アイノ・アアルト

アイノ・アアルト(Aino Aalto、本名アイノ・マリア・マルシオ=アアルト、1894年1月25日 - 1949年1月13日)は、フィンランドの建築家・デザイナーである。夫である建築家アルヴァ・アアルトと四半世紀にわたって協働し、1935年には家具・インテリアブランドのアルテック(Artek)を共同で設立した。北欧近代デザインの草創期を担った一人として、建築、インテリア、家具、ガラス、テキスタイルなど幅広い領域に足跡を残している。

生い立ちと建築家への道

ヘルシンキの大家族に生まれ、出生時の姓はマンデリン(Mandelin)であったが、フィンランド化運動のさなかの1906年、一家はマルシオ(Marsio)へと改姓した。1913年にヘルシンキのフィンランド女子学校を卒業し、同年ヘルシンキ工科大学(現アアルト大学)で建築を学び始める。女性の建築家がごく少なかった時代にあって、1920年に建築家の資格を取得した。卒業後はヘルシンキのオイヴァ・カッリオの事務所、次いでユヴァスキュラのグンナー・A・ヴァールロースの事務所で経験を積み、1924年にアルヴァ・アアルトの事務所へ移る。ほどなくして二人は結婚し、イタリアへの新婚旅行が生涯にわたる協働の出発点となった。事務所は1927年にトゥルク、1933年にヘルシンキへと移された。

デザインの思想とアプローチ

アイノ・アアルトのデザインは、素材への誠実な向き合い方と、手頃な価格での量産を重んじる機能主義に貫かれている。装飾のための装飾を退け、日々の暮らしに役立つ実用性と、温かみのある居住性の両立を目指した。子どものための環境や保育施設、母子保健施設、労働者向け住宅といった社会性の高い主題にも継続して取り組み、住まいを理念よりも生活の場としてとらえる姿勢を保ち続けた。

アイノ・アアルト グラス(ボルゲブリック)

独立したデザイナーとしての代表作が、1932年のカルフラ・イッタラのガラスデザインコンペに出品したプレスガラス「ボルゲブリック(Bölgeblick)」である。水面に石を投げ入れたときに広がる同心円の波紋から着想した、段状のリングを重ねた造形で、コンペでは第2位を獲得した。重ねて収納できる実用性と均質な量産への適性を備え、同年から生産が始まった。1936年のミラノ・トリエンナーレでは金賞を受けている。現在は「アイノ・アアルト」の名でイッタラが生産を続けており、イッタラでもっとも長く作られ続けているシリーズの一つとなっている。

アルテックの共同設立と経営

1935年、アイノとアルヴァのアアルト夫妻は、美術収集家のマイレ・グリクセン、美術史家のニルス=グスタフ・ハールとともにアルテックを設立した。アイノは同社で最初のデザイン・ディレクター(アーティスティック・ディレクター)を務め、インテリアデザイン部門を率いてブランドの美意識の方向づけを担った。初代の経営責任者であったハールが1941年の継続戦争で戦死すると、アイノがマネージング・ディレクターを引き継ぎ、亡くなる1949年まで設計と経営の双方を担い続けた。彼女の指揮のもと、アルテックは数多くのインテリアの仕事を手がけている。

建築とインテリアの仕事

アイノの建築・インテリアの仕事の多くは、アルヴァとの一体的な協働のなかで生まれており、両者の分担を明確に切り分けることは難しい。パイミオのサナトリウム(1929〜33年)では家具や什器の設計に携わり、ヴィラ・マイレア(1938〜39年、ノールマルック)ではインテリアの設計を主導した。ヘルシンキのサヴォイ・レストラン(1937年)や、1939年のニューヨーク万国博覧会フィンランド館も、アアルト夫妻の協働による仕事である。単独の設計として最初に彼女の名で記録されたのは、アラヤルヴィのアアルト家の別荘ヴィラ・フローラ(1926年)であった。1937年のパリ万国博覧会でアルテックが紹介した「リーヒティエ プラントポット」も、自邸のテラスのために手がけた作品として知られる。

功績と評価

アイノ・アアルトは、女性の建築家がまれであった時代に専門職としての道を切り開いた先駆者であり、1942年にはフィンランドの女性建築家協会「アルキテクタ(Architecta)」の設立に加わった。長らく夫アルヴァの陰に置かれて語られてきたが、近年はその独自の功績が改めて評価されている。実用性と美を兼ね備えた日用品として彼女のガラスは今も世界中の食卓で使われており、2024年の生誕130年に際しては、母校であるアアルト大学が新たな施設に旧姓を冠して「マルシオ」と名づけた。

発表年区分作品名ブランド
1926年建築ヴィラ・フローラ(Villa Flora)
1932年ガラスボルゲブリック(現アイノ・アアルト)イッタラ
1937年インテリア雑貨リーヒティエ プラントポット(Riihitie)アルテック
1938–39年インテリアヴィラ・マイレア インテリア

Reference

Iittala – Aino Aalto
https://www.iittala.com/en-gb/collections/all-collections/aino-aalto
Artek – Aino Aalto
https://www.artek.fi/en/company/designers/aino-aalto
Alvar Aalto Foundation – 130 years since the birth of architect Aino Aalto
https://www.alvaraalto.fi/en/news/130-years-since-the-birth-of-architect-aino-aalto/
Finnish Architecture Navigator – Aino Marsio-Aalto
https://navi.finnisharchitecture.fi/architect/aino-marsio-aalto/
Aalto University – Story of Aino Marsio-Aalto
https://www.aalto.fi/en/marsio/story-of-aino-marsio-aalto
Victoria and Albert Museum – The designs of Alvar and Aino Aalto
https://www.vam.ac.uk/articles/modernism-and-the-natural-world-the-designs-of-alvar-aalto-andaino-aalto
Wikipedia – Aino Aalto
https://en.wikipedia.org/wiki/Aino_Aalto