コルクの充填材は、このクッションに独特の剛性と触感を与えている。従来のクッションとは異なり、しっかりとした座り心地を提供しながらも、天然素材特有の温かみと快適性を併せ持つ。この独創的な素材の組み合わせは、現代的な生活空間において、原始的な美しさと洗練された機能性を両立させている。
デザイン哲学
イルゼ・クロフォードのデザイン哲学は、人間の欲求と必要性をすべての中心に据えることである。彼女は「デザインを見るとき、私は視覚的なものだけを見ているのではない。感覚的なもの、人間の文脈から考えること、原始的な視点、あなたに触れるものにもっと興味がある」と語る。
この哲学は、ウェルビーイング クッションにも明確に反映されている。視覚的な美しさだけでなく、触れたときの感触、素材の温度、重さ、そして使用者の身体との相互作用まで、すべてが慎重に考慮されている。それは単なる装飾品ではなく、人間の日常生活を支え、向上させるための道具なのである。
サステナビリティへの取り組み
ウェルビーイング コレクションは、環境への影響を最小限に抑えることを目的として開発された。漂白剤や化学染料を一切使用せず、天然の色合いをそのまま活かすことで、製造過程における環境負荷を大幅に削減している。また、ローカルな素材の使用と伝統的な手工芸技術の採用により、輸送による二酸化炭素排出量の削減と地域コミュニティの支援を実現している。
nanimarquinaは、インド、パキスタン、ネパールの織工たちと長年にわたって協力関係を築いており、フェアトレードの原則に基づいた製造を行っている。特に、Care & Fair組織との協力を通じて、これらの地域における児童労働の撲滅と、職人たちの生活の質の向上に貢献している。
エピソード
2017年4月、nanimarquinaとイルゼ・クロフォードの最初の出会いは、両者にとって革新的な瞬間だった。ナニ・マルキナ自身が1987年に創業したこのブランドは、すでに30年以上にわたって現代的なラグデザインの先駆者として活動していたが、クロフォードとのコラボレーションは新たな次元への扉を開くことになった。
プロジェクトの初期段階で設定された「天然素材、持続可能でローカルな繊維、手紡ぎ、漂白剤不使用、染料不使用」という厳格な基準は、nanimarquinaのチームに深い研究プロセスを開始させた。チームは、アフガニスタンの高地からインドの工房まで、様々な地域を訪れ、最適な素材と技術を探求した。
特に印象的だったのは、コルクを充填材として使用するというアイデアの発見である。従来のクッションでは考えられなかったこの素材の選択は、試行錯誤の末に生まれた革新的なソリューションだった。コルクの自然な弾力性と耐久性、そして環境への優しさが、ウェルビーイングのコンセプトと完璧に合致したのである。
クロフォード自身も、このプロジェクトを通じて新たな発見をした。「私たちは、通常のものを特別なものにする伝統的な技術と職人の細部へのこだわりを使用した」と彼女は語る。それは単なる製品開発ではなく、人間と環境のウェルビーイングの輪に取り組む試みだった。
評価
ウェルビーイング クッションは、発表以来、国際的なデザイン界から高い評価を受けている。その革新的な素材使用と人間中心的なアプローチは、現代のインテリアデザインにおける新たな基準を確立した。デザイン評論家たちは、このコレクションが単なる美的追求を超えて、使用者の感覚体験と環境への配慮を統合した点を特に評価している。
建築・デザイン専門誌は、ウェルビーイング クッションを「触覚的な美しさが感覚を目覚めさせ、私たちの内なる自己とつながる」製品として称賛している。その独特な質感と自然な色合いは、ミニマリストからマキシマリストまで、幅広いインテリアスタイルに適応する汎用性を持つ。
商業的な成功も注目に値する。世界中の高級ホテル、レストラン、プライベート住宅で採用され、特にウェルネスを重視する施設や、サステナビリティを企業理念とする組織から強い支持を得ている。このクッションは、単なるインテリアアクセサリーではなく、空間に温かさ、柔らかさ、快適さを加える機能的な芸術作品として認識されている。
業界への影響
ウェルビーイング クッションの成功は、テキスタイル業界全体に重要な影響を与えた。漂白剤や化学染料を使用しない製造プロセスは、他のブランドにも持続可能な製造方法の採用を促している。また、コルクのような非伝統的な充填材の使用は、デザイナーたちに素材の可能性を再考させるきっかけとなった。
このコレクションはまた、「ウェルビーイング」という概念をインテリアデザインの主流に押し上げた。それまで主に健康やウェルネス産業で使用されていたこの用語が、日常的な生活空間のデザインにおいても重要な考慮事項となったのである。
受賞歴
ウェルビーイング コレクション全体は、その革新性と持続可能性により、複数の国際的なデザイン賞にノミネートされている。特に、素材の革新的な使用と環境への配慮が評価され、サステナブルデザイン部門での認知度が高い。
イルゼ・クロフォード自身は、2018年にロンドン・デザイン・メダルを受賞し、デザインを通じて人間のニーズを優先させるアプローチが評価された。また、彼女のStudioilseは、ウェルビーイングプロジェクトを含む作品により、国際的なデザイン界で継続的に高い評価を受けている。
nanimarquinaブランドとしても、このコレクションは同社の持続可能性への取り組みを示す重要な成果となった。2022年には、同社がClimate Neutral認証を取得し、ゼロエミッションの未来を選択したことが発表された。ウェルビーイング コレクションは、この環境目標達成への重要な一歩として位置づけられている。
基本情報
| デザイナー | イルゼ・クロフォード(Ilse Crawford)/ Studioilse |
|---|---|
| ブランド | nanimarquina(ナニマルキナ) |
| 発表年 | 2019年 |
| 製造国 | インド、パキスタン、ネパール(手工芸による製造) |
| サイズ展開 | Heavy Cushion: 80×80cm / Light Cushion: 40×40cm、40×60cm |
| 素材(Heavy Cushion) | 表地:手紡ぎアフガンウール100% / 裏地:コットン100% / 充填材:コルク100% |
| 素材(Light Cushion) | 表地:タッサーシルク100% / 裏地:コットン100% / 充填材:ウール100% |
| カラーバリエーション | Heavy Cushion: Black-Kilim、Vegetal-Mazari / Light Cushion: ナチュラル |
| 重量 | Heavy Cushion: 約9.1kg / Light Cushion: 製品による |
| 価格帯 | Heavy Cushion: $812-1,015 USD(市場により異なる) |
| お手入れ方法 | 定期的な掃除機がけ推奨。必要に応じて専門のドライクリーニング |
| 認証 | Climate Neutral認証(nanimarquina社として) |