カンチレバーチェア S 32 / S 33 が長く愛される理由

カンチレバーチェア S 32 / S 33は、1926年にマルト・スタムが原理を考案し、1928年にマルセル・ブロイヤーが発展させた、家具デザイン史上最も革新的な椅子のひとつである。後脚を持たない片持ち構造(カンチレバー)という画期的な設計思想は、「二本で十分なのに、なぜ四本の脚が必要なのか」というアーティスト、クルト・シュヴィッタースの言葉に象徴されるように、椅子という家具の概念そのものを根本から覆した。トーネット社は1930年よりS 32を、同時期よりS 33を継続して生産しており、約95年にわたって一度も途絶えることなく製造され続けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーター、カーラ・マッカーシーはセスカチェア(S 32)を「20世紀で最も重要な椅子10脚」のひとつに挙げており、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムなど世界の主要デザインミュージアムの永久コレクションにも収蔵されている。ノル社だけでも25万脚以上を販売したとされ、その普遍的な魅力は一世紀近くの時を経ても色褪せることがない。

このページでは、カンチレバーチェア S 32 / S 33の購入を検討している方に向けて、トーネット製正規品の仕様・サイズ・バリエーションから価格帯、リプロダクトとの違い、ノル社製セスカチェアとの比較、座り心地と空間への取り入れ方、籐やレザーのメンテナンス方法、正規販売店の情報まで、購入判断に必要な情報を網羅的に解説する。

正規品の基本情報:仕様・サイズ・素材

カンチレバーチェア S 32 / S 33は、トーネット社(Thonet)がドイツ・ヘッセン州フランケンベルクの工場で一貫して製造する正規品である。S 32はマルセル・ブロイヤーによる籐編み座面のモデルであり、S 33はマルト・スタムによるレザー座面のモデルである。現在では素材や仕上げの異なる多彩なバリエーションが展開されており、また米国ノル社(Knoll)も「セスカチェア」としてS 32系のモデルを正規に製造・販売している。いずれも正規品はデザイナーの署名または認証マークが付される。

S 32 V(籐編みモデル)

正式名称 カンチレバーチェア S 32 V / Cantilever Chair S 32 V(別名:セスカチェア / Cesca Chair)
デザイナー マルセル・ブロイヤー(Marcel Breuer, 1902–1981, ハンガリー)※芸術的著作権:マルト・スタム
デザイン年 1928年(生産開始:1930年)
ブランド トーネット(Thonet, 1819年創業, ドイツ)
製造国 ドイツ(フランケンベルク工場)
主要素材 フレーム:クロムメッキ冷間曲げスチールパイプ / 木部:ビーチ材(ブナ)ステイン塗装 / 座面・背もたれ:ウィーン様式籐編み(座裏面にサポートポリエステルメッシュ補強付き)
サイズ W460mm × D550mm × H820mm、座面高460mm
重量 約7kg
木部カラー ナチュラルビーチ / ブラック(TP29) / フェイデッドビーチ(TP107) / ウォールナット
フレーム仕上げ クロムメッキ / マットブラック
参考価格帯(税込目安) 約¥187,000〜¥200,000(トーネット社製、日本国内正規価格)
スタッキング 不可(カンチレバー構造のため)
関連モデル S 64 V(S 32のアームレスト付きバージョン)

S 33(レザーモデル)

正式名称 カンチレバーチェア S 33 / Cantilever Chair S 33
デザイナー マルト・スタム(Mart Stam, 1899–1986, オランダ)
デザイン年 1926年(生産開始:1927年)
ブランド トーネット(Thonet)
製造国 ドイツ(フランケンベルク工場)
主要素材 フレーム:クロムメッキ冷間曲げスチールパイプ / 座面・背もたれ:バットレザー
サイズ W500mm × D640mm × H840mm、座面高460mm
重量 約8kg
レザーカラー ブラック / コニャック / ホワイト 他
フレーム仕上げ クロムメッキ / マットブラック
参考価格帯(税込目安) 約¥188,100〜¥220,000(トーネット社製、日本国内正規価格)
スタッキング 最大6脚(スタッキング可能)
関連モデル S 34(S 33のアームレスト付きバージョン)

主要バリエーション一覧

トーネット社は、S 32 / S 33をベースに多彩なバリエーションを展開している。座面と背もたれの仕様によって複数のモデルが存在し、用途やインテリアの方向性に合わせた選択が可能である。

モデル 座面・背もたれ アームレスト デザイナー
S 32 V 籐編み+補強メッシュ なし マルセル・ブロイヤー
S 32 N 合成メッシュ(ブラック) なし マルセル・ブロイヤー
S 32 PV レザーまたはファブリック張り なし マルセル・ブロイヤー
S 64 V 籐編み+補強メッシュ あり マルセル・ブロイヤー
S 33 バットレザー なし マルト・スタム
S 33 N 合成メッシュ なし マルト・スタム
S 34 バットレザー あり マルト・スタム
S 32 VL 籐編み(ラウンジ仕様) なし マルセル・ブロイヤー

ノル社製セスカチェアについて

S 32(セスカチェア)は、トーネット社のほかに米国ノル社(Knoll)も正規に製造・販売している。これは1950年代にイタリアのガヴィーナ社がブロイヤーから製造権を取得し、その後1968年にノル社がガヴィーナ社を買収したことに由来する。ノル社製セスカチェアはフレームにKnollロゴとマルセル・ブロイヤーの署名が刻印され、正規品であることが保証される。トーネット社製とはディテールにおいて微妙な差異があり、座面の膝裏部分の曲線処理やフレームの仕上げ、木部の形状などが異なるとされる。ノル社製の参考価格は米国市場でUS$800〜1,200程度(ケーン仕様サイドチェア、約¥120,000〜¥180,000相当)であり、トーネット社製と比較してやや手頃な価格帯で展開されている。

正規品とリプロダクトの違い

カンチレバーチェア S 32は、世界で最もリプロダクト品が出回っているデザイナーズチェアのひとつである。リプロダクト品は¥10,000〜¥50,000程度で広く流通しているが、正規品との間には素材、構造、座り心地、長期的な価値において明確な差異が存在する。ここでは主にS 32 V(籐編みモデル)を中心に、正規品とリプロダクトの違いを客観的に整理する。

素材の違い

正規品のフレームには高品質のクロムメッキが施された冷間曲げスチールパイプが使用され、光沢が美しく、溶接や曲げ加工も精緻に仕上げられている。木部にはビーチ材(ブナ)が採用され、均一な木目と滑らかな手触りが特徴である。座面・背もたれの籐は、太めの天然籐が立体的に編まれており、自然素材ならではの豊かな表情がある。一方、リプロダクト品は薄く加工された安価な金属や別種の木材が使用されることが多く、籐についても合成素材や等級の低い籐が用いられる場合があり、平坦で無機質な印象になりやすいとされる。

構造の違い

正規品のカンチレバー構造は、スチールパイプの弾性を精密に計算して設計されており、座った際に適度な「揺れ」が生じ、宙に浮いているかのような独特の座り心地を実現している。トーネット社は2000年頃より座面裏側にサポートメッシュを追加する特許技術を導入し、籐の耐久性を大幅に向上させた。リプロダクト品ではフレームの肉厚や曲げ半径が異なるため、同等の弾力性が得られず、座り心地に差が生じる場合がある。また、フレームと木部・籐の接合精度においても差異が見られることが一般的である。

ディテールの違い

正規品では、フレームの曲線が滑らかで一体感があり、木部との接合部分が自然に馴染んでいる。籐の編み目は均一でありながら柔らかな表情があり、機械編みでありながらも手仕事のような温もりが感じられるとされる。リプロダクト品では、フレームと木部の接合部に隙間が生じやすく、籐の編み目が小さく整いすぎていたり、座面下部の補強ネットが露出しているなどの差異が見られることがある。正規品にはトーネット社のロゴまたはノル社のロゴとデザイナーの署名が刻印されており、正規品であることの確認が可能である。

体験の違い

正規品のカンチレバーチェアは、スチールパイプの弾性と籐の柔軟性が相まって、身体を預けた瞬間にわずかに沈み込み、やがて安定するという独特の座体験を提供する。この「空気の上に座る」ような感覚こそがカンチレバーチェアの本質的な価値であり、フレームの肉厚やパイプ径、曲げ半径の精密な設計によって初めて実現されるものである。リプロダクト品においても基本的な座体験は得られるものの、弾力の質や安定感において正規品との差は一般的に指摘されている。

価値の違い

正規品のカンチレバーチェアは、中古市場においても安定した需要があり、特にヴィンテージ品は経年変化による籐の飴色の深みが評価され、コンディション次第では購入時に近い価格、あるいはそれ以上で取引されることもある。トーネット社は籐の張り替えを含む修理にも対応しており、長期にわたる使用が前提とされた製品設計となっている。一方、リプロダクト品のリセールバリューは限定的であり、修理対応も一般的には困難である。

比較項目 正規品(トーネット社 / ノル社) リプロダクト一般
フレーム素材 高品質クロムメッキ冷間曲げスチールパイプ 安価なクロムメッキまたはニッケルメッキスチール
木部 ビーチ材(ブナ)ステイン塗装 別種の安価な木材、品質にばらつき
籐(S 32系) 高品質天然籐、座裏面に特許サポートメッシュ補強 低等級天然籐または合成素材、補強なしの場合あり
座り心地 精密に設計されたカンチレバーの弾性による浮遊感 基本構造は同様だが弾力の質に差
認証 メーカーロゴ・デザイナー署名の刻印あり 認証なし
参考価格帯 約¥120,000〜¥200,000 約¥10,000〜¥50,000
保証・修理 メーカー保証あり、籐張り替え等の修理対応可 限定的な保証、修理対応は一般的に困難
リセールバリュー 高い(ヴィンテージ品はプレミアム価格で取引も) 低い

トーネット社製とノル社製の比較

S 32(セスカチェア)には、トーネット社製とノル社製という2つの正規品が存在する。いずれもマルセル・ブロイヤーのオリジナルデザインに基づいているが、製造元の違いにより細部の仕上げや価格帯に差異がある。どちらも正規品として信頼性が高く、選択は好みと予算に応じて判断することが望ましい。

比較項目 トーネット S 32 V ノル セスカチェア(ケーン)
製造国 ドイツ(フランケンベルク) アメリカ
サイズ W460 × D550 × H820mm、SH460mm W470 × D597 × H800mm、SH451mm
重量 約7kg 約7.3kg(16lbs)
フレーム特徴 膝裏部分に微妙な丸みがあり、手仕事感のある仕上げ よりクリーンでシャープなライン
座面補強 特許取得のサポートポリエステルメッシュ 手編み籐(従来の工法)
認証マーク トーネット社ロゴ Knollロゴ+マルセル・ブロイヤー署名の刻印
保証 メーカー保証 5年保証
参考価格帯 約¥187,000〜¥200,000 約¥120,000〜¥180,000(US$800〜1,200相当)
おすすめの方 伝統的な工芸技術や細部のこだわりを重視する方 モダンでシンプルなデザイン、コストパフォーマンスを重視する方

使用感と暮らしへの取り入れ方

座り心地

カンチレバーチェアの最大の魅力は、スチールパイプの弾性を活かした独特の座り心地にある。着座した瞬間にフレームがわずかにたわみ、身体を柔らかく受け止める。この「空気の上に座る」ような浮遊感は、従来の4本脚の椅子では決して得られない体験である。S 32(籐編み)は、籐の適度な弾力が加わることで身体への負担が分散され、長時間の着座にも適している。座面高460mmは日本人の体格にも合いやすく、テーブル高700〜720mmとの組み合わせが一般的に良好とされる。S 33(レザー)は、レザーのしっかりとしたホールド感と安定性が特徴であり、フォーマルな印象を与える。いずれのモデルも厚いクッションを必要とせず、素材そのものの特性が快適性を実現するという、バウハウスの機能美の理念が体現されている。

空間別のコーディネート提案

カンチレバーチェアは、バウハウスの理念どおり装飾を排したミニマルなフォルムであるがゆえに、きわめて多様なインテリアスタイルに適応する。トーネット社自身が「妥協のないモダン空間にも、異なる時代様式を混在させたミックスにも馴染む」と評するとおり、その汎用性は比類のないものである。

ダイニング
最も一般的かつ理想的な使用シーンである。4〜6脚を揃えてダイニングテーブルに合わせることで、洗練されたダイニング空間が完成する。S 32 Vの籐編みは食卓に温かみを添え、S 33のレザーはよりフォーマルな印象を演出する。テーブルの天板にはオーク材やウォールナット材の無垢材テーブル、あるいはガラス天板のモダンテーブルとの相性が優れている。
書斎・ホームオフィス
デスクチェアとしての使用にも適している。USMハラーテーブルやフリッツ・ハンセンのスーパー楕円テーブルなど、クロムフレームを持つデスクとの組み合わせは、素材の統一感によって美しいワーキングスペースを実現する。S 64 V(アームレスト付き)はより安定した執務姿勢を支え、長時間の作業にも対応する。
リビング・ラウンジ
S 32 VL(ラウンジバージョン、座面高400mm)はソファとの組み合わせに最適化されたモデルであり、リビングのサイドチェアやリーディングチェアとして機能する。籐の透明感がリビング空間に軽やかさをもたらし、大型のソファと配置しても圧迫感を与えない。
玄関・エントランス
1脚をアクセントとして配置することで、玄関に上品な佇まいを加えることができる。靴の着脱時の一時的な着座にも便利であり、実用性とデザイン性を兼備する。

生活スタイル別の提案

一人暮らし・コンパクトな空間
S 32 V(アームレスなし)は幅460mmとコンパクトであり、小さなダイニングやデスクサイドにも無理なく配置できる。カンチレバー構造によるスリムなシルエットは、空間を広く見せる効果がある。マルチユースとして、ダイニングチェアとデスクチェアを兼ねることも可能である。
ファミリー
S 32 Vの籐編みは適度な弾力があり、家族の日常使いに適している。トーネット社のサポートメッシュ補強により耐久性が高まっており、子どもの使用にも配慮されている。籐の張り替えが可能であるため、長年の使用にも対応でき、世代を超えて受け継ぐことのできる椅子である。
オフィス・コントラクト
S 33(レザー)やS 32 N(合成メッシュ)は、会議室や応接スペースに適している。S 33は最大6脚までスタッキングが可能であり、使用しない際の収納効率にも優れている。トーネット社はコントラクト向けの品質基準を満たしており、商業施設での採用実績も豊富である。

経年変化とメンテナンス

経年変化の魅力

カンチレバーチェアは、長く使い込むほどに独特の風合いが増していく家具である。S 32 Vの籐は、使用とともに自然な飴色へと変化し、新品時の明るいナチュラルカラーから、やがて深みのある琥珀色へと育っていく。この経年変化は天然素材ならではの魅力であり、ヴィンテージ市場においてはむしろ高く評価される傾向にある。ビーチ材の木部も同様に時間とともに色味が深まり、空間に温かみを加える。S 33のレザーは、使用に伴い革が柔らかくなじみ、身体に合った形へと変化していく。クロムメッキのスチールフレームは耐久性が高く、適切な手入れにより長期にわたって美しい輝きを保つことができる。

日常メンテナンス

籐(S 32 V系)
籐は乾燥を嫌うため、定期的に固く絞った柔らかい布で水拭きすることが推奨される。過度な乾燥環境(エアコンの直風など)は避け、適度な湿度を保つことが長持ちの秘訣である。直射日光の長時間照射は変色や劣化の原因となるため注意が必要である。
レザー(S 33系)
日常の手入れは柔らかい乾いた布での乾拭きが基本である。半年に一度程度、レザー用のコンディショナーやクリームで保湿することで、革の柔軟性と光沢を維持できる。水濡れした場合は速やかに拭き取り、自然乾燥させる。
スチールフレーム
通常の汚れは柔らかい布で乾拭きすれば十分である。頑固な汚れには消毒用アルコールを布に含ませて拭き取る方法が有効であるが、木部に触れないよう注意する。研磨剤入りのクリーナーは使用しないこと。
木部
固く絞った布での水拭き、または家具用ワックスでの定期的な手入れにより、美しい状態を維持できる。

修理・パーツ交換

トーネット社は籐の張り替えサービスに対応しており、長年の使用で劣化した籐を新しいものに交換することが可能である。これにより、フレームの耐用年数いっぱいまで椅子を使い続けることができる。籐の張り替え費用は、販売店やコンディションによって異なるが、数万円程度が目安とされる。レザー座面の補修や交換についても正規販売店を通じて相談が可能である。フレーム自体はスチールの高い耐久性により、通常の使用環境では数十年にわたって構造的な問題が生じることは稀である。

どこで買うか:正規販売店と購入方法

国内正規販売店(トーネット社製)

トーネット社製品の日本における正規代理店はプラス株式会社ファニチャーカンパニーであり、全国のトーネット正規販売店を通じて購入が可能である。

プラス株式会社ファニチャーカンパニー
トーネット社の日本正規代理店。法人・個人向けに販売を展開している。公式サイトにて製品情報および取扱販売店の確認が可能。
アトラクト(attract)
高知県高知市のトーネット正規販売店。実店舗およびオンラインショップにて販売。高知県高知市南久保10-28。
D9 STUDIO
トーネット正規取扱店。オンラインショップにて販売。
YAMAGIWA(ヤマギワ)
東京都を拠点とするインテリアショップ。オンラインストアにてトーネット製品を取り扱い。

国内正規販売店(ノル社製セスカチェア)

FLYMEe(フライミー)
日本最大級の家具通販・インテリア通販サイト。Knoll Studio正規取扱店としてセスカチェアを販売。
MoMA Design Store(東京・表参道)
ニューヨーク近代美術館の公式デザインストア。ノル社製セスカチェアを取り扱い。

実物を確認できるショールーム

カンチレバーチェアは座り心地の確認が重要であるため、可能な限り実物に座ってから購入することが推奨される。プラス株式会社の各地ショールーム、およびアトラクト(高知)、YAMAGIWA(東京)などの正規販売店にて実物の展示・試座が可能である。トーネット社はドイツ・フランケンベルクに自社ミュージアムとショールームを併設しており、海外渡航の機会がある場合は訪問する価値がある。

中古・ヴィンテージ市場

カンチレバーチェアは中古市場においても豊富な流通がある。特にS 32 V(トーネット社製)のヴィンテージ品は、籐の飴色の経年変化が評価され、コンディションの良い個体には新品に匹敵する価格がつくこともある。国内では東京・目黒通りのヴィンテージ家具店(Interiors Pocket Park等)、リサイクルショップ(TOKYO RECYCLE imption等)で取り扱いがあり、海外では1stDibs、Pamonoなどのプラットフォームで国際的な取引が行われている。ヴィンテージ品の購入時は、フレームの歪み、クロムメッキの状態、籐の損傷の有無、正規品であることの確認(メーカーラベル・刻印の確認)を入念にチェックすることが重要である。

購入時チェックリスト

  • 正規品であることの確認(トーネット社ロゴ、ノル社ロゴ+デザイナー署名の刻印)
  • モデルの確認(S 32 V / S 33 / S 64 V / S 34 等、座面仕様とアームレストの有無)
  • 木部カラー・フレーム仕上げの選択(ナチュラル / ブラック / クローム / マットブラック等)
  • サイズ確認(設置場所の実測、テーブル高との適合、搬入経路の確認)
  • 使用目的との適合(ダイニング / デスク / ラウンジ等に応じたモデル選択)
  • 納期の確認(受注生産品の場合8〜12週間が目安)
  • 保証内容の確認(メーカー保証の範囲、修理・籐張り替え対応の可否)

配送・設置に関する注意事項

カンチレバーチェアは完成品での配送が一般的であり、組み立ては不要である。ダイニング用に複数脚を購入する場合、配送サイズが大きくなるため事前の搬入経路(玄関幅、階段幅、エレベーターサイズ)の確認が推奨される。S 33は最大6脚までスタッキング可能であるため、保管時のスペース効率に優れている。グライド(脚裏のキャップ)はフェルト付きタイプとプラスチックタイプが選択でき、フローリングの場合はフェルト付きが推奨される。

コーディネート事例

バウハウス・モダニズム

カンチレバーチェアの原点であるバウハウスの美学に忠実なコーディネート。S 32 V(クローム×ナチュラルビーチ×籐)をUSMハラーのテーブルや収納と組み合わせ、ルイスポールセンのAJフロアランプを添えることで、機能性と美しさが高度に調和した空間を実現できる。スチールとガラス、白壁を基調としたミニマルな空間に、籐の温かみがアクセントとなる。

ナチュラル・オーガニックモダン

S 32 V(ナチュラルビーチ×クローム)をオーク材やウォールナット材のダイニングテーブルと組み合わせる、近年人気の高いスタイル。天然素材同士の調和が穏やかな雰囲気を生み、韓国インテリアやジャパンディスタイルとの親和性も高い。ホワイトやベージュを基調とした空間に、クロームの輝きと籐の素材感がバランスよく映える。イサム・ノグチのアカリシリーズやフリッツ・ハンセンのエッグテーブルなどとの組み合わせも美しい。

インダストリアル・ヴィンテージミックス

S 32 V(ブラック×マットブラック)やS 33(ブラックレザー)を古材テーブルやアイアンシェルフと組み合わせる、インダストリアルテイストのスタイル。ブラックフレームはビンテージの照明器具やコンクリート壁との相性が良く、モダンでありながら歴史の重みを感じさせる空間をつくり出す。イームズのシェルチェアやジャン・プルーヴェのスタンダードチェアなど、同時代のモダニズムデザインとのミックスも効果的である。

相性の良いデザイナーズ家具

テーブル
USMハラーテーブル、フリッツ・ハンセン スーパー楕円テーブル、イサム・ノグチ サイクロンテーブル、ル・コルビュジエ LC6テーブル
照明
ルイスポールセン AJシリーズ、イサム・ノグチ アカリ、フロス アルコランプ、カイザー・イデル
収納
USMハラー、ヴィトソー 606 ユニバーサル・シェルビングシステム

よくある質問

トーネット S 32 Vの正規品の価格はどのくらいですか?
トーネット社製S 32 V(籐編み・アームレスなし)の日本国内正規価格は、参考価格として約¥187,000〜¥200,000(税込目安)です。木部カラーやフレーム仕上げの選択により価格が変動する場合があります。S 33(レザー)は約¥188,100〜、アームレスト付きのS 64 Vはさらに上の価格帯となります。ノル社製セスカチェア(ケーン仕様)は米国市場でUS$800〜1,200程度です。
トーネット S 32とノル セスカチェアのどちらを選ぶべきですか?
いずれもマルセル・ブロイヤーのオリジナルデザインに基づく正規品であり、品質面での優劣はありません。トーネット社製は手仕事感のある繊細な仕上げと特許取得のサポートメッシュ補強が特徴であり、伝統的な工芸技術を重視する方に適しています。ノル社製はよりクリーンなラインとシンプルな仕上げが特徴で、コストパフォーマンスを重視する方にも適しています。日本国内ではトーネット社製のほうが正規販売店の数が多い傾向があります。
リプロダクト品でも十分ですか?
リプロダクト品はデザインを気軽に取り入れるための選択肢として一定の存在価値があります。ただし、正規品と比較するとフレームの弾性、籐の品質、座り心地、経年変化の美しさ、耐久性、リセールバリューにおいて差があることが一般的に指摘されています。長期的な使用を前提とする場合や、カンチレバーチェア本来の「空気の上に座る」座体験を重視する場合は、正規品の検討をお勧めいたします。
どこで購入できますか?
トーネット社製は、日本正規代理店であるプラス株式会社ファニチャーカンパニーを通じて全国の正規販売店で購入できます。アトラクト(高知)、D9 STUDIO、YAMAGIWA等がオンラインショップも展開しています。ノル社製セスカチェアはFLYMEe、MoMA Design Store(表参道)等で取り扱いがあります。
実物を試座できる場所はありますか?
プラス株式会社の各地ショールーム、アトラクト(高知)、YAMAGIWA(東京)等の正規販売店にて実物の展示・試座が可能です。カンチレバー構造の独特の座り心地は実際に体験することで初めて理解できるため、購入前の試座を強く推奨いたします。
納期はどのくらいかかりますか?
在庫がある場合は即納〜数週間程度ですが、受注生産品やカスタム仕様の場合は8〜12週間が目安となります。木部カラーやフレーム仕上げの組み合わせによって納期が異なるため、注文前に販売店にご確認ください。
籐が傷んだ場合、張り替えはできますか?
はい、トーネット社は籐の張り替えサービスに対応しています。正規販売店を通じて依頼が可能であり、費用は数万円程度が目安です。籐の張り替えにより、フレームの寿命いっぱいまで椅子を使い続けることができます。日常のメンテナンスとしては、固く絞った柔らかい布での定期的な水拭きが推奨されます。
他に検討すべき名作チェアはありますか?
カンチレバーチェアと同時代のバウハウス系名作チェアとして、ミース・ファン・デル・ローエのMRチェア、マルセル・ブロイヤーのワシリーチェアがあります。トーネット社の曲げ木チェアの伝統を受け継ぐモデルとしてはNo. 214(旧No. 14)が挙げられます。北欧デザインのダイニングチェアをご検討の場合は、カール・ハンセン&サンのCH24 Yチェアやフリッツ・ハンセンのセブンチェアも比較対象となるでしょう。