概要
フィリップ・スタルク(1949年生まれ)は、フランスのデザイナーである。家具、日用品、店舗、ホテル、船舶と対象を限定せず、1980年代以降に多数の製品を残した。既存の道具の形式を組み替えて新しい用途を与える方法をとり、1990年のジューシーサリフ、2002年のルイゴーストがその例にあたる。カルテル、フロス、アレッシィ、カッシーナなどと協働している。
バイオグラフィー
1949年1月18日、パリに生まれた。父アンドレ・スタルクは航空機の設計技師である。パリのカモンド学校で学んだ。
1969年にピエール・カルダンのアートディレクターとなり、1970年代から家具と内装の設計を始めた。
1982年、フランス大統領官邸の私的空間の内装を担当した。1984年にはパリのカフェ・コステスの内装と椅子を手がけている。
1980年代後半から国外での仕事が増え、ホテル、店舗、船舶の内装にも広がった。1990年のジューシーサリフ、2002年のルイゴーストは長期にわたり生産が続いている。
デザインの思想と方法
スタルクの製品は、既存の道具の形式を出発点とする。ただしそれをそのまま作り直すのではなく、材料や機構を入れ替えることで別の性格を与える。この操作をとると、何の道具かは分かるが、既存のものとは異なる状態が生まれる。
形式を保ったまま材料を替える
ルイゴーストは、18世紀のルイ15世様式の肘掛け椅子の形式を、透明のポリカーボネートで一体成形したものである。輪郭は既存の様式のままだが、透明であるため体積の印象が消える。様式と材料の組み合わせを入れ替えるという操作にあたる。
機能から形を離す
ジューシーサリフは柑橘の搾り器である。三本脚に載る紡錘形の頭部という構成は、搾るという機能から必然的に導かれるものではない。機能を満たしたうえで、形の決め方に余地が残ることを示す製品として扱われる。
一体成形の限界を試す
カルテルとの協働では、樹脂の射出成形で作れる大きさと形状の限界を継続して押し広げてきた。ルイゴーストは、当時の技術で一体成形できる椅子としては大きい部類にあたる。金型への投資が大きいため、量産の見込みが前提になる。
対象を限定しない
家具、日用品、店舗、ホテル、船舶、風力発電機と対象は広い。それぞれの分野で条件は異なるが、既存の形式を組み替えるという手順は共通する。
カルテルの歴史や他の製品について詳しくはカルテル ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
コステスチェア(1984年)
パリのカフェ・コステスのために設計した椅子である。背もたれが半円形に回り込み、脚は3本にとどめる。飲食店では通路を確保する必要があり、脚が1本少ないだけで足元の通りが変わる。→コステスチェア
ジューシーサリフ(1990年、アレッシィ)
鋳造アルミによる柑橘の搾り器である。三本脚に紡錘形の頭部が載る。機能を満たしたうえで形の決め方に余地が残ることを示す製品として扱われる。V&A、メトロポリタン美術館、シカゴ美術館が収蔵している。→ジューシーサリフ(アレッシィ)
ルイゴースト(2002年、カルテル)
18世紀のルイ15世様式の肘掛け椅子の形式を、透明のポリカーボネートで一体成形した椅子である。輪郭は既存の様式のままだが、透明であるため部屋での体積の印象が消える。V&Aが収蔵している。→ルイゴースト
マスターズチェア(2010年、カルテル)
アルネ・ヤコブセンのセブンチェア、チャールズ・イームズのDSW、エーロ・サーリネンのチューリップチェアの背もたれの輪郭を重ね合わせた椅子である。3つの輪郭が交差する線が背を構成する。既存の設計を素材として扱う操作にあたる。→マスターズチェア
ミスター・インポッシブル(2008年、カルテル)
透明の樹脂で成形した2つの殻を溶着した椅子である。接合部が見えないため、内部が空洞であることが外から分かりにくい。成形と溶着という工程が構成を規定している。→ミスター・インポッシブル
評価と影響
スタルクは一般に、1980年代以降のデザインを最も広く知られた設計者の一人と評価されている。家具から日用品、建築、船舶まで対象を限定しない活動の形式が特徴にあたる。
既存の様式や既存の設計を素材として組み替えるという方法は、批評の対象にもなってきた。機能から形が導かれるという前提を採らないため、機能主義の系譜とは異なる位置にある。
カルテルとの協働では、樹脂の一体成形で作れる大きさと形状の限界を押し広げてきた。ルイゴーストは2002年の発表以来、生産が続いている。
収蔵
4館のAPI(MoMA、V&A、Met、AIC)で照合したところ、計99件が確認できた。以下は主要なものの抜粋である。
- MoMA ダダダ スツール(1993年) 収蔵番号 39.2000
- MoMA ブブ 1er(1991年) 収蔵番号 35.2000.1-2
- MoMA クークー ラジオ付き目覚まし時計(1996年) 収蔵番号 38.2000
- MoMA シャブ ウェリントン コートフック(1987年) 収蔵番号 37.2000
- V&A アラ(1988年) 収蔵番号 M.16-1993
- V&A ドクター・グロブ(1988年) 収蔵番号 W.9-1990、W.10-1990、W.11-1990
- V&A ミス・バルー テーブル(1988年) 収蔵番号 W.12-1990
- V&A ジューシーサリフ(1990年) 収蔵番号 M.22-2016
- V&A ルイゴースト アームチェア(2002年) 収蔵番号 W.9-2007
- Met アサヒビル模型(1987年) 収蔵番号 1994.249.1
- Met ナニナニビル模型(1987年) 収蔵番号 1994.249.2
- Met ジューシーサリフ(1990年) 収蔵番号 2001.523
- Met ミス C.O.C.O.(1998年) 収蔵番号 2001.350.1、2001.350.2
- Met スリック・スリック スタッキングチェア(1999年) 収蔵番号 2001.349.5
- AIC ロイヤルトン ダイニングチェア(1988年) 収蔵番号 2017.414
- AIC ジューシーサリフ(1990年) 収蔵番号 2016.411
- AIC ワラワラ ウォールスコンス(1993年) 収蔵番号 2016.414
- AIC サウンドステーション ラジオ付き目覚まし時計(1996-98年) 収蔵番号 2007.56
フランス国内の公共コレクションについては照合手段がない。
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド / 場所 |
|---|---|---|---|
| 1982年 | 内装 | エリゼ宮 私的空間 | パリ、フランス |
| 1984年 | 椅子 | コステスチェア | Driade |
| 1987年 | 建築 | アサヒビル、ナニナニビル | 東京、日本 |
| 1988年 | 椅子 | ドクター・グロブ | Kartell |
| 1990年 | 什器 | ジューシーサリフ(アレッシィ) | Alessi |
| 1999年 | 椅子 | スリック・スリック | XO |
| 2002年 | 椅子 | ルイゴースト | Kartell |
| 2000年代 | 椅子 | ルールーゴースト | Kartell |
| 2008年 | 椅子 | ミスター・インポッシブル | Kartell |
| 2010年 | 椅子 | マスターズチェア | Kartell |
| 2010年代 | ベッド | ヴォラージュ・エクストラソフト・ナイト・ベッド | Cassina |
| 1980年代〜 | 内装 | ホテル・店舗・飲食店の内装 | 各地 |
プロフィール
| 生年 | 1949年1月18日 |
|---|---|
| 出身地 | フランス・パリ |
| 国籍 | フランス |
| 活動拠点 | パリ |
| 分野 | 家具、日用品、照明、建築、インテリア |
| 主な協働ブランド | Kartell、Flos、Alessi、Cassina、Driade、Vitra |
Reference
- Starck(公式)
- https://www.starck.com/
- Philippe Starck | Kartell
- https://www.kartell.com/us/en/designers
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325
- Victoria and Albert Museum Collections
- https://collections.vam.ac.uk/
- The Metropolitan Museum of Art Collection
- https://www.metmuseum.org/art/collection