バレルチェアは、20世紀を代表する建築家フランク・ロイド・ライトが1904年に創造した象徴的なアームチェアである。ニューヨーク州バッファローのダーウィン・D・マーティン邸のために当初デザインされたこの椅子は、ライトのそれまでの直線的な家具デザインから大きく方向転換し、有機的な曲線美を取り入れた画期的な作品として位置づけられている。樽を思わせる円筒形のフォルムは、建築と家具の境界を超えた総合芸術を追求したライトの理念を体現しており、プレイリースタイル住宅における家具デザインの新たな地平を切り開いた。

1937年、ライトは友人であるハーバート・F・ジョンソンの邸宅「ウィングスプレッド」のために、このデザインを改良し大型化した。ウィスコンシン州ラシーンに建つこの壮大な邸宅の広大な空間と高い天井に調和するよう再設計されたバレルチェアは、より洗練された構造と優雅なプロポーションを獲得した。ライトは自邸タリアセンでもこの椅子を愛用したことから、「タリアセン バレルチェア」の名でも知られるようになった。

特徴とコンセプト

バレルチェアの最も顕著な特徴は、その円筒形の構造に見られる幾何学的純粋性と有機的な曲線の調和である。広がりを持つフレアバックレストは、座る人を優しく包み込むように設計され、角材のスピンドルが背もたれを支える構造は、視覚的な軽やかさと構造的強度を両立させている。円形の両面クッションシートは、どの角度からも座ることを可能にし、空間における家具の配置に新たな自由をもたらした。

ライトは自然の形態と幾何学を家具デザインに融合させることで、人間が本能的に自然の一部であることを感じられるデザインを追求した。バレルチェアは、この理念の具現化として、単なる座具を超えた建築的オブジェとしての存在感を放っている。アーツ・アンド・クラフツ運動の影響を受けながらも、モダニズムへの架け橋となるこの椅子は、伝統的な工芸技術と革新的なデザイン思想が見事に融合した逸品である。

1986年にイタリアの名門家具メーカー、カッシーナによって正式に復刻製造されたモデル606は、37の部品から構成される驚異的に複雑な構造を持つ。アメリカンチェリーの無垢材から切り出された3つのパーツを異なる角度で曲げ、蒸気曲げと乾燥過程で生じる張力を相殺するために2つに切断し、再び背中合わせに接着するという高度な技術が用いられている。すべての接合部は木材に直接彫り込まれ、職人の手作業による仕上げが施される。この卓越した製造工程は、カッシーナの木工技術の粋を集めた傑作として評価されている。

デザインの進化と歴史的背景

バレルチェアの誕生は、ライトの建築哲学における重要な転換点を示している。1902年のウォード・ウィリッツ邸のための高い背もたれのダイニングチェアや、オークパークの自身のスタジオのための鋭角的な幾何学形態を特徴とする初期作品から、1903年から1905年にかけてのマーティン邸の設計において、ライトはプレイリースタイルの直線的美学に曲線を導入し始めた。この有機的形態への探求が結実したのが、1904年のバレルチェアである。

1937年版のウィングスプレッド仕様は、オリジナルデザインをより洗練させ、ミルウォーキーのギレン・ウッドワーク・コーポレーションによって製作された。この改良版は、サイズを調整し構造的な洗練を加えることで、邸宅の広大な居室空間に相応しい威厳と存在感を獲得した。ライトは生涯を通じてバレルチェアのデザインを何度も改訂し、それぞれの建築プロジェクトの文脈に応じて調和する形を追求し続けた。

評価と影響

バレルチェアは、20世紀家具デザイン史における重要なマイルストーンとして認識されている。ヴィトラ・デザイン・ミュージアムは、このチェアを家具デザイン史を代表する作品の一つとして選定し、ミニチュアコレクションに加えている。同コレクションは、歴史主義からアール・ヌーヴォー、バウハウス、ラディカル・デザイン、ポストモダニズムに至る産業家具デザインの全歴史を網羅するものであり、バレルチェアはその中核をなす作品として位置づけられている。

このチェアは、建築家による家具デザインの傑作として、建築空間と調和する家具の在り方を示す模範となった。ライトの建築作品と同様、基本的な幾何学形態の交差、自然素材への敬意、有機的な美しさの追求が見事に体現されており、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館の螺旋構造から数百の住宅建築に至るまで、ライトの創作理念と一貫性を保っている。オークション市場では、オリジナルのバレルチェアは高額で取引され、2023年のトゥーミー・アンド・カンパニーのオークションでは、1900年頃のB・ハーレー・ブラッドリー邸のための作品が20,160ドルで落札された。

現代における再評価

バレルチェアは現代においても、その革新性と美的完成度により設計者や収集家から高い評価を受け続けている。カッシーナによる復刻版は、1986年の製造開始以来、ライトの遺産を正確に継承する正規ライセンス製品として市場に供給されている。また、イタリアクラシックスなど複数のメーカーからも忠実な復刻版が製造されており、アメリカンチェリー材の自然仕上げ、ウォールナット着色、ブラック着色など多様な仕上げオプションが提供されている。

マーティンハウス財団は、オリジナル作品の保存と正確な復元に力を注いでおり、マスタークラフツマンのスティーブ・オーブルによって再現された5脚のバレルチェアが、現在レセプションルーム、リビングルーム、マスターベッドルーム、会計室に配置されている。これらの復元作品は、ライトの原設計の精緻さと製作技術の高度さを現代に伝える貴重な資料となっている。フランク・ロイド・ライト財団のアーカイブには300点以上の椅子のドローイングが保管されており、バレルチェアはその中でも最も普遍的に認識される家具デザインの一つとして、ライトの創造的遺産の象徴的存在であり続けている。

基本情報

デザイナー フランク・ロイド・ライト
デザイン年 1904年(初期版)、1937年(改良版)
ブランド カッシーナ(復刻版)
モデル番号 606
素材 アメリカンチェリー無垢材
張地 レザーまたはファブリック
サイズ(カッシーナ版) 幅54cm×奥行55cm×高さ81cm、座面高48cm
製造開始(復刻版) 1986年