概要

ヨルゲン・カストホルム(1931年–2007年)は、デンマークの家具デザイナーである。鍛冶の職人として修業したのち設計に転じ、1961年から1968年までプレベン・ファブリシウスと共同の事務所を営んだ。金属の加工に通じた設計者として、鋼やアルミニウムの支持部と革を組み合わせる仕事を重ねている。1971年にデュッセルドルフへ移って以降はドイツを拠点とし、ヴッパータール大学で家具デザインと製品開発を教えた。

バイオグラフィー

1931年、デンマークのロスキレに生まれた。父の会社で鍛冶の技術を身につけている。若いころに米国で過ごした期間があり、これが後年まで続く国外での活動の始まりとなった。

帰国後、コペンハーゲンのインテリアデザインの学校でフィン・ユールに学び、プレベン・ファブリシウスと出会う。続いてデン・グラフィスケ・ホイスコーレに籍を置き、その間はアルネ・ヤコブセンのもとで働いた。1959年にはベイルートの設計事務所に移り、SASのラウンジやサウジアラビア国王の宮殿の内装に関わっている。デンマークへ戻った後はオーレ・ハーゲンの設計事務所に入った。

1961年、ファブリシウスと共同の事務所を設立する。事務所の仕事はドイツ市場と結びつき、シュトゥットガルト近郊のキル・インターナショナルが生産を担った。1968年に協働を解消したのちは自身の事務所を営み、設計と並行して編集や執筆にも携わった。雑誌『Mobilia』の編集はその一つである。

1971年、デュッセルドルフに移って事務所を開いた。1975年からヴッパータール大学で教え、翌年に家具デザインと製品開発の教授に就いている。1996年まで務めた。設計の仕事は最後まで続き、2007年6月に没した。

デザインの思想と方法

金属を扱える設計者であること

カストホルムの設計は、金属を自分で加工できる立場から出発している。共同事務所の初期は木を主材としていたが、鋼と革が加わったのはカストホルムの修業によるものだと、カール・ハンセン&サンは説明している。

金工の知識は、脚部や支持部の断面をどこまで細くできるかという判断に直結する。座と背を支える部材の太さを決めるには、材の強度と溶接や鋳造の条件を同時に見ておく必要がある。二人の椅子で金属の枠が細く保たれているのは、この判断が設計の段階で済んでいたためである。回転する台座や高さを変える機構も、金物として設計できる範囲に収まっている。

国外での観察を設計に持ち込む

1950年代末にレバノンで働いた経験は、座る姿勢についての関心につながった。カール・ハンセン&サンによれば、床に敷いた敷物の上で脚を折りたたんで座る人々の様子を見たことが、より自然な姿勢を探るスケッチの出発点になり、これがのちのシミターチェアの基礎となった。

米国、レバノン、ドイツと拠点を移した経歴は、デンマーク国内の家具職人組合展を主な発表の場としていた同時代の設計者とは異なる道筋にあたる。ドイツの製造業者と直接組んで量産へ持ち込む進め方は、この移動の延長線上にある。

教えることと書くこと

設計の実務と並行して、雑誌の編集や大学での教育に携わった。ヴッパータール大学で担当したのは家具デザインと製品開発で、意匠だけでなく製品として成立させる過程を扱う分野にあたる。ドイツの製造業者のために公共空間向けの座席を設計し続けたことと、教える内容は重なっている。

代表作にみる方法

シミターチェア(1963年)

1963年、コペンハーゲンの家具職人秋季展で発表された。前章で触れたレバノンでの観察から出発し、体を沈めて座る姿勢に合わせて座面の輪郭が決められている。湾曲した金属の部材が座と背を支える構成で、金工の背景がそのまま形に出た仕事にあたる。

FK シェルチェアとラウンジチェア

器状の一枚の面で座る人を受け止め、支持部を金属の台座一点に集約した椅子である。金属の部材をどこまで減らせるかという関心と、面で荷重を受ける構造とを組み合わせた仕事にあたり、この仕事に対して1969年の連邦賞が与えられている。座面を下げて幅を広げた型の詳細はFK ラウンジチェアにまとめた。

FK63 ブックケースシステム(1963年)

木を主材とした共同期の仕事である。金属を扱う仕事と並行して木の収納を手がけており、素材が替わっても組み方を見せたまま仕上げる方針は変わらない。カール・ハンセン&サンが現在も製造している。

ドイツの製造業者との仕事

単独期には、待合空間や公共施設で使われる座席をドイツの製造業者のために設計した。クッシュ+コーはその一つで、同社は現在もカストホルムを自社の設計者として紹介している。一脚ずつの家具ではなく、連結して並べる座席の体系を扱う仕事が中心となった。

評価と影響

一般的に、デンマークの設計者でありながら活動の重心をドイツに置いた例として語られる。国内の展覧会を発表の場とせずに海外の製造業者と直接組む進め方は、同時代のデンマークの設計者のなかでは少数にあたる。

1975年から1996年までの教職を通じて、家具の設計を製品開発の枠組みで教える立場に立った。

受賞

  • 連邦賞「グーテ・フォルム」(Bundespreis Gute Form)/1969年。プレベン・ファブリシウスとの共同名義で、対象はFK シェルチェア。賞そのものが同年に創設されている

作品一覧

発表年 区分 作品名 ブランド
1963年 椅子 シミターチェア Carl Hansen & Søn(現行生産)
1963年 収納 FK63 ブックケースシステム Carl Hansen & Søn(現行生産)
1963年 椅子 FK10/FK11 プリコチェア Carl Hansen & Søn(現行生産)
椅子 グラスホッパー(FK 87) Kill International
1967年(公開) 椅子 FK シェルチェア(FK 6725 ほか) Kill International、のち Walter Knoll
ラウンジチェア FK ラウンジチェア Walter Knoll
座席システム 公共空間向けの座席 Kusch+Co

1968年までの作品はプレベン・ファブリシウスとの共同名義である。

プロフィール

生没年 1931年〜2007年
出身地 デンマーク・ロスキレ
国籍 デンマーク
分野 家具、インテリア
活動拠点 コペンハーゲン、のちデュッセルドルフ
主な協働ブランド Kill International、Walter Knoll、Carl Hansen & Søn、Kusch+Co
教職 ヴッパータール大学(1975年〜1996年)

Reference

Fabricius & Kastholm | Carl Hansen & Søn
https://www.carlhansen.com/en/en/designers/fabricius-kastholm
Prof. Jørgen Kastholm | Kusch+Co
https://www.kusch.com/en/design/prof-jorgen-kastholm/
Preben Fabricius & Jørgen Kastholm | Walter Knoll
https://www.walterknoll.de/en/designers/jorgen-kastholm-and-preben-fabricius
Introducing Scimitar Chair | Scandinavian Design
https://scandinaviandesign.com/scimitar-chair-fabricius-kastholm