アラベスコ・テーブルは、イタリアの建築家カルロ・モリーノが1949年に設計したコーヒーテーブルである。トリノの芸術書出版者であり映画製作者でもあったヴラディ・オレンゴ侯爵の邸宅「カーサ・オレンゴ」のリビングルームのために制作されたこの作品は、曲木合板とガラスという素材を用い、シュルレアリスムに着想を得た有機的な造形を実現した。モリーノの家具デザインの中でも最も象徴的な作品として知られ、20世紀イタリアデザインを代表する傑作のひとつに数えられている。

本作はモリーノが家具を建築的要素としてではなく、それ自体が独立した芸術作品として捉え始めた転換点を示す重要な作品である。1950年、イタリア政府が主催した巡回展「Italy at Work: Her Renaissance in Design Today」に出品され、戦後イタリアデザインの革新性を世界に示した。現在、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館やブルックリン美術館などの主要美術館に収蔵され、永続的な評価を得ている。

特徴・コンセプト

アラベスコ・テーブルの最も顕著な特徴は、一枚の合板を連続的に曲げて形成された彫刻的な脚部である。この有機的なフレームには五つの不規則な曲線的開口部が穿たれており、モリーノ自身の言葉を借りれば「曲げた木に穴を開けることで質量を取り除き、視覚的に軽やかにする」という設計思想に基づいている。充と空、曲線と逆曲線が織りなすこの構造は、構造的な強度を確保しながらも、まるで宙に浮いているかのような軽やかさを実現している。

シュルレアリスムからの影響

テーブルトップの不規則な輪郭は、アルゼンチン生まれのシュルレアリスト画家レオノール・フィニが描いた横たわる裸婦像のドローイングに着想を得ている。モリーノはこの素描から女性の背中のシルエットをトレースし、ガラス天板の形状として採用した。また、フレームの流麗な曲線はジャン・アルプの生物形態的造形(バイオモルフィック・フォルム)やサルバドール・ダリのシュルレアリスト的モチーフの影響を受けているとされる。

素材と構造

本作は曲木合板のフレーム、強化ガラスの天板および下棚、そして真鍮の金具という三つの主要素材で構成されている。合板フレームはオーク材の突板で仕上げられ、ガラス天板は金属の留め具によってフレームに固定される。上段の天板と下段の棚という二層構造は、マガジンラックとしての機能も兼ね備えており、美的造形と実用性を見事に両立させている。強化ガラスは視覚的な透明性を確保しつつ、構造的な補強材としても機能するという革新的な設計思想が見られる。

モリーノのデザイン哲学

モリーノは「自然は連続性によって進む。身体や樹木を構成する異なる器官を結合し連鎖させる」と記している。アラベスコ・テーブルはまさにこの哲学の具現化であり、樹木の枝、動物の角、そして女性の身体といった自然界の有機的形態を家具デザインに昇華させた作品である。彼は「すべては幻想的である限り許される」という信条を掲げ、当時主流であった合理主義的デザインとは一線を画す独自の道を歩んだ。

エピソード

アラベスコ・テーブルの誕生には、モリーノとトリノの熟練した家具工房アペッリ・エ・ヴァレジオとの緊密な協働があった。モリーノのスケッチは完成された技術図面ではなく、職人たちとの対話を通じて発展させていく「出発点」であった。工房の記録によれば、「モリーノのスケッチから実物大の図面が作成され、その後モデルが製作された」という過程を経て、この複雑な曲線が実現された。

友人たちからは「カルロ・イル・ビザッロ(風変わりなカルロ)」と呼ばれたモリーノは、建築家としての本業の傍ら、写真撮影、レーシングカーの設計、ファッションデザイン、エッセイ執筆、さらには曲技飛行まで手がける多才な人物であった。彼のキャリアを通じて、コンクリートのハニカム構造、鋼管継手、成形合板など数多くの特許を取得している。

1950年に開催された「Italy at Work: Her Renaissance in Design Today」展では、ジオ・ポンティの娘リサ・ポンティとルイジ・リチトラのためにデザインされたバージョンが出品された。この巡回展はブルックリン美術館を皮切りに全米12の美術館を巡回し、戦後イタリアデザインの国際的評価を確立する契機となった。

モリーノは大量生産を志向せず、すべての家具を特定の空間と依頼主のために一点物として制作した。モリーノの伝記作家フルヴィオ・フェラーリは「モリーノの家具はいかなるインテリアにも配置できる煉瓦ではなく、それが創られた唯一の部屋で完璧に機能するジグソーパズルのピースである」と評している。

評価

アラベスコ・テーブルは、20世紀で最も称賛されるデザインのひとつとして国際的に認知されている。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は本作を「機能的でありながら彫刻作品のような存在感を持つ」と評し、シュルレアリスト芸術家の作品、特にジャン・アルプの流麗な線と生物形態的造形からの影響を指摘している。

ブルックリン美術館のコレクション解説では、本作がイタリアン・モダニズムの多様性と達成を象徴する作品であり、「産業デザインに大きく影響を受けながらも、機能的な量産品とは異なる芸術的価値を追求した」点が強調されている。モリーノの家具デザインは、同時代のミラノで生産されていた作品よりも遥かに表現力豊かで彫刻的であったと評価されている。

アメリカの雑誌『House and Gardens』1950年12月号はモリーノのデザインについて「イタリアデザインの主要な側面を見事に要約している。いかなる流派にも属さず、いかなる主義にも与しない、鮮烈で個人的な、あらかじめ決められた形式から自由な作品である」と賛辞を贈った。

オリジナル作品の希少性(世界に数点のみ現存)と卓越した職人技、そしてモリーノ特有の官能的な「戦慄」を兼ね備えた本作は、20世紀デザインコレクションの最高峰に位置付けられている。2005年にはカーサ・オレンゴのためにデザインされた別の机がクリスティーズで約380万ドルで落札され、近代家具のオークション史上最高額を記録した。

再生産とザノッタ・コレクション

イタリアの家具メーカー、ザノッタは1981年よりモリーノのアーカイブ研究に着手し、その作品の復刻に取り組んできた。2020年には「モリーノ・コレクションCM 2020」として、アラベスコを含む8点の作品がトリビュートとして発表された。ザノッタはこれを「復刻」ではなく「オマージュ」と位置付けており、モリーノの唯一無二の個性を尊重する姿勢を示している。

現行のザノッタ版アラベスコCMは、ナチュラルオークまたはブラックステインオークの曲木合板フレームにワックス仕上げを施し、強化ガラスの天板を組み合わせている。オリジナルの設計思想を忠実に継承しながら、現代の製造技術と品質基準に適合させた製品として、世界中のデザイン愛好家に提供されている。なお、カルロ・モリーノの作品、図面、文書に関するすべての知的財産権は、イタリア民法第586条に基づきイタリア国家に帰属しており、ザノッタはアジェンツィア・デル・デマニオからの独占ライセンスの下で製造を行っている。

基本情報

名称(日本語) アラベスコ・テーブル(アラベスコCM)
名称(英語) Arabesco Table / Arabesco CM
デザイナー カルロ・モリーノ(Carlo Mollino, 1905-1973)
デザイン年 1949年
製造(オリジナル) アペッリ・エ・ヴァレジオ(Apelli & Varesio)、トリノ
製造(現行品) ザノッタ(Zanotta)、イタリア
素材 曲木合板(オーク突板)、強化ガラス、真鍮金具
寸法 幅129cm × 奥行53cm × 高さ45cm
ガラス厚 天板10mm、下棚8mm(強化板ガラス)
仕上げ ナチュラルオーク(エクストラクリアガラス)、ブラックステインオーク(スモーキーグレーガラス)
収蔵美術館 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(ロンドン)、ブルックリン美術館(ニューヨーク)ほか