概要
ミヒャエル・トーネット(1796-1871)は、ドイツ出身でオーストリアで活動した家具製作者である。1830年代から木を曲げる技術の開発に取り組み、1856年に無垢材を蒸気で曲げる方法の特許を得た。1859年の椅子No.14は6つの部材とねじだけで構成され、分解して輸送できる。家具の量産と国際的な流通を成立させた例にあたる。
バイオグラフィー
1796年7月2日、ドイツのボッパルトに生まれた。家具職人の訓練を受け、1819年に自身の工房を開いている。
1830年代から、木を曲げる技術の開発に取り組んだ。当初は薄い板を膠で接着して曲げる方法をとっている。
1842年、オーストリアの宰相メッテルニヒの招きでウィーンへ移った。同年、曲げ木の最初の特許を得ている。
1849年にウィーンで工房を設立し、1853年に息子たちと会社組織にした。1856年に無垢材を蒸気で曲げる方法の特許を得て、モラヴィアに工場を建設している。1871年3月3日に没した。
デザインの思想と方法
トーネットが解いたのは、木を曲げて家具の部材にするという技術上の問題である。曲げられれば、削り出しや接合を減らせる。部材が減れば、製造も輸送も安くなる。技術の開発が、そのまま製品の構成を決めている。
無垢材を蒸気で曲げる
ブナの角材を蒸気で加熱すると、繊維が柔らかくなって曲げられる。型に固定したまま乾燥させれば形が定着する。積層した板を接着する方法より工程が短く、強度も高い。
部材の数を減らす
椅子No.14は、曲げた背と後脚を一体の部材とし、座枠、前脚2本、補強の輪で構成される。部材は6つ、接合はねじのみになる。加工と組立の工程が単純になる。
分解して輸送する
ねじで組むため、分解した状態で出荷できる。1立方メートルの箱に椅子36脚分の部材が収まる。船と鉄道での輸送費が下がり、国外への販売が可能になる。
工程を分業する
モラヴィアの工場では、曲げ、乾燥、加工、組立を分業した。熟練の職人でなくても各工程を担える。量産の体制はこの分業による。
トーネットの歴史や他の製品について詳しくはトーネット ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
ボッパルト期の椅子(1836-40年)
薄い板を膠で接着して曲げた初期の椅子である。無垢材を曲げる方法に至る前の段階にあたる。V&Aが収蔵している(収蔵番号W.5-1976)。
椅子No.4(1849年頃)
ウィーンのカフェ・ダウムのために設計した椅子である。曲げ木による初期の量産品にあたる。シカゴ美術館が収蔵している(収蔵番号1999.555)。
椅子No.14(1859年)
6つの部材とねじだけで構成される椅子である。曲げた背と後脚が一体で、分解して輸送できる。1立方メートルの箱に36脚分が収まる。ニューヨーク近代美術館が2点を収蔵している。→No.14チェア(ウィーンチェア)
折りたたみ椅子(1865-66年)
曲げ木による折りたたみの椅子である。屋外や船上での使用を想定する。ニューヨーク近代美術館が2点を収蔵している。
モラヴィアの工場(1856年〜)
ブナの森に近い土地に建設した工場である。曲げ、乾燥、加工、組立を分業し、量産の体制を確立した。
評価と影響
トーネットは一般に、家具の量産と国際的な流通を成立させた人物と評価されている。木を曲げる技術の開発が、その前提にある。
椅子No.14は1859年の発表から現在まで生産が続いている。部材を6つに絞り、分解して輸送するという構成が、この持続を支えている。
モラヴィアの工場での分業は、家具の製造を工業化した早い例にあたる。以後、複数の工場が建設された。
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、AIC=シカゴ美術館)。計11件が確認できた。
- V&A 椅子(1836-40年) 収蔵番号 W.5-1976
- MoMA サイドチェア(1840-42年頃) 収蔵番号 537.1977
- AIC アームチェア(1848-50年設計) 収蔵番号 1970.28
- AIC サイドチェア(1851年頃設計) 収蔵番号 1999.555
- MoMA 椅子No.14(1855-58年) 収蔵番号 460.2008
- V&A 椅子(1859年) 収蔵番号 MISC.76:1, 2-1980
- V&A 椅子(1865年頃) 収蔵番号 W.41-1970
- MoMA フットレスト付き折りたたみラウンジチェア(1865年頃) 収蔵番号 666.1980
- MoMA 折りたたみデッキチェア(1866年) 収蔵番号 461.1987
- MoMA 椅子No.14(1881年) 収蔵番号 461.2008
- V&A 椅子(1888年頃) 収蔵番号 MISC.102-1976
Met では該当する収蔵は確認できなかった。
作品一覧
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1836-40年 | 椅子 | ボッパルト期の椅子 | Thonet |
| 1842年 | 技術 | 曲げ木の特許(積層材) | オーストリア |
| 1849年頃 | 椅子 | 椅子No.4 | Thonet |
| 1856年 | 技術 | 無垢材の曲げ木の特許 | オーストリア |
| 1856年 | 工場 | モラヴィアの工場建設 | Thonet |
| 1859年 | 椅子 | No.14チェア(ウィーンチェア) | Thonet |
| 1865-66年 | 椅子 | 折りたたみ椅子 | Thonet |
| 1850-70年代 | 家具 | 曲げ木による椅子・卓・揺り椅子 | Thonet |
プロフィール
| 生没年 | 1796年7月2日〜1871年3月3日 |
|---|---|
| 出身地 | ドイツ・ボッパルト |
| 国籍 | ドイツ(のちオーストリア) |
| 活動拠点 | ウィーン、モラヴィア |
| 分野 | 家具、曲げ木 |
| 主な協働ブランド | Thonet |
Reference
- Thonet
- https://www.thonet.de/en/
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325
- Victoria and Albert Museum Collections
- https://collections.vam.ac.uk/
- The Art Institute of Chicago Collection
- https://www.artic.edu/collection