Dator 5(ダトール5)は、1956年にイタリアの建築家・工業デザイナーであるジーノ・ヴァッレがソラーリ社のために設計したフリップ式掛け時計である。スプリットフラップ・ディスプレイ機構を採用した本作品は、時刻表示における革新的なアプローチと洗練された造形美により、20世紀イタリアデザインを代表するアイコン的存在となった。その功績は1956年のコンパッソ・ドーロ賞受賞によって国際的に認められ、以後半世紀以上にわたりモダンデザインの金字塔として高く評価され続けている。
特徴・コンセプト
Dator 5の最も顕著な特徴は、スプリットフラップ・ディスプレイ(分割フラップ式表示)機構の採用にある。この方式は、薄い板状のフラップに数字や文字を印刷し、それらを順次回転させることで表示を切り替えるものである。従来のアナログ時計の針による時刻表示とは一線を画し、デジタル的な明瞭さとアナログ的な機械美を融合させた画期的な手法であった。
ジーノ・ヴァッレは本作品において、視認性と美的完成度の両立を追求した。黒地に白の数字というハイコントラストな配色は、遠距離からでも瞬時に時刻を読み取ることを可能にする。筐体デザインは余分な装飾を排した端正なフォルムで構成され、機能主義の美学を体現している。フラップが切り替わる際の「パタパタ」という軽快な音も、時の経過を聴覚的に感じさせる副次的な魅力として親しまれてきた。
また、ソラーリ社が培ってきた産業用表示システムの技術を民生用製品へと昇華させた点も特筆に値する。鉄道駅や空港の発着案内板として開発されたスプリットフラップ技術を、家庭や公共空間で使用できる時計として再解釈したことは、産業技術と日常生活の架け橋を築く試みであった。
エピソード
ソラーリ社との協働
Dator 5の誕生は、ウーディネに本拠を置くソラーリ社とジーノ・ヴァッレの緊密な協力関係から生まれた。ソラーリ社は1725年創業の歴史ある企業であり、19世紀後半から時計製造に携わってきた。20世紀に入り同社は公共情報表示システムの分野で革新的な技術開発を進め、その成果が Dator 5へと結実した。ヴァッレは自身の建築的素養を活かし、機械部品の配置から筐体の比率に至るまで、あらゆる要素を緻密に計算して設計を行った。
公共空間への展開
Dator 5の成功を受け、ソラーリ社はスプリットフラップ技術をさらに発展させた。その後開発されたCifra 5をはじめとする一連の製品群は、世界中の鉄道駅や空港で採用され、公共交通機関の案内表示システムの標準となった。ニューヨークのグランド・セントラル駅やヨーロッパ各地の主要駅で目にするフラップ式表示板は、すべてDator 5に端を発する技術系譜に連なるものである。
評価
Dator 5は発表当時から現代に至るまで、工業デザインの傑作として揺るぎない評価を受けている。機能性と美的完成度を高次元で両立させた本作品は、イタリアンデザインの精髄を体現するものとして国際的に認知されている。
デザイン史家たちは、Dator 5を戦後イタリアが生み出した最も重要な工業製品のひとつに位置づける。バウハウスの機能主義を継承しながらも、イタリア特有のエレガンスと職人技術を融合させた点が高く評価されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界の主要な美術館・博物館がDator 5およびその派生製品を永久収蔵品としており、単なる工業製品の枠を超えた文化的価値が認められている。
また、Dator 5が確立したスプリットフラップ表示は、デジタル時代においてもなお独特の魅力を保ち続けている。液晶やLEDによる表示が一般化した今日でも、フラップ式表示が持つアナログ的な温かみとノスタルジーは多くの愛好家を惹きつけ、ヴィンテージ市場において高い人気を誇っている。
受賞歴
- 1956年
- コンパッソ・ドーロ賞(Compasso d'Oro)受賞。イタリア工業デザイン協会(ADI)が主催する同賞は、世界で最も権威あるデザイン賞のひとつとして知られる。Dator 5は技術革新と造形美の融合が評価され、この栄誉に輝いた。
基本情報
| 名称 | Dator 5(ダトール5) |
|---|---|
| デザイナー | ジーノ・ヴァッレ(Gino Valle, 1923-2003) |
| メーカー | ソラーリ・ディ・ウーディネ(Solari di Udine) |
| 発表年 | 1956年 |
| 原産国 | イタリア |
| カテゴリー | 掛け時計 / フリップクロック |
| 表示方式 | スプリットフラップ・ディスプレイ(分割フラップ式) |
| 主要素材 | 金属筐体、プラスチックフラップ |
| 受賞 | 1956年 コンパッソ・ドーロ賞 |
| 収蔵 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)ほか |