スーペルレッジェーラ 699:軽さと堅牢性
スーペルレッジェーラ699は、イタリアの建築家ジオ・ポンティが1957年にカッシーナのためにデザインした椅子である。「スーペルレッジェーラ」はイタリア語で「超軽量」を意味し、その名の通りわずか1.7キログラムという軽さでありながら、高い堅牢性を併せ持つ。カッシーナによって1957年以来継続的に生産され、イタリアンデザインを象徴する椅子のひとつとして広く知られている。
デザインの背景
スーペルレッジェーラは、ポンティが追求した「重いものから軽いものへ」という発想の到達点である。ポンティ自身は、不要な素材と重量を取り除き、形態と構造を極限まで一致させながら、実用性と堅牢性を同時に尊重してこの椅子をつくったと述べている。
このデザインは、リグーリア州キアヴァーリの町で伝統的に作られてきた軽量な木製椅子(キアヴァリーナ)に着想を得ている。ポンティはこの伝統的な型をカッシーナの職人たちとの協働を通じて洗練させ、1951年に発表した「レッジェーラ」をさらに削ぎ落とすかたちで、1955年から1957年にかけてスーペルレッジェーラを完成させた。
構造と技術
トライアングル断面の脚部
スーペルレッジェーラの特徴は、断面わずか18ミリメートルの三角形の脚部にある。従来の円形断面から三角形断面へと変えることで、構造強度を保ちながら重量を大きく削減した。軽量で柔軟性のあるアッシュ材をフレームに使い、座面まわりには目が詰まって強度の高いブナ材を用いることで、細身でありながら安定した構造を実現している。
職人技と工業生産
カッシーナの職人たちは、座面フレームの無垢材から直接削り出すローレット加工のほぞ継ぎを考案した。この接合方法により、極めて細身のフォルムでありながら堅牢な椅子が実現した。木材部品は機械加工された後に手作業で仕上げられ、接着剤は刷毛で塗布して余分を拭き取り、座面は手作業で編まれる。職人の技術と工業生産が一体となった製作工程が、この椅子を支えている。
エピソード
スーペルレッジェーラには、その堅牢性を示すエピソードが残されている。デザインの最終確認として、ポンティはこの椅子を建物の4階から通りに投げ落とす耐久テストを行ったと伝えられる。椅子は地面で跳ね返り、破損しなかったという。
また、その軽さを伝えるため、カッシーナは子供が指一本でスーペルレッジェーラを持ち上げる姿を用いた広告を展開した。ポンティ自身も「薄暗がりの中では、椅子は二本の脚だけで支えられているように見え、さらに軽く感じられるだろう」と語り、視覚的な軽さまで設計に織り込んでいた。
評価
スーペルレッジェーラは、発表以来デザイン史における重要な椅子として評価されてきた。ニューヨーク近代美術館(MoMA)、フィラデルフィア美術館、トリエンナーレ・ミラノのイタリアデザイン美術館などのコレクションに収蔵されている。
2024年、スーペルレッジェーラは第28回コンパッソ・ドーロにおいて、長く市場で愛され続けるロングセラー製品に贈られるキャリア賞(プロダクト部門)を受賞した。この賞は1954年にポンティ自身の発案で創設されたもので、同年にはポンティのD.154.2アームチェア(Molteni&C)とブルー・ポンティのタイル(Ceramica Francesco De Maio)も同じ賞を受けている。審査では、椅子のデザインがデザイナーにとって難度の高い課題であること、そしてポンティがスーペルレッジェーラを通じて伝統と革新を結びつけた点が評価された。
ポンティはスーペルレッジェーラを「形容詞を持たない椅子、椅子そのもの」と表現した。装飾を排して本質のみを追求したこの椅子は、イタリアンデザインを象徴する一脚として、今日もカッシーナによって生産され続けている。
基本情報
| デザイナー | ジオ・ポンティ(Gio Ponti) |
|---|---|
| ブランド | カッシーナ(Cassina) |
| 発表年 | 1957年 |
| 素材 | フレーム:アッシュ材(三角形断面の脚部)、座面まわり:ブナ材、座面:インド籐または布張り |
| 重量 | 1.7kg |
| 寸法 | W41cm × D45cm × H83cm(座面高46cm) |
| 主な受賞 | コンパッソ・ドーロ キャリア賞(プロダクト部門、2024年) |
| 所蔵 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)、フィラデルフィア美術館、トリエンナーレ・ミラノ(イタリアデザイン美術館)ほか |