ポール・ヴォルター
ポール・M・ヴォルター(Poul M. Volther、1923年1月2日 - 2001年1月23日)は、デンマークの家具デザイナー(家具建築家)である。スカンジナビアの機能主義に立脚し、短命な流行を追うことなく、質の高い素材を簡潔に扱う設計を信条とした人物として知られる。デンマークの消費生活協同組合FDBの家具部門で1950年代のデンマーク・モダンを支え、後年はエリック・ヨルゲンセンと協働したコロナチェア(EJ5)によって国際的に名を残している。
バイオグラフィー
1923年1月2日、デンマークに生まれる。はじめ家具職人(指物師)としての訓練を受け、その後コペンハーゲンの美術工芸学校(Kunsthåndværkerskolen、現在のデンマーク・デザイン学校の前身)で家具デザインを学んだ。
1949年、建築家ハンス・J・ウェグナーの紹介により、消費生活協同組合FDBの家具部門(FDB Møbler)に加わり、当時この部門を率いていたボーエ・モーエンセンのもとで働き始める。モーエンセンが1950年にFDBを離れると、ヴォルターは27歳の若さでその後任として家具設計室の責任者となり、1955年までその任にあたった。
FDBを退いた後は自身の設計事務所を構え、家具の設計を続けるかたわら、コペンハーゲンの美術工芸学校で教鞭をとった。手仕事の質を重んじる姿勢と簡潔な設計の考え方を通じて、多くの若い家具デザイナーに影響を与えている。生涯にわたって設計した家具は200点近くにのぼるとされる。
デザインの思想とアプローチ
ヴォルターの仕事は、スカンジナビアの機能主義に根ざしている。「形態は機能に従う」という考え方を出発点に、その時々の流行に流されることなく、質の高い素材を簡潔に扱うことを一貫した信条とした。バウハウスの機能主義的な思想からも影響を受けつつ、素材の性質への深い理解と細部への注意をもって、時代の移り変わりに左右されにくい家具を目指している。
FDBが掲げた、誰もが手にできる家具づくりの精神のもと、確かな指物の技術と量産とを両立させ、質の高い家具を一般の家庭に届けることにも力を注いだ。見た目の華やかさよりも、日々の暮らしのなかで使いやすく、心地よく座れることを重んじる設計姿勢は、その作品に共通して見て取れる。
コロナチェア(EJ5)
ヴォルターの名を広く知らしめたのが「コロナチェア(EJ5)」である。その出発点は、第二次世界大戦後に入手が難しかった素材を節約するため、クッションのあいだに空間を設けて構成した一連の椅子にあった。最初の試みである1953年の「ピラミッドチェア」は、フォームと布を用いた構造で商業的な成功には至らなかったが、この発想がのちのコロナチェアへとつながっていく。
コロナチェアは1961年に最初の構想がまとめられた。当初は木製の骨組みに楕円形のクッションを段階的に重ねた構造で、さまざまな姿勢でくつろげることを意図していた。その後、スヴェンボーで1954年に創業した家具メーカー、エリック・ヨルゲンセンとの協働により、クロムメッキを施したスチールフレームのモデルが1964年に発表された。名称は、皆既日食の際に太陽の周囲に現れる光の輪(コロナ)に由来するとされる。段階的に大きくなる楕円形のシェルを配した姿は、半透明でありながらまとまりのある印象を与え、人体の背骨と肋骨を思わせる構成をもつ。
発表当初は大きな販売には結びつかなかった。1984年にはケルンの家具見本市で新たなモデルが紹介され、好意的に受け止められたものの、販売面では振るわなかった。転機となったのは1997年で、エリック・ヨルゲンセンがケルンの家具見本市とコペンハーゲンのスカンジナビア家具見本市(ベラ・センター)で改めて紹介すると、この椅子は時代の空気と合致し、国際的に広く販売される家具となった。ヴォルターが没した翌年の2002年12月には、コペンハーゲンで開かれたEU首脳会議の会場でも用いられている。今日ではエリック・ヨルゲンセン(現在はフレデリシア・ファニチャー傘下)を代表する製品のひとつとして、映画やファッション、音楽の映像作品などにもたびたび登場している。
J46 チェア
FDB時代の代表作が、1956年に発表されたスポークバックチェア「J46」である。V字を描く背もたれと、軽やかな印象を与える構成が特徴で、当時主流だった重厚な椅子とは異なる設計言語を示した。指物の技術と量産を結びつけ、質の高い椅子を手頃な価格で一般家庭に届けたこの椅子は、デンマークの家庭で最も多く売れた椅子のひとつに数えられ、その普及数は推定で80万脚を超えるとされる。現在もFDB Møblerによって生産が続けられている。
評価と後世への影響
ヴォルターは、ハンス・J・ウェグナーやボーエ・モーエンセンらと同じく、デンマーク・モダンを担った世代の家具デザイナーのひとりに位置づけられる。FDBにおける、暮らしに根ざした家具づくりへの貢献と、細部への感覚を備えた設計は、デンマーク内外の家具デザインに足跡を残した。コロナチェアは、当初こそ評価が定まらなかったものの、後年になってミッドセンチュリー・モダンを象徴する椅子のひとつとして受け入れられている。また教育者として多くの学生に接し、手仕事の質を重んじる姿勢を次の世代へと伝えた。
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1953年 | チェア | ピラミッドチェア(Pyramid Chair/コロナチェアの原型) | — |
| 1956年 | チェア | J46(スポークバックチェア) | FDB Møbler |
| 1950年代 | イージーチェア | ゴリアテ(Goliat) | Gemla |
| 1961年 | ラウンジチェア | コロナチェア(EJ5/1964年市場導入) | Erik Jørgensen |
Reference
- Poul Volther – Wikipedia
- https://en.wikipedia.org/wiki/Poul_Volther
- Poul M. Volther – Volther Furniture
- http://voltherfurniture.dk/poul-m.-volther.html
- Poul M. Volther – FDB Møbler
- https://www.fdbmobler.dk/da/designers/poul-m-volther.html
- FDB-møbler – Lex / Danmarks nationalleksikon
- https://lex.dk/FDB-møbler
- Corona Classic – Scandinaviandesign.com
- https://scandinaviandesign.com/corona-classic-erik-jorgensen/