S44シェルフは、バウハウスを代表する家具デザイナー、マルセル・ブロイヤーが1932年にデザインしたブックシェルフである。本作品は、スイス・ジュネーブに建設されたル・コルビュジエの集合住宅「メゾン・クラルテ」のためにデザインされた。クロムメッキのスチールパイプと木製の棚板という、ブロイヤーの代名詞ともいえる素材の組み合わせにより、軽やかさと機能美を両立させた傑作である。
現在はドイツの家具メーカー、テクタ社がバウハウス・アーカイブ(ベルリン)の認可のもとで製造を行っている。オリジナルと同一のプロポーションを保ち、1922年にオスカー・シュレンマーが考案したバウハウス・シグネットを付して製品化されており、正統なバウハウス・リエディションとしての地位を確立している。
特徴・コンセプト
S44シェルフの設計理念は、ブロイヤーが追求した「物の本質への探究」を体現している。シェルフとは何をすべきものか——書籍、オブジェ、記憶を収納すること。ブロイヤーはこの本質的な問いに対し、明快かつ合理的な解答を提示した。
構造と素材
4枚の高さ調整可能な棚板は、一対のクロムメッキスチールパイプによって支持されている。広く開いた脚部は安定性を確保しながらも、視覚的な軽やかさを失わない。その構造は一目で理解できる明快さを持ち、余分な装飾を一切排している。棚板はアッシュ材またはオーク材のベニヤ仕上げ、あるいはブラック、ホワイト、レッドのラッカー仕上げから選択可能である。オプションとして追加棚板やクロムメッキのブックエンドも用意されている。
空間との調和
幅140センチメートル、高さ121センチメートル、奥行37センチメートルという寸法は、重厚な間仕切りを必要としないオフィス空間やリビングに最適である。光と空気をデザインの要素として積極的に取り入れるこの設計思想は、ブロイヤーが提唱した「非物質化された浮遊する外観と新しい空間精神」を如実に表現している。素材とその接合方法は精密に読み取ることができ、何一つ余計なものがない。
エピソード
S44シェルフは、1932年にル・コルビュジエとピエール・ジャンヌレが設計したジュネーブの集合住宅「メゾン・クラルテ」のために開発された。この建築は、ル・コルビュジエの「イムーブル=ヴィラ」(集合住宅)構想の実験的プロジェクトであり、鉄骨構造とガラスファサードを特徴とするモダニズム建築の先駆的作品である。
ブロイヤーは当時、スイスの家具メーカー、エンブル社と協働しており、本シェルフはその直接の監督下で製造された特別仕様品として知られている。ブロイヤーがスイスに滞在していた1932年から1935年の間に製造されたオリジナル作品は極めて希少であり、現存する個体は世界的なコレクターズアイテムとなっている。
ブロイヤーは後に「物はその異なる機能の結果として異なる外観を持つ。それらが一体となって私たちのスタイルを生み出す」と記しており、S44シェルフはまさにこの思想を具現化した作品である。
評価
S44シェルフは、バウハウス家具の傑作として20世紀デザイン史に確固たる地位を占めている。ブロイヤーのスチールパイプ家具は、ワシリーチェア(B3)やチェスカチェア(B32)と並び、近代家具デザインの礎石として評価されており、S44シェルフはその収納家具における到達点といえる。
テクタ社によるリエディションは、バウハウス・アーカイブの厳格な審査を経て認可されており、オリジナルの寸法比率を忠実に再現している。この認証は、本作品がバウハウスの正統な継承作品であることを保証するものである。
現代のミニマリストインテリアやモダニズム建築においても、S44シェルフは時代を超越した普遍的価値を有する作品として、世界中の建築家、デザイナー、コレクターから高い支持を得ている。
デザイナーについて
マルセル・ラヨシュ・ブロイヤー(1902年5月21日〜1981年7月1日)は、ハンガリー出身の建築家・家具デザイナーである。18歳でウィーン美術アカデミーに入学するも、保守的な教育に失望し即日退学。直後にヴァイマールのバウハウスに入学し、最も若く最も優秀な学生の一人となった。
1925年、わずか23歳でデッサウ・バウハウスの家具工房主任に就任。自転車のフレームに着想を得たスチールパイプ家具を開発し、ワシリーチェア(1925年)、チェスカチェア(1928年)など、20世紀を代表する家具を次々と生み出した。ニューヨーク・タイムズ紙は、これらを「20世紀で最も重要な椅子」と評している。
1928年にバウハウスを離れベルリンで独立後、1935年にはロンドンへ移住し、イゾコン社でベントプライウッド家具の開発に従事。1937年にはウォルター・グロピウスの招聘を受けてハーバード大学建築学部に着任し、フィリップ・ジョンソン、I・M・ペイ、ポール・ルドルフら、次世代の建築家を育成した。晩年はブルータリズム建築の旗手として、ホイットニー美術館(1966年)をはじめとする数々の建築作品を残している。
メーカーについて
テクタ(Tecta)は、1956年に建築家ハンス・ケネッケによってドイツ・ラウエンフェルデに設立された家具メーカーである。社名はラテン語で「デザインする」「創造する」を意味する言葉に由来する。
テクタ社は、バウハウスの遺産を保存し発展させることを使命とし、マルセル・ブロイヤー、ヴァルター・グロピウス、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ、ジャン・プルーヴェ、ゲリット・リートフェルトら、モダニズムを代表するデザイナーの作品を製造してきた。バウハウス・アーカイブの認可を受けたリエディションは、オリジナルと同一のプロポーションを保ち、熟練の職人技によって生産されている。
ラウエンフェルデの本社には、カンチレバーチェア・ミュージアムが併設されており、20世紀家具デザイン史を俯瞰できる貴重なアーカイブとして世界中からデザイン研究者が訪れている。1972年以降はブルッフホイザー家が経営を引き継ぎ、現在は第4世代のクリスティアン・ドレッシャーのもと、バウハウスの精神を現代に継承している。
基本情報
| 名称 | S44シェルフ / S44 Shelf |
|---|---|
| デザイナー | マルセル・ブロイヤー / Marcel Breuer |
| デザイン年 | 1932年 |
| メーカー | テクタ / Tecta |
| 製造国 | ドイツ |
| サイズ | 幅140cm × 奥行37cm × 高さ121cm |
| 素材 | クロムメッキスチールパイプ、アッシュ材/オーク材/ラッカー仕上げ棚板 |
| 仕様 | 高さ調整可能な棚板4枚(追加棚板・ブックエンド オプション) |
| 様式 | バウハウス / モダニズム |
| 認証 | バウハウス・アーカイブ(ベルリン)認可 |