アイソコン ロングチェア 購入ガイド ─ この名作が長く愛される理由
1936年の発表以来、約90年にわたって20世紀家具デザインの至宝として敬われ続けているアイソコン ロングチェアは、バウハウスの巨匠マルセル・ブロイヤーが英国亡命時代に創出した成形合板製のラウンジチェアである。ナチスドイツの台頭によりバウハウスが閉鎖された後、ロンドンに渡ったブロイヤーがジャック・プリチャードのアイソコン社のために手掛けたこの作品は、戦間期モダニズム運動から生まれた最も重要な家具のひとつとして広く認識されている。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ブルックリン美術館、クーパー・ヒューイット・スミソニアン・デザイン博物館、シカゴ美術館、デンヴァー美術館など、世界各国の主要美術館の永久コレクションに収蔵されている。
現在もロンドンのアイソコン・プラス(旧ウィンドミル・ファニチャー)が、ブロイヤーの意図通りの手法により小規模な手作業で製造を継続している。本ガイドでは、正規品の仕様・サイズ・素材の詳細、同時代の合板チェアとの比較、使用感と空間への取り入れ方、経年変化とメンテナンス方法、そして購入方法まで、購入判断に必要なすべての情報を網羅する。
マルセル・ブロイヤーの設計思想や経歴について詳しくはマルセル・ブロイヤー プロフィールページをご覧ください。
アイソコン ロングチェアのデザインストーリーについて詳しくはアイソコン ロングチェア紹介ページをご覧ください。
正規品の基本情報:仕様・サイズ・素材
アイソコン ロングチェアは、1931年にジャック・プリチャードが設立したアイソコン・ファニチャー・カンパニーの後継組織であるアイソコン・プラスが、ロンドンの工房にて小ロットの手作業で製造している唯一の正規品である。ブロイヤーのオリジナルデザインを忠実に再現し、当時と同じ手法で一脚ずつ丁寧に仕上げられている。
| 正式名称 | Long Chair(ロングチェア) |
|---|---|
| デザイナー | マルセル・ブロイヤー(Marcel Breuer, 1902–1981)/ハンガリー出身 |
| デザイン年 | 1935–1936年 |
| オリジナル製造元 | Isokon Furniture Company(アイソコン・ファニチャー・カンパニー) |
| 現行製造元 | Isokon Plus(アイソコン・プラス)/ロンドン、イギリス |
| 分類 | ラウンジチェア/シェーズロング |
| サイズ | W600mm × D1350mm × H832mm |
| 素材 | 成形積層バーチ合板(座面・背もたれ)、バーチフレーム |
| 仕上げ | バーチ(自然仕上げ) |
| 製造方法 | ロンドンの工房にて小ロット手作業製作 |
| オプション | フルアップホルスター・シートパッド(別途オーダー、ファブリックサンプル提供可) |
| 参考価格 | £2,995(英国公式価格、税込目安約55万円〜65万円、為替変動により異なる) |
| 納期 | 受注生産 8〜10週間 |
| 製造国 | イギリス(ロンドン) |
| 収蔵美術館 | V&A、MoMA、ブルックリン美術館、クーパー・ヒューイット、シカゴ美術館、デンヴァー美術館、セインズベリーセンター他 |
構造的特徴
ロングチェアの革新性は、その構造設計にある。従来の家具が荷重を支える構造体を独立して組み立てた後に座面を取り付けるのに対し、ロングチェアでは座面自体がフレーム部材と一体化して完全な構造を形成している。流れるような曲線を描く成形積層バーチ合板の座面・背もたれは、細く優美なバーチフレームと一体化し、着座者の体重を通常の椅子よりも広い表面積に分散させる。この設計により、軽量でありながら強度を保持する、視覚的にも機能的にも洗練された造形が実現されている。
アップホルスターオプション
ロングチェアは、合板の自然な美しさをそのまま活かした仕上げが標準であるが、フルアップホルスター・シートパッドのオプションも用意されている。ファブリックの選択については、アイソコン・プラスに直接問い合わせることでサンプルの提供を受けることができる。アップホルスターの追加により、長時間の使用における快適性がさらに向上する。
類似商品・競合との比較
アイソコン ロングチェアは、1930年代の成形合板ラウンジチェアという極めて限定的なカテゴリーに属する。この領域において比較対象となる代表的な作品を紹介する。
アルテック パイミオチェア No.41(アルヴァ・アアルト)
1931–32年にアルヴァ・アアルトがデザインしたパイミオチェアは、ロングチェアの直接的な先駆者ともいえる作品である。ジャック・プリチャードがアイソコン社を設立するきっかけとなったのがアアルトの合板家具であり、ブロイヤー自身もアアルトの技術に触発されてロングチェアを構想した。パイミオチェアが結核療養所の患者のための治療的快適性を追求したのに対し、ロングチェアはより広い意味での「モダンなレジャー」を志向している。両作品は成形合板ラウンジチェアの双璧をなし、アアルトの特許をめぐる法的問題が生じたことでも知られている。
ハーマンミラー イームズ LCW(チャールズ&レイ・イームズ)
1946年にチャールズ&レイ・イームズがデザインしたLCW(Lounge Chair Wood)は、ブロイヤーとアアルトが開拓した成形合板家具の系譜を戦後アメリカにおいて発展させた作品である。LCWが座面・背もたれ・脚をそれぞれ独立した成形合板パーツとして構成し、ショックマウントで接続するアプローチを取ったのに対し、ロングチェアは座面とフレームの一体化という異なる構造原理を採用している。LCWはダイニングにもラウンジにも使える汎用性を持つが、ロングチェアはシェーズロングとしての寛ぎの用途に特化している。
カッシーナ LC4 シェーズロング(ル・コルビュジエ)
1928年にル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンが共同でデザインしたLC4は、シェーズロングというカテゴリーにおいてロングチェアの最も著名な先行作品である。LC4がスチールパイプとレザーによるメカニカルな美学を追求したのに対し、ロングチェアは成形合板による有機的な温かみを表現している。LC4のスチール構造からロングチェアの合板構造への移行は、ブロイヤー自身のキャリアにおける金属家具から合板家具への転換をも反映している。
| 比較項目 | ロングチェア(ブロイヤー / アイソコン) | パイミオチェア No.41(アアルト / アルテック) | LC4(コルビュジエ / カッシーナ) |
|---|---|---|---|
| デザイン年 | 1935–1936年 | 1931–1932年 | 1928年 |
| 主要素材 | 成形積層バーチ合板 | 成形積層バーチ合板 | スチールパイプ+レザー |
| 製造方法 | 小ロット手作業(ロンドン) | 工場生産(フィンランド) | 工場生産(イタリア) |
| リクライニング角度 | 固定 | 固定 | 自由調整可能 |
| 奥行 | 1350mm | 約800mm | 約1600mm |
| 美術館収蔵 | V&A、MoMA等多数 | MoMA、V&A等多数 | MoMA等多数 |
| 参考価格帯(税込目安) | 約55万円〜65万円 | 約50万円〜 | 約60万円〜 |
使用感と暮らしへの取り入れ方
座り心地の実際
ロングチェアは、1936年の発売当時に「身体のあらゆる部分にリラクゼーションを与え、即座に幸福感を生み出す」と表現された通り、レジャーと休息のために設計されたシェーズロングである。成形合板の緩やかな曲線が身体の自然なラインに沿って体重を広い表面積に分散させ、通常の椅子とは異なる独特の浮遊感を提供する。バウハウス出身のグラフィックデザイナー、モホイ=ナジがこの体験を「モダニズム的な浮遊」と表現したのは、その感覚を的確に捉えている。
合板の座面はアップホルスターなしの場合、木材特有の硬質感があるものの、身体のカーブに沿った成形により予想以上の快適さを実現している。長時間の読書やリラクゼーションを主目的とする場合は、オプションのフルアップホルスター・シートパッドの追加が推奨される。奥行1350mmのロングプロフィールは脚を伸ばした姿勢での使用に最適であり、身長170cm前後の方であれば全身を委ねることができる。
空間における存在感
ロングチェアは、奥行1350mmという大型のシェーズロングであるため、設置には十分な空間が必要である。しかし、成形合板の薄さとスレンダーなフレームにより、視覚的な重量感は実際のサイズよりもはるかに軽やかである。ブロイヤーがバウハウスで確立した「形態は機能に従う」という原則が、この椅子においても美しく体現されている。バーチ合板の温かな色調とシンプルな曲線は、モダニズム建築の白い壁面から和の要素を持つ空間まで、幅広いインテリアスタイルに調和する。
生活スタイル別の提案
- 建築・デザイン愛好家の方
- バウハウス精神の英国における結実として、ロングチェアはモダニズム建築やデザイン史に深い関心を持つ方にとって最も意義深い一脚である。ブロイヤーのワシリーチェア(B3)やチェスカチェア(B32)との比較で、金属から合板へという彼のキャリアの転換を自宅で体験できる。
- 読書・瞑想の時間を大切にされる方
- ロングチェアは「レジャーのための椅子」として設計されている。リビングルームの窓辺に配置し、アップホルスター・シートパッドを追加すれば、読書や音楽鑑賞のための理想的な寛ぎの空間が生まれる。
- 美術館品質のコレクションをお求めの方
- V&A、MoMAをはじめとする世界の主要美術館に収蔵される作品を、ブロイヤーの意図通りの手法で製作された正規品として所有できる稀有な機会である。ロンドンの工房で一脚ずつ手作業で製作されるという生産方式自体が、この作品の価値を高めている。
経年変化とメンテナンス
バーチ合板の経年変化
成形積層バーチ合板は、時間の経過とともに色が深まり、蜂蜜色から琥珀色へと徐々に変化していく。この色の深まりは、バーチ材の自然な酸化プロセスによるものであり、使い込むほどに温かみと風格を増していく。直射日光に長時間晒された場合は部分的に色が変化する可能性があるため、均一な経年変化を望む場合は日光の当たり方に配慮することが推奨される。適切な環境で維持された場合、成形合板の構造的強度は数十年にわたって維持される。
日常メンテナンスの方法
- 合板座面・フレーム
- 日常的な清掃は、柔らかい乾いた布での乾拭きで十分である。汚れが生じた場合は、水に中性洗剤を少量溶かした布で軽く拭き取り、速やかに乾燥させる。研磨剤やアルコール系クリーナーの使用は表面を損傷するため避けるべきである。
- 湿度管理
- 合板は木質素材であるため、極端な乾燥や高湿度の環境では変形やひび割れのリスクがある。室内の相対湿度を40〜60%程度に維持することが理想的である。エアコンの直風や暖房器具の近くでの使用は避け、適度な湿度管理を心がけたい。日本の気候では梅雨時期の高湿度と冬季の乾燥に特に注意が必要である。
- 設置環境
- 直射日光の長時間照射による色褪せや乾燥を避けるため、窓辺への常時設置は推奨されない。床面への傷を防止するため、フェルトパッドの装着が望ましい。シェーズロングとしての使用特性上、奥行1350mmの設置スペースに加えて、脚を伸ばした際の前方スペースも確保しておくことが推奨される。
- アップホルスターのケア
- オプションのシートパッドを装着している場合は、ファブリックの素材に応じた適切なクリーニング方法を確認する。定期的な掃除機がけとスポットクリーニングが基本となる。
どこで買うか:正規販売店と購入方法
アイソコン・プラス公式サイト
ロングチェアの最も確実な購入方法は、アイソコン・プラスの公式オンラインストア(isokon.furniture)からの直接注文である。公式サイトでは現行価格£2,995(英国ポンド)で販売されており、受注生産のため注文から8〜10週間での製作・出荷となる。アップホルスター・シートパッドのオプションやファブリックサンプルについても、公式サイトの問い合わせフォームから直接相談が可能である。
なお、日本への国際配送については、アイソコン・プラスに直接確認が必要である。配送料、関税、消費税が別途発生する場合がある。
海外正規ディーラー
- twentytwentyone(ロンドン)
- アイソコン・プラスの正規ディーラーとして知られるロンドンの家具店。トレード価格やプロジェクト管理、一括配送にも対応。国際配送についても相談可能。
- A+R(ロサンゼルス)
- アメリカにおけるアイソコン製品の取扱店。ロンドンの工房で同じ厳格さをもって手作業で製作されている旨を保証している。
日本国内での購入方法
アイソコン・プラスは日本に正規代理店を設置しておらず、日本国内の家具店での常時取扱いは確認されていない。購入を検討される場合は、アイソコン・プラス公式サイトからの直接注文、または海外正規ディーラーを通じた注文が主たるルートとなる。高級インポート家具を扱う日本の専門店(東京デザインセンター内のディーラー等)に取り寄せの可否を問い合わせることも一案である。
ヴィンテージ市場
アイソコン ロングチェアのヴィンテージ品は、1stDibs等の国際的なデザインオークション市場で活発に取引されている。1960年代〜1970年代の製造品が比較的多く流通しており、平均的な取引価格は3,000〜8,500ドル程度とされる。ヴィンテージ品の購入を検討する場合は、合板の層間剥離の有無、フレームの接合部の安定性、塗装・仕上げの状態、アイソコン社のラベルや刻印の確認が重要である。製造時期によって合板の供給元やフレーム仕上げに差異がある場合があるため、詳細な来歴(プロヴェナンス)の確認が推奨される。
購入時チェックリスト
- アイソコン・プラス正規品であることの確認
- アップホルスター・シートパッドの要否の決定(オプション)
- 設置スペースの確認(W600mm × D1350mm以上、前方にゆとりを持たせる)
- 搬入経路の確認(奥行1350mmの大型シェーズロング)
- 設置環境の確認(直射日光、暖房器具との距離、湿度管理の可否)
- 国際配送の場合:送料、関税、消費税の確認
- 受注生産の納期確認(8〜10週間+国際配送期間)
- 床面保護用フェルトパッドの準備
コーディネート事例
バウハウス・モダニズム空間
ロングチェアの出自であるバウハウスの美学を追求するコーディネートである。白い壁面、コンクリートまたはリノリウムの床、スチールフレームの窓を背景に、ロングチェアの有機的な曲線が空間のアクセントとなる。ブロイヤー自身がデザインしたアイソコン ネスティングテーブル(1936年)との組み合わせは、アイソコン時代のブロイヤーの造形世界を統一的に体験させてくれる。テクスタイルにはバウハウスの織物工房を想起させる幾何学模様のクッションを添えたい。
スカンジナビアモダンとの対話
ロングチェアの成形バーチ合板は、フィンランドのアルヴァ・アアルトの家具と素材的な親縁性を持つ。アアルトのスツール60やティーテーブルとの組み合わせは、1930年代の成形合板革命の二つの流れを一つの空間に融合させる。北欧の照明(ルイスポールセンのPH5やアルテックのペンダントA330S)が温かな光をバーチ合板の曲面に投げかければ、木質素材の美しさが最大限に引き立つ。
コンテンポラリーリビング
約90年前のデザインでありながら、ロングチェアのスレンダーなプロフィールは現代のミニマルなインテリアにも違和感なく溶け込む。白やグレーのソファの傍らにロングチェアを配置すれば、読書やくつろぎのためのパーソナルスペースが生まれる。アップホルスター・シートパッドをコンテンポラリーなファブリック(ウール、リネン等)で仕立てれば、クラシックなフォルムに現代的な感性が加わる。
相性の良い他のデザイナーズ家具
同じアイソコン社のコレクション(ネスティングテーブル、ペンギンドンキー)が最も高い親和性を持つ。バウハウスの文脈では、ブロイヤーのワシリーチェア(ノル)が金属時代と合板時代の対比を空間に生み出す。成形合板の系譜では、アアルトの家具(アルテック)やイームズのLCW(ハーマンミラー)との共存が豊かな対話を創出する。照明においては、同時代のアングルポイズランプや、バウハウス由来のヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルトのテーブルランプが歴史的文脈を共有するパートナーとなる。
よくある質問
- 正規品の価格はどのくらいですか?
- アイソコン・プラス公式サイトでの販売価格は£2,995(英国ポンド)です。日本円換算で税込約55万円〜65万円が目安となりますが、為替レートにより変動します。国際配送の場合は別途送料、関税、消費税が発生します。
- どこで購入できますか?
- アイソコン・プラス公式オンラインストア(isokon.furniture)からの直接注文が最も確実な方法です。日本国内に正規代理店は設置されていないため、公式サイトまたは海外正規ディーラー(twentytwentyone等)を通じた購入となります。
- 実物を確認できる場所はありますか?
- 日本国内での常時展示は確認されていません。ロンドンのtwentytwentyoneやアイソコン・プラスのショールームで実物を確認できる可能性がありますが、事前のお問い合わせが必要です。なお、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)の常設展示でオリジナル品を鑑賞することは可能です。
- 納期はどのくらいかかりますか?
- 受注生産のため、注文から8〜10週間での製作となります。日本への国際配送期間を加算すると、注文から手元に届くまで3〜4ヶ月程度を見込んでおくことが推奨されます。
- 日本の住空間にサイズは合いますか?
- 奥行1350mmのシェーズロングであるため、設置には相応のスペースが必要です。リビングルームの壁際やコーナーに配置する場合、前方にゆとりを持たせた約2m程度の奥行スペースが理想的です。幅600mmはコンパクトであるため、横方向のスペースは比較的取りません。
- 座り心地は硬くないですか?
- 合板の自然仕上げでは木材特有の硬質感がありますが、身体の曲線に沿った成形により体重が分散され、予想以上の快適さを提供します。長時間の使用にはオプションのフルアップホルスター・シートパッドの追加が推奨されます。
- メンテナンスは大変ですか?
- 柔らかい布での乾拭きが基本であり、非常に簡便です。ただし、バーチ合板は湿度変化に敏感な素材であるため、室内の湿度管理(40〜60%程度)に配慮してください。日本の気候では梅雨時期と冬季の乾燥に注意が必要です。
- 他に検討すべき名作チェアはありますか?
- 同じアイソコン・プラスのブロイヤー アームチェア(1936年)が同時代の作品として検討に値します。シェーズロングとしてはカッシーナのLC4(ル・コルビュジエ)、成形合板ラウンジチェアとしてはアルテックのパイミオチェア(アアルト)が比較対象となります。それぞれの詳細は各作品の紹介ページをご覧ください。
アイソコン社の全コレクションについてはアイソコン ブランドページをご覧ください。