概要
ディーター・ラムス(1932年生まれ)は、ドイツの工業デザイナーである。1955年にブラウンへ入社し、1961年から34年間、同社の製品デザイン部門を率いた。個々の製品を独立した造形として扱わず、操作面の構成・寸法・色を全製品で共通の体系に置く方法をとった。ヴィツゥのために設計した606ユニバーサル・シェルビング・システムと620チェア・プログラムは、部材を足し引きして構成を変えられる方式で、いずれも発売以来生産が続いている。
バイオグラフィー
1932年5月20日、ドイツのヴィースバーデンに生まれた。1947年にヴィースバーデン工芸学校で建築と室内設計を学び始めたが、いったん中断して大工の徒弟修業を経たのち、1951年に復学して1953年に修了している。卒業後はフランクフルトの建築家オットー・アーペルの事務所に2年間勤めた。
1955年にブラウンへ入社。当初は建築家・室内設計者として社屋の内装を担当した。同社はバウハウスの系譜を引くウルム造形大学と協力関係にあり、ラムスはハンス・グーゲロット、フリッツ・アイヒラー、オトル・アイヒャーらと働いている。1956年にはグーゲロットとの共同でSK4を手がけた。
1961年に製品デザイン部門の責任者となり、1995年まで務めた。1988年に取締役会に加わり、1997年に退職している。ブラウンと並行して、1959年からはヴィツゥ(当初はヴィツゥ+ザップ)と協働し、家具の設計を続けた。
1981年から1997年までハンブルク造形美術大学でプロダクトデザインの教授を務め、1987年から1997年まではドイツデザイン評議会の会長を務めた。1992年には写真家の妻インゲボルクとともに財団を設立し、製品デザインをめぐる活動を支援している。
デザインの思想と方法
ラムスが扱ったのは、家庭に入る電気製品をどう見せるかという問題である。1950年代の家電は木製の箱に収められ、家具の一部を装う形で作られていた。ラムスとブラウンはこの前提を外し、機器を機器として置くことにした。そのとき問われるのは、装飾のない箱をどう成立させるかという設計上の課題になる。
操作面を体系として設計する
ラムスの製品では、つまみ・ボタン・目盛りの配置が製品ごとに散らばらない。よく使う操作は大きく手前に、補助的な操作は小さく端に置く、という順序を全製品で共通にした。使い手は一つの機器で覚えた操作の並びを、別の機器でもそのまま使える。個々の製品の造形より、製品群を通した規則の一貫性を優先する考え方である。
内部を見せる/見せない
1956年のSK4では、それまで木の蓋で隠していたレコードプレーヤーの機構を、透明なアクリルの蓋に置き換えた。動く部分を見せるという判断だが、同時に金属の筐体は塗り分けを排して白一色とし、機構以外の要素は極力減らしている。何を見せ、何を消すかを分けて決めるという操作が、以後の製品にも通じている。
部材を足し引きできる構成
家具では、完成した一つの形を与えるのではなく、部材を追加・移動できる仕組みを設計した。606シェルビング・システムは壁に取り付けたレールに棚を掛ける方式で、必要に応じて段を増やし、転居時には外して持ち出せる。620チェア・プログラムも、一人掛けの単位を連結して長椅子にできる。買い替えを前提としない構成であり、彼が繰り返し述べた製品の寿命についての考え方が形になっている。
「良いデザインの10原則」
1970年代後半、ラムスは自らの仕事を含めて製品の形と色と音が過剰になっている状況を問題とし、設計の際に確かめるべき項目を10条にまとめた。革新性、有用性、美しさ、理解しやすさ、控えめであること、正直であること、長く使えること、細部まで行き届いていること、環境への配慮、そして可能なかぎり設計しないこと——の10項目である。本人はこれを不変の規則ではなく、考慮すべき要素の要約と位置づけている。現在はプロダクトのほか、画面上の設計を論じる際にも参照される。
ブラウンの歴史や他の製品について詳しくはブラウン ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
SK4 フォノスーパー(1956年)
ハンス・グーゲロットとの共同による、ラジオとレコードプレーヤーの一体機である。木の箱に収める当時の形式から離れ、白い金属の筐体に透明なアクリルの蓋を組み合わせた。機構は見せ、外皮からは装飾を除くという分担が明確で、以後のブラウン製品の方向を決めた。→SK4 レコードプレーヤー
T3 ポケットラジオ(1958年)
正方形のスピーカー孔と円形のダイヤルを白い直方体に配しただけの携帯ラジオである。飾りを付けないと決めた場合、残るのは孔の割付とダイヤルの径と位置だけになる。要素が少ないほど各要素の寸法が全体を決めるという関係が、この製品では直接に現れている。→T3 ポケットラジオ
606 ユニバーサル・シェルビング・システム(1960年)
ヴィツゥのために設計した壁面収納である。壁に固定したアルミのレールに、棚板やキャビネットを工具なしで掛け外しできる。一段から始めて後から足せるため、購入時に最終形を決める必要がない。1960年の発売から基本の寸法体系を変えずに製造が続いており、古い部材と新しい部材が組み合わせられる。→606ユニバーサルシェルビングシステム
620 チェア・プログラム(1962年)
一人掛けの椅子を単位とし、連結して二人掛け・三人掛けに変えられるシーティングである。単体でも成立する寸法に設計されているため、後から買い足しても構成が破綻しない。606と同じく、家具を完成品ではなく体系として与える考え方に立っている。→620 チェア・プログラム
ET66 計算機(1987年)
ディートリッヒ・ルブスとの共同による電卓である。従来の平らなボタンは筐体の切り欠きに爪が引っかかりやすかったため、ボタンの上面を凸面にして解決した。色は機能の区分に対応させ、演算キーと数字キーを見分けられるようにしている。少ない要素で操作の区別を作るという方法がよく現れた製品にあたる。→ET66 電卓
評価と影響
ラムスは一般に、20世紀後半の工業デザインにおいて、製品単体ではなく製品群の体系を設計する方法を確立した人物と評価されている。バウハウスとウルム造形大学の系譜を、量産される家庭用電気製品の分野に適用した点が挙げられることが多い。
アップルの製品との関係は繰り返し論じられている。同社の元最高デザイン責任者ジョナサン・アイブは、2011年のラムスに関する書籍に序文を寄せ、ブラウンでの仕事への評価を記した。ラムス自身も2009年の記録映画で、自らの原則に沿って設計している企業の一つとしてアップルを挙げている。一方、毎年新型を出す製品開発の慣行は、製品を長く使うという彼の主張と相容れない面がある。
ジャスパー・モリソンをはじめ、後続の設計者が彼の影響を挙げている。606シェルビング・システムと620チェア・プログラムが発売から60年以上を経て生産されていることは、彼が掲げた製品の寿命についての主張が、自身の設計で裏づけられている例といえる。
受賞・収蔵
受賞
- 1968年 ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
- 2002年 ドイツ連邦共和国功労勲章
- 2007年 ドイツ連邦デザイン賞(生涯の業績に対して)
- 2014年 コンパッソ・ドーロ 国際賞(ADI)
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館)。
- MoMA SK4/10 ラジオ・フォノグラフ(1956年) 収蔵番号 205.1958
- MoMA PA2 スライドプロジェクター(1956年) 収蔵番号 207.1958
- MoMA T3 ポケットラジオ(1958年) 収蔵番号 595.1965
- MoMA H1 ヒーター・ベンチレーター(1959年) 収蔵番号 406.1960
- MoMA LE1 スピーカー(1960年) 収蔵番号 556.1964
- MoMA T580 トランジスタラジオ(1961年) 収蔵番号 557.1964
- MoMA TC40 オーディオ1(1962年) 収蔵番号 558.1964
- MoMA PS2 ターンテーブル(1963年) 収蔵番号 2282.2001
- MoMA CE16 チューナー(1964年) 収蔵番号 363.2011
- MoMA HW1 体重計(1968年) 収蔵番号 457.1970
- MoMA ET55 計算機(1980年) 収蔵番号 375.1982
- MoMA 606 ユニバーサル・シェルビング・システム(1960年) 収蔵番号 499.2004
- V&A フォノスーパー SK55(1956年) 収蔵番号 W.51-1978
- V&A TP1(1959年) 収蔵番号 W.28:1 to 3-2008
- V&A RZ62(1962年頃) 収蔵番号 CIRC.430:1-1970
- V&A RT20(1963年) 収蔵番号 W.13-2007
- V&A T1000 ワールドレシーバー(1963年) 収蔵番号 W.12:1 to 3-2007
- V&A HLD31 ヘアドライヤー(1970-74年) 収蔵番号 CIRC.346-1974
- V&A ET66 計算機(1987年) 収蔵番号 W.34:1,2-2016
- Met SK4/10 ラジオ・フォノグラフ(1956年) 収蔵番号 2023.356a, b
- Met 携帯用レコードプレーヤー/ラジオ(1959年) 収蔵番号 2002.244a–e
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1956年 | オーディオ | SK4 レコードプレーヤー | Braun(ハンス・グーゲロットと共同) |
| 1958年 | オーディオ | T3 ポケットラジオ | Braun |
| 1959年 | オーディオ | TP1 ポータブルラジオ&レコードプレーヤー | Braun |
| 1959年 | 暖房 | ブラウン H 1 ファンヒーター | Braun |
| 1960年 | 家具 | 606ユニバーサルシェルビングシステム | Vitsœ |
| 1960年 | オーディオ | ブラウン LE1 スピーカー | Braun |
| 1962年 | 家具 | 620 チェア・プログラム | Vitsœ |
| 1962年 | シェーバー | SM31 シクスタント | Braun(ゲルト・A・ミュラー、ハンス・グーゲロットと共同) |
| 1963年 | オーディオ | T1000 ワールドレシーバー | Braun |
| 1965年 | オーディオ | TG60 テープレコーダー | Braun |
| 1968年 | カメラ | Nizo S8 ムービーカメラ | Braun(ロベルト・オーバーハイムと共同) |
| 1972年 | キッチン | MPZ21 シトラスジューサー | Braun(ユルゲン・グロイベルと共同) |
| 1975年 | オーディオ | LE1 静電スピーカー | Braun |
| 1978年 | 時計 | AB30 アラームクロック | Braun(ディートリッヒ・ルブスと共同) |
| 1987年 | 文具 | ET66 電卓 | Braun(ディートリッヒ・ルブスと共同) |
| 1990年代 | 家具 | 621 サイドテーブル | Vitsœ |
プロフィール
| 生年 | 1932年5月20日 |
|---|---|
| 出身地 | ドイツ・ヴィースバーデン |
| 国籍 | ドイツ |
| 活動拠点 | クローンベルク(ブラウン本社所在地)、ハンブルク |
| 分野 | 家電、家具 |
| 主な協働ブランド | Braun、Vitsœ |
Reference
- Dieter Rams | Vitsœ
- https://www.vitsoe.com/gb/about/dieter-rams
- Ten principles for good design | Vitsœ
- https://www.vitsoe.com/gb/about/good-design
- Braun Design
- https://www.braun.com/en-gb/braun-design
- Dieter Rams | Design Museum
- https://designmuseum.org/discover-design/all-stories/what-is-good-design-a-quick-look-at-dieter-rams-ten-principles
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325