ジン・テーブルは、フランスのデザイナー、オリヴィエ・ムルグがエアボーン・インターナショナル社のために手がけた「ジン」シリーズの一点である。シリーズは1964年発表のシェーズロングに始まり、翌1965年にラウンジチェア、2人掛けソファ、そしてスツール兼ローテーブルが加わった。

「ジン」という名称は、イスラムの伝承に登場する精霊に由来する。人にも動物にも姿を変えるとされるその性質が、シリーズ全体の変幻的な造形に重ねられている。

特徴・コンセプト

ジン・テーブルの特徴は、低く流れるようなシルエットにある。チューブラースチールのフレームにゴムのウェビングを張り、ポリエーテルフォームを被せ、その上をナイロンジャージーで包む。この構成が、骨格を感じさせない一体的な面をつくり出している。脚部にはフラットバースチールの「スキー」と呼ばれるランナーが用いられ、床との接点を細く抑えることで、本体が床から浮いて見える。

1960年代半ば、同様の曲面を求める試みの多くはプラスチック成形へと向かった。ムルグはスチールフレームという制約のなかで曲線を追求し、当時としては異質な解を示している。

素材と構造

内部のチューブラースチールフレームは軽量で、フォームは当時最新のポリエーテル製が用いられた。外装のストレッチジャージーはジッパーで着脱でき、季節や好みに応じてカバーを交換できる。カラーはレッド、ブルー、グリーン、イエロー、オレンジなど鮮やかな色調が揃えられた。

多機能性

ジン・テーブルはオットマン、フットスツール、ローテーブルのいずれとしても使える。シリーズの他のアイテムと組み合わせれば、床に近い高さで統一された居住空間を構成できる。

エピソード

ジンシリーズが広く知られるようになったのは、スタンリー・キューブリック監督『2001年宇宙の旅』(1968年)による。宇宙ステーション5のヒルトン・ロビーに置かれたジンチェアとソファは、映画が描く未来像の視覚的な核となり、以後シリーズは「スペースエイジデザイン」の代名詞として扱われるようになった。ジンのシェーズロングは、前年公開の『カジノ・ロワイヤル』(1967年)にも登場している。

キューブリックは撮影終了後、セットや小道具が他の作品に流用されることを避けるため、その大半を廃棄させたと伝えられる。ただしジンの家具はすべてが失われたわけではなく、プロデューサーが持ち帰ったソファや、原型の生地をとどめたチェアが後年になって確認されている。なお撮影時のチェアの色については、赤かマゼンタかで見解が分かれている。

発表当初、エアボーンはジンシリーズの販売に苦戦した。前衛的すぎるという声や、猥褻であるという批判が小売業者や顧客から寄せられたためである。1968年、同社は「Tout est là」と題した広告を展開し、物議を醸しながらも国際的な注目を集めた。ムルグは1965年、26歳のときに「物は短命であるべきだ」と語っている。ジャージーカバーを交換可能とした設計は、その考えを具体的な形に落とし込んだものといえる。

2020年配信のNetflixドラマ『ホワイト・ラインズ』でも、ジンの家具が使われている。

評価・所蔵

ジンシリーズは、1960年代のスペースエイジ・デザインを代表する仕事として評価されている。ムルグは1968年、ニューヨークの Institute of Interior Designers よりジン・ラウンジチェアに対して国際デザイン賞(AID International Design Award)を授与された。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)は、1964〜65年製のグリーンのジン・シェーズロングを収蔵している。1966年にジョージ・タニエ社より寄贈されたものである。パリのポンピドゥー・センター国立近代美術館は、シェーズロング、チェア、ファブリック、そしてスツール(Pouf Djinn)を含む複数のジン作品をコレクションに収めている。

エアボーンは1974年のオイルショック後に経営が傾き、ジンシリーズは1976年をもって生産を終えた。以後オリジナルの再生産は行われておらず、現存品はヴィンテージ市場で取引されている。ウール混のストレッチジャージーは虫害や経年劣化を受けやすく、良好な状態のまま残る個体は限られる。

基本情報

名称 ジン・テーブル / Djinn Table
デザイナー オリヴィエ・ムルグ / Olivier Mourgue
発表年 1965年(シリーズ初出はシェーズロングの1964年)
生産期間 1965年〜1976年
メーカー エアボーン・インターナショナル / Airborne International(フランス)
素材 チューブラースチールフレーム、ゴムウェビング、ポリエーテルフォーム、ストレッチジャージー、フラットバースチール脚
カラー レッド、ブルー、グリーン、イエロー、オレンジ 他
デザイン様式 スペースエイジ、ミッドセンチュリーモダン
受賞 AID International Design Award(1968年、ジン・ラウンジチェアに対して)
所蔵 ポンピドゥー・センター国立近代美術館(Pouf Djinn 他)/ニューヨーク近代美術館(シェーズロング)
映像作品での使用 『2001年宇宙の旅』(1968年)、『カジノ・ロワイヤル』(1967年)、『ホワイト・ラインズ』(2020年)
現在の生産状況 生産終了(1976年以降、正規の再生産なし)