No.14チェアは、1859年にミヒャエル・トーネットが手がけた曲げ木の椅子である。背もたれと後脚を一本の曲線でつなぐ構成は、少ない部品で軽さと強度を両立させることを意図したもので、量産家具の出発点に位置づけられる椅子として知られる。「ビストロチェア」「カフェチェア」「ウィーンチェア」などの通称でも親しまれている。
このページでは、No.14チェアの構造と製造技術、デザイン史における位置づけ、現行モデルや美術館での収蔵状況など、この椅子を知るうえで手がかりとなる情報を整理する。
特徴・コンセプト
No.14チェアの核心は、蒸気で曲げたブナ材による曲線と、部品数を抑えた合理的な構成にある。背もたれから後脚へと続く曲線は装飾であると同時に荷重を分散させる構造でもあり、簡素な見た目のなかに機能が織り込まれている。
曲げ木の製造技術
トーネットは、ブナ材を蒸気で加熱して繊維を柔らかくし、金属の型に沿わせて曲げる技術を確立した。曲げた木材を乾燥させて形状を固定することで、複雑な接合を用いずに曲線と強度を得ることができる。無垢材を一体で成形するこの手法は、それ以前の積層・接着による方法から大きく前進したものであった。
少ない部品とフラットパック
No.14チェアは、6つの木製部品と10本のネジ、2つのナットという簡素な構成で組み立てられる。分解した状態で36脚を1立方メートルの箱に収めて輸送し、現地で組み立てる流通方式は、世界各地への販売を可能にした。この仕組みに支えられ、1859年から1930年までに5000万脚以上が販売されたとされる。部品を絞り、現地組み立てを前提とする考え方は、後のフラットパック家具に先行するものとして語られている。
エピソード
No.14チェアには、その堅牢さを物語る逸話が伝わっている。なかでも、1889年のパリ万国博覧会でエッフェル塔から落下させても壊れなかったという話はよく知られているが、これは確証のある事実というより、椅子の頑丈さを伝える言い伝えとして扱われている。
初期の座面には籐が用いられた。これはこぼれた飲み物が抜けやすいという実用面の利点もあり、19世紀のウィーンのカフェ文化のなかで広く使われた椅子であった。
評価とデザイン史における位置づけ
No.14チェアは、簡素で軽く、丈夫な実用家具として早くから高く評価されてきた。装飾を抑え、構造そのものを形にする姿勢は、後のモダニズムの考え方に通じるものとして繰り返し論じられている。一般に「椅子のなかの椅子」と称されることもあり、整理が行き届いたデザインとして位置づけられている。
後年のデザインへの影響も大きい。スチールパイプを用いた片持ち式の椅子や、アルヴァ・アアルトの曲げ木家具、イームズの成形合板による椅子など、素材を曲げて構造とするその後の試みは、いずれもトーネットの技術を一つの起点としている。トーネット自身も1920年代以降はスチールパイプ家具の製造へと展開していった。
また、産業化によって手頃な価格で広く流通したことから、優れた家具を一部の階層の専有物にとどめない先駆けとしても語られている。
コレクション
No.14チェアは、デザイン史上の重要な作例として複数の美術館に収蔵されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)が本作を収蔵しているほか、メトロポリタン美術館、フィラデルフィア美術館、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館などにも収蔵例がある。
基本情報
| デザイナー | ミヒャエル・トーネット(Michael Thonet) |
|---|---|
| 発表年 | 1859年 |
| ブランド | トーネット(Thonet) |
| 原産国 | オーストリア(現行モデルはドイツ・フランケンベルクで製造) |
| 素材 | 蒸気曲げブナ材、座面は籐など |
| 構成 | 6つの木製部品、10本のネジ、2つのナット |
| サイズ | 幅43cm × 奥行52cm × 高さ84cm(現行モデル214) |
| 座面高 | 約46cm(現行モデル214) |
| 重量 | 約3.3kg(現行モデル214) |
| 別名 | ビストロチェア、カフェチェア、ウィーンチェア |
| 現行モデル | No.214(トーネット社/Thonet GmbH) |