LC7 スイベルチェア:モダンデザインの革新と機能美の結晶
LC7 スイベルチェアは、1927年にシャルロット・ペリアンによって創出された、20世紀家具デザイン史における画期的な作品である。自身のパリ・サンシュルピス広場のアトリエの食卓用に構想されたこの回転椅子は、産業素材と人間工学の融合により、現代に至るまで色褪せることのない普遍的価値を体現している。チューブラースチールと円形クッションが織りなす簡潔かつ大胆な構成は、機能主義の理念を美的昇華へと導いた傑作として、建築とインテリアデザインの境界を超越する存在感を放っている。
デザインの革新性と構造的特徴
自転車フレームからの着想と工業美学
LC7 スイベルチェアの構造的革新性は、シャルロット・ペリアンが自動車産業や自転車のフレーム構造から得たインスピレーションに根ざしている。チューブラースチールによる骨格は、当時としては前衛的な素材選択であり、伝統的な木製家具の概念を根底から覆すものであった。円形のクッション部分を中心点として、4本ないし5本の金属パイプが放射状に展開する構成は、視覚的な明快さと構造的な合理性を同時に達成している。この設計において、水平要素としてのクッションと垂直要素としてのパイプフレームが調和を成し、モダニズムが追求した純粋な幾何学的美を体現している。
回転機構と人間工学的配慮
スイベル機構の採用は、LC7の最も特徴的な機能である。座面中央に配置された回転軸により、使用者は椅子全体を回転させることなく、自然な動作で向きを変えることができる。湾曲したバレル形状のバックレストとアームレストは一体化された構造を成し、身体を包み込むように支持する。この形態は視覚的な優雅さを保ちながら、長時間の着座においても快適性を提供するよう緻密に計算されている。ポリウレタンフォームとポリエステルパッディングによる座面と背もたれのクッション性は、工業的な外観に対して柔らかな対比を生み出し、モダンデザインにおいて時として欠落しがちな人間的温かみを付与している。
素材と仕上げの洗練
LC7の製造においては、素材選択と仕上げの品質が作品の格調を決定づけている。フレームはクロームメッキ仕上げまたはマットブラックの塗装仕上げから選択可能であり、いずれもチューブラースチールの工業的な美しさを際立たせる。張地にはレザーまたはファブリックが用いられ、その選択により空間に応じた表情の変化を可能にしている。現代の生産版においては、2016年に構造的な改良が施され、Catas認証を取得するなど、耐久性と安全性においても最高水準を満たしている。
歴史的展開と芸術的評価
サロンでの発表と共同署名
LC7 スイベルチェアの公的デビューは、1928年のサロン・デ・アーティスト・デコラトゥールにおいてであった。シャルロット・ペリアンの個人的な制作として始まったこの椅子は、翌1929年のサロン・ドートンヌにおいて、ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレとの共同署名により発表されることとなった。この展覧会は、近代建築の三巨匠による家具コレクションとして大きな注目を集め、LC7はLCシリーズの一翼を担う作品として位置づけられることとなった。しかしながら、その創造的起源はペリアン単独の構想であり、彼女の独創的なデザイン思想を純粋に体現した作品であることは特筆すべき事実である。
トーネット社による初期生産
サロン・ドートンヌでの成功を受け、1930年にはドイツの名門家具ブランドであるトーネット社がLC7の生産を開始した。曲木家具の先駆者として知られるトーネット社が、金属管家具の製造に取り組んだことは、この時代におけるデザイン思潮の大きな転換を象徴している。工業的製造手法と手工芸的品質管理の融合により、LC7は限定的ながらも市場に供給され、モダンデザインを志向する前衛的な層に受容された。
カッシーナによる復刻と現代的継承
1964年、イタリアを代表するファニチャーブランドであるカッシーナが、ル・コルビュジエの承認のもと、LC7を含む一連の家具の製造権を獲得した。これは、歴史的名作家具を現代の技術と品質管理のもとで復刻する「イ・マエストリ・コレクション」の開始を意味した。カッシーナによる製造は、オリジナルデザインの精神性を損なうことなく、現代的な快適性と耐久性を付加することに成功している。1978年の再版以降、LC7は継続的に生産され、世界中の洗練された空間において選択され続けている。2022年9月、カッシーナは本作の名称を「7 Fauteuil tournant(フォートゥイユ・トゥルナン)」へと変更し、LCコレクション50周年を機にオリジナルのフランス語名称への回帰を果たした。
美術館コレクションとしての評価
LC7 スイベルチェアは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵されており、デザイン史における重要な位置を確立している。MoMAにおいては「Revolving Armchair」の名称で1928年作として登録され、20世紀デザインを代表する作品の一つとして展示されてきた。この美術館による評価は、LC7が単なる実用的家具を超え、芸術的・文化的価値を有する作品であることを証明するものである。クロームメッキのチューブラースチールとレザーによる構成は、産業時代の美学と人間中心主義の調和を体現するものとして、研究者や批評家から高く評価されている。
デザイン思想とコンセプト
科学的管理法の応用と合理主義
シャルロット・ペリアンは、LC7のデザインにおいて、フレデリック・テイラーが提唱した科学的管理法の原理を家具設計に応用した。この方法論は、工場における作業の効率化と標準化を目的としたものであったが、ペリアンはこれを人間の日常的な動作と家具の関係性へと翻案した。椅子の回転機構は、食卓において多方向への対応を可能にし、使用者の動線を最小化することで、生活空間における効率性を高めている。ペリアンが当時のジャーナリストに語った「家具の美しさは要素の合理的な構成に起因しなければならない」という言葉は、LC7の設計哲学を端的に表現している。
モダニズムの人間化
LC7の特筆すべき点は、モダニズムの冷徹な合理性に人間的な温かみを注入したことにある。チューブラースチールの工業的な硬質性は、丸みを帯びたクッションの柔らかな形態によって中和され、視覚的・触覚的な心地よさを生み出している。この二重性は、ペリアンがル・コルビュジエの建築的合理主義に加えた独自の貢献として評価されている。批評家たちは、ペリアンの介入によってLCシリーズが獲得した「感覚的な豊かさ」を指摘しており、LC7はその最良の例証とされている。機能と美、工業と手工芸、合理性と感性の統合は、ペリアンの人間中心的デザイン哲学の核心を成すものである。
時代を超えた普遍性
1928年のデザインでありながら、LC7は現代の多様な空間においても違和感なく調和する普遍性を有している。これは、流行に左右される装飾的要素を排し、本質的な機能と形態の純粋な関係性を追求した結果である。オフィス、ダイニング、ラウンジなど、用途の異なる空間において適応可能な汎用性は、真に優れたデザインの証左である。技術革新と素材の多様化が進んだ現代においても、LC7の設計原理は古びることなく、むしろその簡潔さと明快さが際立って感じられる。これこそが、モダンデザインの古典として継承され続ける所以である。
シャルロット・ペリアンの役割と貢献
LC7 スイベルチェアの創造において、シャルロット・ペリアンの個人的貢献は絶対的である。ル・コルビュジエのアトリエに参加する以前、1927年に自身のアトリエのために考案したこの椅子は、彼女の独立した創造性と先見性を示す作品として位置づけられる。ペリアンは当時24歳の若さでありながら、伝統的な家具デザインの規範を打破し、新しい時代の生活様式に応答する革新的な提案を行った。彼女が金属管を用いた家具デザインに示した先駆性は、後のモダニズム運動全体に影響を与えることとなった。LC7における彼女の功績は、単なる協力者としてではなく、主導的デザイナーとして正当に評価されるべきものである。世界初のインテリアデザイナーとも称されるペリアンの長いキャリアにおいて、LC7は彼女の才能が最初期に開花した証として、特別な意義を持つ作品である。
現代における意義と影響
LC7 スイベルチェアは、単なる歴史的遺産にとどまらず、現代のデザイン実践においても重要な参照点として機能している。その影響は、回転椅子というタイポロジーの発展のみならず、工業素材の美的可能性の探求、人間工学と形態美の統合、そして持続可能なデザインという観点からも再評価されている。カッシーナによる継続的な生産は、良質なデザインの持続可能性を体現しており、流行に左右されない本質的価値の重要性を示唆している。建築家、デザイナー、そして美意識の高い使用者にとって、LC7は時代を超えて選択され続ける普遍的デザインの範例であり、モダニズムが目指した理想の具現化として、今なお新鮮な示唆を与え続けている。
基本情報
| デザイナー | シャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand) ル・コルビュジエ(Le Corbusier)、ピエール・ジャンヌレ(Pierre Jeanneret)との共同署名 |
|---|---|
| デザイン年 | 1927年(1929年サロン・ドートンヌ出展) |
| 製造元 | カッシーナ(Cassina) 初期製造:トーネット社(Thonet Frères、1930年) |
| コレクション | イ・マエストリ・コレクション(I MAESTRI COLLECTION) |
| 正式名称 | 7 Fauteuil tournant(フォートゥイユ・トゥルナン) 旧称:LC7 スイベルチェア |
| 分類 | 回転式アームチェア(スイベルチェア) |
| 寸法 | 幅 62cm × 奥行 56.5cm × 高さ 73cm 座面高:50cm |
| 構造 | チューブラースチール製フレーム(4本脚または5本脚構成) 回転機構付き |
| 仕上げ | フレーム:クロームメッキ仕上げまたはマットブラック塗装 張地:レザーまたはファブリック |
| クッション | ポリウレタンフォーム+ポリエステルパッディング |
| 認証 | Catas認証取得(2016年構造改良版) |
| 所蔵 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)パーマネントコレクション |
| 初出展 | 1928年:サロン・デ・アーティスト・デコラトゥール 1929年:サロン・ドートンヌ(パリ) |
| 復刻開始 | 1964年:カッシーナによる製造権取得 1978年:再版開始 |