ソラーリ ― 1725年から続く「時」の革新者
イタリア北東部フリウリ地方の山間の小村ペザリスで1725年に創業したソラーリは、300年にわたり時計製造と時間表示技術の革新を牽引してきた稀有な企業である。塔時計の製造から出発し、20世紀にはスプリットフラップ(パタパタ)式表示システムを発明して世界の空港・鉄道駅の情報表示を一変させた。建築家ジノ・ヴァッレとの協働により生み出されたCifra 5やCifra 3といったフリップクロックは、インダストリアルデザインの金字塔として、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やロンドンのサイエンスミュージアムの永久コレクションに収蔵されている。「時」を可視化する技術とイタリアンデザインの美学を融合させた唯一無二のブランドである。
ブランドの特徴・コンセプト
ソラーリの根幹にあるのは、「時間の可視化」という一貫した命題である。針と文字盤による伝統的な時刻表示に対し、数字そのものを直接読み取るダイレクトリーディング方式を追求した同社は、レミジオ・ソラーリが発明したスプリットフラップ(パレット式回転表示)技術によって、時間表示の概念そのものを刷新した。
フラップが一枚一枚めくれる際の精緻な動きと特徴的な音は、単なる時刻表示を超えた詩的な体験を生む。世界中の旅行者が空港や鉄道駅で耳にしてきたあの「パタパタ」という音こそ、ソラーリの技術が生んだ音風景である。デザイン、テクノロジー、イノベーションという三つの価値を核に、すべての製品をイタリア国内で設計・製造する「Made in Italy」の精神を貫き続けている。
ブランドヒストリー
創業 ― 塔時計工房の誕生(1725年)
1725年、フリウリ地方カルニア地域の山村ペザリスにて「Ditta Fratelli Solari(ソラーリ兄弟商会)」が創業された。正式名称は「Antica e premiata fabbrica di orologi da torre(古き名高き塔時計工房)」であり、イタリア各地の教会や広場に設置される塔時計の製造を手がけた。この地は古くから時計製造の伝統が根づいた土地であり、ソラーリ家は代々その技術を継承していった。
近代化への転換 ― ウーディネ移転(1948年)
第二次世界大戦後の1948年、兄弟のフェルモとレミジオ・ソラーリは家族経営の本家から独立し、ウーディネに新会社「Solari di Udine」を設立した。機械工であり発明家であったレミジオは、従来の針と文字盤による時刻表示に代わる革新的な表示方法の研究に没頭。数字を刻んだ金属フラップが車輪状に回転するスプリットフラップ表示システムを発明し、時間表示の歴史に画期的な転換をもたらした。
ジノ・ヴァッレとの出会いと黄金期(1950〜1960年代)
1954年、フェルモ・ソラーリはフリウリ出身の建築家ジノ・ヴァッレに電子機械式フリップクロックのデザインを依頼する。この協働から生まれたCifra 5は、4枚のパレットにそれぞれ10個の数字を配した画期的な直読式時計であり、1956年にイタリア工業デザインの最高賞「コンパッソ・ドーロ(黄金のコンパス賞)」を受賞した。同年、ベルギーのリエージュ駅に世界初の鉄道情報表示システムが納入され、ソラーリの国際展開が本格的に始動した。
1962年には、ジノ・ヴァッレがデザインした空港・鉄道駅向け英数字テレインジケーターが二度目のコンパッソ・ドーロを受賞。エーロ・サーリネンが設計したニューヨーク・JFK空港のTWAターミナルにもソラーリのスプリットフラップ表示盤が採用され、世界的な名声を確立した。この時期、ヨーロッパ各国の鉄道・空港、さらにはアメリカ、南米、アジア、アフリカへとソラーリの表示システムは広がり、公共情報表示の世界標準となった。
Cifra 3の誕生とデザインアイコンへ(1965〜1967年)
1965年、ジノ・ヴァッレはベルギーの発明家ジョン・マイヤーの協力を得て、48枚のパレットを持つローラーの開発に成功。これにより、現在も生産されている最小のダイレクトリーディング式時計「Cifra 3」が誕生した。書体デザインはマッシモ・ヴィニェッリが担当し、ヘルベチカを基にした時間表示と分表示で異なるサイズの書体を採用した。1966年に特許が取得され、翌1967年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵されるという、プロダクトデザイン史上類を見ない快挙を成し遂げた。
継承と再生 ― ソラーリ・リネアデザインの誕生(1990年代〜現在)
1993年にCifra 3が「ミュージアムクロック」として復刻され、コレクターの間で高い評価を得た。1998年にはソラーリ・ウーディネが本家のFratelli Solariを買収し、50年の分離を経て一族の事業が再統合された。2004年にはスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ターミナル』にソラーリの巨大スプリットフラップ表示盤が登場し、その存在が広く一般に知られるようになった。
2015年、歴史的製品の復刻・再生産を担うブランド「Solari Lineadesign(ソラーリ・リネアデザイン)」が発足。Cifra 3およびDator 60の復刻生産が開始された。2019年にはJFK空港のTWAホテルへの改装に際し、1962年製のソラーリ製スプリットフラップ表示盤が完全修復され、新たな観光名所となった。そして2025年12月、創業300周年を迎え、イタリア郵政公社からCifra 3を図案とした記念切手が発行された。同年、社名を「SOLARI SPA – Premiata Fabbrica Orologi fondata nel 1725 – Pesariis (Udine)」に改め、原点への回帰と未来への展望を表明している。
主なプロダクトとその特徴
Cifra 5(チフラ・チンクエ)― フリップクロックの始祖(1956年)
ジノ・ヴァッレがデザインし、グラフィックデザイナーのミケーレ・プロヴィンチャーリとの協働により完成した電子機械式直読時計。4枚の垂直パレットにそれぞれ10個の数字を配し、すべての時刻を表示する革新的な機構を備えた。1956年のコンパッソ・ドーロ受賞により、インダストリアルデザインの歴史にその名を刻んだ。Cifra 5は、その後のソラーリ・クロックファミリー全体の祖型となった作品である。壁掛け型と卓上型が存在し、ヴィンテージ市場では高い評価を得ている。
Cifra 3(チフラ・トレ)― 20世紀デザインのアイコン(1965年)
ジノ・ヴァッレの設計により、ベルギーの発明家ジョン・マイヤーの技術協力を経て誕生した、現存する最小のダイレクトリーディング式フリップクロック。48枚のパレットを持つローラー2本(時間用・分用)と小型モーターを同軸上に配置した精巧な機構を、PC-ABSの流線型ボディに収めている。黒地に白の数字という明快なコントラスト、マッシモ・ヴィニェッリによるヘルベチカベースの書体デザイン、そしてフラップがめくれる際の規則正しい音が、時間の経過を詩的に表現する。
1967年のMoMA永久コレクション収蔵以来、ロンドン・サイエンスミュージアム、ミラノ・トリエンナーレ・デザインミュージアムにも所蔵される、20世紀プロダクトデザインの金字塔である。現行品はSolari Lineadesignブランドより、ブラック、ホワイト、レッド、グリーンの4色に加え、ゴールド/シルバーの特別版が展開されている。公式写真では常に12時58分を表示するが、これはジノ・ヴァッレ自身の指定によるもので、現在もなお踏襲されている。
Dator 60(ダトール・セッサンタ)― 時を「読む」永久カレンダー
Cifra 3と同じスプリットフラップ技術を用い、時刻に加えて曜日と日付を表示する壁掛け/卓上兼用のカレンダークロック。閏年の2月29日にも自動対応する永久カレンダー機能を搭載している。水平型(横置き)と垂直型(縦置き)の2つのバリエーションがあり、それぞれブラックとホワイトの2色展開。英語表示版とイタリア語表示版が選択可能で、ミニマルなデザインと高い視認性により、住宅からオフィス、コントラクトスペースまで幅広い空間に対応する。Dator 60は、Cifra 5の発展型であるEmera 5を経て開発された、金属パレットによる初の直読式カレンダークロックの系譜に連なる製品である。
スプリットフラップ公共情報表示システム
ソラーリの事業の根幹をなす公共情報表示システムは、空港のFIDS(Flight Information Display System)や鉄道駅の発着案内として世界中に導入されてきた。レミジオ・ソラーリの発明による40枚フラップのローラーは数字と文字の両方を表示可能とし、ジノ・ヴァッレのデザインによる英数字テレインジケーターは1962年にコンパッソ・ドーロを受賞した。JFK空港のTWAターミナル(1962年)、ニューヨーク・ペンステーション(1967〜1985年)、フィラデルフィア30丁目駅(1970年代〜2018年)、パリのRATP(バス停6,000台のスマートディスプレイ)、イスタンブール空港(3,000台以上のディスプレイ管理)など、世界の主要交通拠点にソラーリの技術が息づいている。近年ではLED表示やTFTディスプレイへの技術的展開も進め、スマートロッカーやスマートシティ向けソリューションなど、デジタル時代の公共情報インフラへと事業領域を拡大している。
主なデザイナー
ジノ・ヴァッレ(Gino Valle, 1923–2003)
フリウリ出身の建築家、デザイナー、画家。ヴェネツィア建築大学を1948年に卒業後、父と姉ナニ・ヴァッレのもとで研鑽を積んだ。1954年よりソラーリとの協働を開始し、Cifra 5(1956年、コンパッソ・ドーロ受賞)、英数字テレインジケーター(1962年、コンパッソ・ドーロ受賞)、そしてCifra 3(1965年)を設計した。「私はオブジェを作るのではない。関係性を築くのだ」という言葉に象徴されるように、ヴァッレにとってデザインとは人とモノとの間にコミュニケーションを生み出す行為であった。ザヌッシのプレート冷蔵庫など家電分野でも革新的なデザインを手がけ、建築家としても国際的に高い評価を受けた。
マッシモ・ヴィニェッリ(Massimo Vignelli, 1931–2014)
ミラノ出身のグラフィックデザイナー。ジノ・ヴァッレの義弟であり、ユニマーク・インターナショナルの共同設立者。Cifra 3の書体デザインを担当し、ヘルベチカをベースに時間表示と分表示で異なるサイズの書体を設計した。微細な光学的調整を加えたこの書体は、フラップ上での視認性と美しさを両立させるものであり、Cifra 3のデザインアイデンティティの重要な構成要素となっている。ニューヨーク地下鉄の路線図やアメリカン航空のロゴなど、20世紀を代表するグラフィックデザインの数々を手がけた巨匠である。
レミジオ・ソラーリ(Remigio Solari)
ソラーリ家の技術的頭脳。独学の機械工・発明家として、数字を刻んだ金属フラップが車輪状に回転するスプリットフラップ表示システムを発明し、1966年に特許を取得した。この発明は、公共情報表示と家庭用フリップクロックの両方に革命をもたらし、ソラーリの事業基盤となった。1957年に逝去したが、兄弟フェルモと建築家ジノ・ヴァッレがその遺志を継ぎ、技術の発展に尽力した。
ミケーレ・プロヴィンチャーリ(Michele Provinciali)
イラストレーター、グラフィックデザイナー。ジノ・ヴァッレとともにCifra 5の開発に携わり、初期ソラーリ製品のビジュアルコミュニケーションに貢献した。
基本情報
| ブランド正式名称 | Solari SPA – Premiata Fabbrica Orologi fondata nel 1725 – Pesariis (Udine) |
|---|---|
| 通称 | Solari di Udine / ソラーリ・ディ・ウーディネ |
| コンシューマー向けブランド | Solari Lineadesign(ソラーリ・リネアデザイン) |
| 創業年 | 1725年(ペザリスにてFratelli Solariとして創業) |
| 近代法人設立 | 1948年(ウーディネにてSolari di Udineとして設立) |
| 創業者 | ソラーリ家(近代化:フェルモ・ソラーリ、レミジオ・ソラーリ兄弟) |
| 所在地 | イタリア フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州 ウーディネ / ペザリス |
| 代表者 | マッシモ・パニッチャ(Massimo Paniccia)代表取締役社長 |
| 事業内容 | フリップクロック製造、公共情報表示システム、スマートシティソリューション |
| 米国法人 | Solari Corp(ニューヨーク、2005年設立) |
| 受賞歴 | コンパッソ・ドーロ2回受賞(1956年 Cifra 5、1962年 英数字テレインジケーター) |
| ミュージアムコレクション | MoMA(ニューヨーク)、サイエンスミュージアム(ロンドン)、トリエンナーレ・デザインミュージアム(ミラノ) |
| 公式サイト | https://www.solari.it(企業)/ https://www.solarilineadesign.com(リネアデザイン)/ https://www.cifra3.com(Cifra 3) |