PE-128 スタラグマイト・コーヒーテーブル(円形ガラス天板)──自然の造形を宿すブルータリズムの傑作
1960年代後半、アメリカン・クラフト運動の潮流のなかで、金属という素材に彫刻的な生命を吹き込んだデザイナーがいた。ポール・エヴァンス(Paul Evans, 1931–1987)である。彼がディレクショナル・ファニチャー社のために手がけた「スカルプチャード・メタル・コレクション」の一作、PE-128 スタラグマイト・コーヒーテーブルは、鍾乳洞の石筍(スタラグマイト)が隆起するかのような力強いベースの上に、透明なガラス天板を載せた構成で、家具と彫刻の境界を鮮やかに超越する作品である。
1969年に初めて制作され、以後1970年代を通じてエヴァンスのスタジオで一点ずつ手作業により生み出されたこのテーブルは、量産品とは一線を画す唯一無二の存在感を放つ。本稿では、PE-128の造形思想、制作技法、そしてコレクターズ・マーケットにおける評価に至るまで、その全容を紹介する。
概要
PE-128 スタラグマイト・コーヒーテーブルは、ポール・エヴァンスが1969年頃にデザインし、ニューヨークのディレクショナル・ファニチャー社を通じて販売された「スカルプチャード・メタル・コレクション」に属するコーヒーテーブルである。鋼鉄のフレームの上にエポキシ樹脂を手作業で造形し、その表面に霧化したブロンズを吹き付けるという独自の技法——いわゆる「スカルプチャード・ブロンズ」技法——によって制作されている。
ベース部分は、鍾乳洞に見られる石筍のように大小さまざまな突起が不規則に林立する造形を呈し、その上に円形のガラス天板が載る。ガラス越しにベースの彫刻的な表情が透けて見えるため、上方から眺めてもなお立体的な奥行きを感じさせる設計となっている。制作された個体にはエヴァンス自身の手によるイニシャルと制作年が刻まれており、作家性の高い工芸作品としての性格を色濃く帯びている。
特徴・コンセプト
スカルプチャード・ブロンズ技法
PE-128の最大の特徴は、その制作に用いられた「スカルプチャード・ブロンズ」技法にある。この技法は、フィラデルフィアの造船所で船体の修復に使われていた工法に着想を得たものとされ、エヴァンスとその右腕であった職人ドーシー・レディングによって家具制作に応用された。まず鋼鉄のフレームにエポキシ樹脂を塗布し、それをフリーハンドで彫塑的に成形する。次にサンドブラスト処理を施した後、霧化した溶融ブロンズを吹き付けることで、鋳造ブロンズのような重厚な質感を実現しつつも、実際の重量を抑えることに成功している。
2014年にジェームズ・A・ミッチェナー美術館で開催されたエヴァンスの回顧展のキュレーター、コンスタンス・キマーリは、この技法を「伝統的な工芸と革新的な技術、そして自発的な自由表現を融合させた実験的技法」と評している。この技法は今日に至るまで再現されていないとされ、エヴァンス作品の唯一無二の価値を支える重要な要素となっている。
石筍のモチーフ
「スタラグマイト」の名が示すとおり、このテーブルのベースは地中から隆起する石筍——鍾乳洞の床面から天井に向かって成長する鍾乳石——をモチーフとしている。大小さまざまな高さの柱状突起が不規則に配置され、あたかも地殻変動によって生み出された原初的な地形のような印象を与える。この有機的かつ原始的な造形は、ブルータリズムの美学と自然の造形力への畏敬が共存するエヴァンス独自の世界観を体現するものである。
円形のガラス天板は、こうした荒々しいベースの造形を覆い隠すのではなく、むしろ透過させることで鑑賞の対象とする役割を果たしている。テーブルとしての機能性を確保しながらも、彫刻作品としての鑑賞性を犠牲にしない——この二律背反を見事に解決した設計こそが、PE-128の真髄といえる。
アメリカン・クラフト運動との関係
ポール・エヴァンスの作品は、1960年代から1970年代にかけてアメリカで隆盛したアメリカン・クラフト運動の文脈において語られることが多い。この運動は大量生産に対するアンチテーゼとして、個人の手仕事による創造と工芸性を重視した。エヴァンスは同時代のジョージ・ナカシマやフィリップ・ロイド・パウエルといった木工家とペンシルベニア州バックス郡に居を構えながらも、木ではなく金属を主要素材に選び、独自の道を切り拓いた。PE-128もまた、一点一点がエヴァンスまたはその監督のもとで手作業により仕上げられたものであり、同じモデルであっても個体ごとに微妙な表情の違いが生じる。この一回性こそが、工芸作品としてのPE-128の本質的な価値を形成している。
制作にまつわるエピソード
PE-128が属する「スカルプチャード・ブロンズ」シリーズは、エヴァンスが1964年にディレクショナル・ファニチャー社と提携して以降に展開したラインのひとつであり、PE100〜200番台のモデルナンバーが付されている。このシリーズは同社で最も長く生産が続けられ、商業的にも成功を収めたコレクションとなった。
制作工程において重要な役割を果たしたのが、1959年からエヴァンスのもとで働き始めた職人ドーシー・レディングである。ニュージャージー州ランバートビル出身の若き機械工であったレディングは、当初は見習いとしてスタジオに加わったが、やがてエヴァンスの最も信頼する協力者となり、デザイン画を実際の家具へと変換する中核的な存在となった。レディングは合板の下地形状を制作し、その上にエポキシ樹脂を塗布、造船技術を応用してブロンズを吹き付けるという工程を担った。場合によっては、ブロンズとエポキシの混合物を殺菌した砂とともにサンドブラストで吹き付けたり、前日の作業で生じた鋼鉄の破片を「岩」のようにエポキシに貼り付けて彫刻的な効果を加えることもあった。
エヴァンスとディレクショナル社の関係は、デザイナーと製造元の一般的な関係とは大きく異なっていた。すべての作品が手作業で制作され、手作業で仕上げられ、制作の各段階でエヴァンス自身の監督を経るという条件が維持されていた。エヴァンスの作品の多くにはイニシャルと制作年が刻印されており、PE-128にも「PE 69」「PE 70」「PE 72」などの銘が確認されている。これは単なる製品番号ではなく、作家の署名であり、作品の真正性を証明する重要な要素となっている。
評価
ポール・エヴァンスの作品に対する評価は、生前から一種の両義性を帯びていた。音楽家レニー・クラヴィッツはエヴァンスの作品を「驚くほど美しく、驚くほど醜く、驚くほど俗悪で、驚くほど洗練されている」と評しており、この言葉はエヴァンス作品が喚起する多層的な感覚を端的に表現している。PE-128もまた、鑑賞者によって「彫刻」と見なされることもあれば「テーブルの台座」と認識されることもあり、さらには抽象彫刻のように素通りされることもあるという、多様な受容のされ方をする作品である。
21世紀に入り、エヴァンスの作品は急速に再評価が進んだ。グウェン・ステファニー、レニー・クラヴィッツ、トミー・ヒルフィガーといったセレブリティがコレクターとして名を連ね、キャビネットやクレデンツァは25万ドルを超える落札価格を記録するようになった。2017年にはエヴァンスのキャビネットがオークションで38万2,000ドルで落札されている。PE-128スタラグマイト・コーヒーテーブルについても、近年のオークション市場では3,000ドルから6,000ドル前後の落札が確認されており、コレクターズアイテムとしての地位を確立している。
2014年には、ペンシルベニア州ドイルズタウンのジェームズ・A・ミッチェナー美術館において、エヴァンスのキャリア全体を網羅する初の包括的回顧展「Paul Evans: Crossing Boundaries and Crafting Modernism」が開催され、その後ミシガン州のクランブルック美術館にも巡回した。約60点の作品が出品されたこの展覧会は、エヴァンスの金属彫刻家具がアメリカのスタジオ・ファニチャー運動において果たした役割を再確認する機会となった。
関連文献
- Jeffrey Head『Paul Evans: Designer & Sculptor』Schiffer Publishing, Atglen, Pennsylvania, 2012年(p.90にPE-128の記載あり)
- Todd Merrill『Collecting Modern』(エヴァンスの技法と貢献についての記述を収録)
- Directional "Sculptured Metal" Collection Designed by Paul Evans, セールスカタログ, New York, 1960年代
基本情報
| 正式名称(日本語) | PE-128 スタラグマイト・コーヒーテーブル |
|---|---|
| 正式名称(英語) | Stalagmite Coffee Table, Model PE-128 |
| デザイナー | ポール・エヴァンス(Paul Evans / 1931–1987 / アメリカ) |
| デザイン年 | 1969年頃(制作個体により1969年〜1979年の銘が確認されている) |
| 製造 | ポール・エヴァンス・スタジオ(Paul Evans Studio) / ディレクショナル・ファニチャー社(Directional Furniture Company)、ニューヨーク |
| シリーズ | スカルプチャード・メタル・コレクション(Sculptured Metal Collection)/ スカルプチャード・ブロンズ・シリーズ(Sculpted Bronze Series, PE100–200) |
| 主要素材 | ベース:エポキシ樹脂(ブロンズド・レジン)、スチール / 天板:円形ガラス(クリアまたはスモーク) |
| サイズ | 高さ:約40〜42cm(15¾〜16½ in) / 天板直径:約107cm(42 in)前後 ※個体により若干の差異あり |
| 仕上げ | 霧化ブロンズ吹付(パティナ仕上げ)、ダークブロンズ色 |
| 署名 | ベース内側または下端にイニシャルと制作年を刻印(例:「PE 69」「PE 72」) |
| カテゴリ | コーヒーテーブル / カクテルテーブル |
| 様式 | ブルータリズム / アメリカン・クラフト / ミッドセンチュリーモダン |
| 参考市場価格 | オークション落札価格:約4,000〜6,000 USD前後(状態・制作年により変動) / ギャラリー販売価格:約5,000〜12,000 USD(参考価格、2024–2025年時点) |