このネスティングテーブルが長く愛される理由

マルセル・ブロイヤーのネスティングテーブルは、バウハウスが掲げた機能主義の理念を、入れ子式という実用的な仕組みのなかに結実させた小型テーブルである。1925〜26年に鋼管で設計された「B9」と、1936年に英国で成形合板によって設計されたアイソコン版という、素材も生まれた国も異なる二つの系譜が存在し、いずれも現在まで生産が続けられている。

使わないときは大小のテーブルを重ねてコンパクトに収め、必要に応じて引き出して使う——この単純で合理的な発想と、最小限の要素で構成された端正なフォルムが、約一世紀にわたって支持されてきた理由である。

本ページでは、ネスティングテーブルの購入を検討されている方に向けて、正規品の仕様・サイズ・素材、正規品とリプロダクトの違い、使用感と暮らしへの取り入れ方、経年変化とメンテナンス、正規販売店と購入方法、よくある質問まで、購入判断に必要な情報を整理してお伝えする。

正規品の基本情報:仕様・サイズ・素材

ネスティングテーブルには、鋼管製のB9(トーネット)と成形合板製のアイソコン版(アイソコン・プラス)という二つの正規品系統がある。それぞれ素材・構造・寸法が異なるため、以下に分けて整理する。

鋼管製 B9(トーネット)

正式名称 B9 / Set B9(ネスティングテーブル)
デザイナー マルセル・ブロイヤー(Marcel Breuer、1902-1981、ハンガリー出身)
デザイン年 1925-1926年
製造ブランド・製造国 トーネット(Thonet)/ドイツ
主要素材 フレーム:クロムメッキまたはカラーラッカー仕上げの鋼管(チューブ径20×2mm前後)/天板:ブナ材を中心とした木製(ラッカー・ステイン仕上げ、厚さ約21mm)。屋内外兼用のガラス天板「オールシーズン」仕様もある
サイズ B9a:45×39×H45cm/B9b:52×39×H50cm/B9c:59×39×H55cm/B9d:66×39×H60cm(棚を追加したB9d/1もある)
カラー・仕上げ フレーム:クロムメッキ/各種ラッカー色。天板:木部のラッカー・ステイン色、またはガラス
参考価格帯(税抜目安) 1台 約€677〜797(painted仕上げ)/4台セット 約€2,500〜3,200
仕様 4サイズが入れ子状に重なる。単品・セットのいずれでも購入可能

成形合板版(アイソコン・プラス)

正式名称 Isokon Nesting Tables(ネスティングテーブル)
デザイン年 1936年
製造ブランド・製造国 アイソコン・プラス(Isokon Plus)/英国(ロンドン・ウォルサムストウの工房で製作)
主要素材 樺(バーチ)合板。11mmの合板(1.5mm単板7層)を一枚から切り出し、曲げ加工で成形する
サイズ(2022年復刻版) 大:W460×D610×H370mm/中:W415×D610×H352mm(単品・入れ子ペアで購入可能)
仕様 2022年にマーガレット・ハウエルとの協働で復刻。各台にアイソコンとマーガレット・ハウエルの刻印が施される。プリチャード・エステートのライセンスのもとで生産
参考価格帯 特注品のため個別見積もり(配送方法により変動)

正規品とリプロダクトの違い

ネスティングテーブル、とくに鋼管製B9については、バウハウス様式の鋼管テーブルとして多くの複製品(リプロダクト)が市場に流通している。複製品は価格面で手に取りやすい一方、素材・構造・仕上げの各点で正規品との差が生じやすい。ここでは複製品を否定するためではなく、正規品の価値を客観的に把握していただくために、両者の違いを整理する。

素材・構造・ディテールの違い

素材
正規品(トーネット)は適切な肉厚の鋼管と、長年の生産で蓄積されたクロムメッキ技術による光沢・防錆性を備える。天板もブナ材など品質の安定した木材を用いる。複製品は鋼管が細い・薄い場合があり、メッキの均一性や天板素材(突き板・合板の質)に差が出やすい。
構造
正規品は鋼管の曲げ精度と接合が安定しており、4台がずれなく入れ子状に収まる。複製品は寸法公差が大きいと、重ねた際の収まりやがたつきに影響することがある。
ディテール
エッジ処理、脚先のグライダー(床保護材)、クロムの仕上がりといった細部に、正規品は一定の水準が保たれている。複製品はこれらの仕上げが簡略化される場合がある。
価値・保証
正規品はブランドによる品質保証や補修・パーツ対応が期待でき、ヴィンテージ市場でも一定の資産価値を保つ。複製品は保証・リセールの面で限定的になりやすい。

正規品とリプロダクトの比較表

比較項目 正規品(トーネット B9) リプロダクト一般
フレーム素材 適切な肉厚の鋼管+安定したクロムメッキ/ラッカー仕上げ 鋼管が細い・薄い場合あり。メッキの均一性に差
天板 ブナ材等の木製(約21mm)またはガラス 突き板・合板など素材の質に差が出やすい
入れ子の精度 4台がずれなく収まる安定した寸法 公差が大きいと収まり・がたつきに影響
保証・補修 ブランドによる保証・パーツ対応 限定的
資産価値 ヴィンテージ市場でも評価される リセールは限定的

使用感と暮らしへの取り入れ方

ネスティングテーブルは、単体のサイドテーブルとして、また複数台を広げる補助テーブルとして柔軟に使える点が魅力である。天板はコーヒーカップや書籍、照明、観葉植物などを置くのにちょうどよい大きさで、ソファやラウンジチェアの脇に自然になじむ。

空間別の取り入れ方

リビング
ソファ脇に最も背の高い1台を置き、来客時に小さい台を引き出して使う運用が便利。鋼管製B9はガラスや金属、レザーと相性がよく、成形合板版は木やファブリック中心の空間になじむ。
寝室・書斎
ベッドサイドや読書チェアの脇に1台を据えると、照明や書籍の定位置になる。省スペースで動かしやすく、レイアウト変更にも対応しやすい。
玄関・ディスプレイ
花や小物を飾る台としても使え、入れ子に重ねれば高低差のある演出ができる。

生活スタイル別の提案

一人暮らし・コンパクトな住まい
使わないときに重ねて省スペース化できるため、限られた床面積でも導入しやすい。必要なときだけ展開する使い方に向く。
ファミリー・オフィス
来客時や作業時に複数台を展開し、普段は重ねて収納するという柔軟な運用ができる。

経年変化とメンテナンス

素材ごとに適した手入れを行うことで、長く良い状態を保つことができる。いずれの仕様も日常の手入れは難しくない。

素材別の手入れ

クロムメッキフレーム(B9)
普段は柔らかい乾いた布で拭く。指紋や曇りが気になる場合は固く絞った布で拭き、乾拭きで仕上げる。研磨剤や酸性・アルカリ性の強い洗剤は避ける。湿気の多い環境では水分を残さないよう注意する。
木製天板(B9)
乾拭きを基本とし、汚れは中性洗剤の薄め液を含ませた布で拭き取り、乾いた布で仕上げる。直射日光や極端な乾燥・多湿を避けると、木地の色合いが穏やかに落ち着いていく。
成形合板(アイソコン版)
乾拭きが基本。水濡れを放置せず、輪染みを防ぐためコースターの併用が望ましい。表面仕上げに応じて専用のワックス等を用いる場合は、目立たない箇所で試してから使用する。

パーツの交換や本格的な補修については、トーネットの正規取扱店、またはアイソコン・プラスの取扱店に相談するのが確実である。ヴィンテージ品の場合は、専門のリペア業者による再メッキや天板の補修が可能なケースもある。

どこで買うか:正規販売店と購入方法

正規販売店

鋼管製 B9(トーネット)
トーネット公式サイトの正規取扱店検索、ヤマギワ(受注販売)、国内のトーネット正規取扱店で購入できる。日本での取扱いはプラス ファニチャーカンパニーが担っている。受注生産が中心のため、仕様・納期は販売店に確認するとよい。
成形合板版(アイソコン・プラス)
アイソコン・プラス(Isokon Plus)の公式オンラインストア、およびマーガレット・ハウエル各店が主な入手経路。特注品のため、配送方法を含めた見積もりを事前に確認する。
中古・ヴィンテージ市場
1stDibs、Pamono、Bonhamsなどの国際的なプラットフォームで、B9のヴィンテージや初期のアイソコン合板テーブルが流通している。アイソコンの戦前オリジナルは樺合板製で「Venesta」の刻印があるのが目安とされ、1960年代のライセンス生産品とは区別される。状態・来歴・真贋を確認のうえ購入したい。

購入時チェックリスト

  • 正規品であることの確認(ブランド刻印・正規取扱店での購入・付属書類)
  • 仕様の確認(フレームの仕上げ色、天板素材・色、ガラス天板の要否)
  • サイズ確認(設置場所の実測、入れ子で使うか単品で使うか)
  • 納期の確認(受注生産・特注の場合の製作期間)
  • 保証・アフターサービスの確認(補修・パーツ対応の可否)
  • 配送・搬入経路の確認

コーディネート事例

素材の異なる二つの系統は、合わせる空間のテイストによって使い分けると魅力が際立つ。

テイスト別の提案

モダン・インダストリアル
鋼管製B9のクロムフレームは、ガラスやレザー、金属を基調とした空間に映える。同じ鋼管家具であるブロイヤーのチェアや、ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェアと合わせると、バウハウスの系譜で統一できる。
北欧・ナチュラル
成形合板版の有機的なフォルムと木の質感は、木製家具やファブリックを中心とした穏やかな空間になじむ。アルテックやイサム・ノグチの木味のある名作と組み合わせると、温かみのある構成になる。

よくある質問

正規品の価格はどのくらいですか?
トーネットのB9は、1台単位で参考価格約€677〜797(painted仕上げ)、4台フルセットで約€2,500〜3,200が目安です(税抜・現地価格)。国内ではヤマギワ等で受注販売されており、為替・仕様・送料により価格は変動します。アイソコン・プラスの成形合板版は特注品で、サイズや配送方法により個別見積もりとなります。
どこで購入できますか?
鋼管製のB9はトーネット公式サイトの正規取扱店検索、ヤマギワ、国内のトーネット正規取扱店(プラス ファニチャーカンパニーが日本での取扱いを担う)で購入できます。成形合板版はアイソコン・プラス(Isokon Plus)およびマーガレット・ハウエル各店・公式オンラインストアが主な入手経路です。
実物を確認できる場所はありますか?
国内のトーネット正規取扱店やヤマギワのショールームで、B9の実物やフレーム・天板の質感を確認できる場合があります。鋼管のクロムメッキの光沢や木製天板の仕上げは画像と実物で印象が異なるため、可能であれば事前の実物確認を推奨します。
納期はどのくらいですか?
B9は受注生産が中心のため、仕様により数週間〜数か月を要する場合があります。成形合板版(アイソコン・プラス)は特注品で、製作に6〜8週間程度が目安です。在庫状況により前後するため、購入前に販売店へ確認してください。
鋼管製(B9)と成形合板版、どちらを選ぶべきですか?
工業的でシャープな印象や、屋外でも使えるガラス天板の選択肢を求める方には鋼管製のB9が向いています。木の温かみや有機的なフォルムを重視する方、英国クラフトの背景に惹かれる方には成形合板版が適しています。空間のテイストと求める質感で選ぶとよいでしょう。
どのような使い方ができますか?
ソファやラウンジチェア脇のサイドテーブル、来客時の補助テーブル、観葉植物や花を飾る台など多用途に使えます。使わないときは入れ子状に重ねてコンパクトに収納でき、限られた空間でも扱いやすいのが特長です。
メンテナンスは難しいですか?
B9のクロムメッキフレームは柔らかい布での乾拭きが基本で、指紋が気になる場合は固く絞った布で拭き取ります。木製天板は中性洗剤の薄め液で拭き、乾拭きで仕上げます。成形合板版も同様に乾拭きが基本です。いずれも研磨剤や強い溶剤は避けてください。
リプロダクト(複製品)でも十分ではないですか?
複製品は価格面の利点がありますが、鋼管の曲げ精度やクロムの質、天板素材、入れ子の合わせ精度などに差が出やすく、長期の耐久性や入れ子時の収まりに影響します。正規品はブランドによる品質保証・補修対応・資産価値の面で優位があります。予算と求める品質のバランスで判断するとよいでしょう。
他に検討すべき名作テーブルはありますか?
鋼管家具つながりではミース・ファン・デル・ローエのバルセロナテーブル、北欧モダンではアルテックのサイドテーブルやイサム・ノグチのコーヒーテーブルなどが挙げられます。詳しくはテーブルカテゴリページをご覧ください。