ゼニット(Zenit)は、イタリアの建築家・デザイナーであるジュゼッペ・バヴーゾ(Giuseppe Bavuso)が1998年にリマデシオ(Rimadesio)のためにデザインした、革新的なモジュラーシステムである。本システムは、リビングルームのブックケースからウォークインクローゼットまで、住空間のあらゆる場所に対応する収納ソリューションとして開発された。「ゼニット」という名称は天頂を意味し、その名の通り、空間を天と地で結ぶ垂直の支柱を核として構成される。
アルミニウムの支柱と繊細なガラス素材の組み合わせによって実現された透明感と軽やかさは、従来の収納家具の概念を根本から覆すものであった。発表以来四半世紀以上にわたり、継続的な改良と進化を重ねながら、リマデシオのコレクションを代表するアイコン的存在として世界中で愛され続けている。
特徴・コンセプト
ゼニットの設計思想の核心は、「オープン・モジュラリティ」という革新的な概念にある。従来のシェルフシステムでは、支柱に一定間隔で穿たれた穴やフックにより、棚板やアクセサリーの取り付け位置が制限されていた。しかしゼニットは、独自の「バヨネット式」固定システムを採用することで、穴のない滑らかなアルミニウム支柱を実現し、すべての構成要素を任意の高さに自由に配置することを可能にした。
素材と仕上げ
ゼニットは二つの美学的方向性を提示する。一つは、ガラス棚板とラッカー仕上げのガラス製引き出しユニットによる、冷たく技術的な表情。リマデシオ独自の「エコカラーシステム(Ecolorsystem)」による74色以上のマット・グロスラッカーから選択が可能であり、これらはすべて環境に配慮した水性塗料を使用している。もう一つは、チャコールラーチ、グレーオーク、エルムといった木目調メラミン仕上げによる、温かみのある自然な風合いである。
アルミニウムの支柱は常に床から天井までオーダーメイドで製作され、最大限の構造的堅牢性を保証する。すべての構成要素は完全に水平に取り付けることができ、精密なレベリングが可能である。
多様な用途
本システムは、ブックケース、リビングのディスプレイシェルフ、ウォークインクローゼットなど、多様な用途に対応する。ウォークインクローゼットとして使用する場合は、衣類用ハンガーバー、トレイ付きの引き出し棚、ズボン・ネクタイ・靴専用のラック、バスケット収納など、豊富なアクセサリーを自由に組み合わせることができる。わずか8mmの薄さを誇る押出アルミニウム製の引き出しは、エッジに継ぎ目のない独自の「フォールディング」技術によって製作され、内部はファブリックまたは合成皮革で仕上げられている。
エピソード
ジュゼッペ・バヴーゾとリマデシオの出会いは、1986年、ケルンでの夕食会にまで遡る。当時、バヴーゾとリマデシオ二代目のダヴィデ・マルベルティは、テーブルで最も若い二人であった。意気投合した二人は、当初は会社の製品ラインに沿った小さなガラス製アクセサリーの共同デザインから始めたという。
転機となったのは数年後、スライディングパネルのコレクションという野心的なプロジェクトの提案であった。1992年に発表された「シパリウム(Siparium)」は、ガラスとアルミニウムによる初のスライディングパネルシステムとして、業界に革新をもたらした。この成功を経て、バヴーゾはリマデシオの唯一のデザイナーとして、スイングドア、ブックケース、ウォークインクローゼット、コンテナ、アクセサリーと、次々と新たなコレクションを生み出していった。
1998年に発表されたゼニットは、こうした協働の中から生まれた傑作である。バヴーゾは、師と仰ぐブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari)から学んだ「比類なき総合の才能」を体現するかのように、技術的革新と美学的純粋さを見事に融合させた。木材が主流であった当時の家具業界において、ガラスとアルミニウムという素材で精緻なスタイルを確立したことは、極めて先駆的な挑戦であった。
評価
ゼニットは、発表以来、国際的に高い評価を受け続けている。その革新性は、技術的側面と美学的側面の両面において認められている。
技術面では、穴のないアルミニウム支柱とバヨネット式固定システムによる「オープン・モジュラリティ」の概念が、業界に新たな基準を打ち立てた。この独創的なアプローチにより、使用者は従来の制約から解放され、真の意味での自由なカスタマイズが可能となった。
美学面では、ミニマリズムの厳格さと軽やかな透明感を両立させたデザインが、現代建築やインテリアデザインとの高い親和性を持つと評価されている。「ほとんどポストインダストリアルな」と形容されるその外観は、機能的要素を表現的目的のために活用し、強調するという、バヴーゾ独自のデザイン哲学を体現している。
また、住宅のみならず、高級ショップやビジネス環境など、商業空間においても優れたディスプレイ性能を発揮することから、幅広い分野のプロフェッショナルから支持を集めている。
受賞歴
- 2000年 KBB Review New Year's Honor-List For 2000 第1位受賞(イギリス・ハロー)
- 2001年 ADI Design Index 2001 選定(イタリア・ミラノ)
基本情報
| デザイナー | ジュゼッペ・バヴーゾ(Giuseppe Bavuso) |
|---|---|
| ブランド | リマデシオ(Rimadesio) |
| 発表年 | 1998年 |
| 製造国 | イタリア |
| 主要素材 | アルミニウム、ガラス、メラミン |
| カテゴリー | モジュラーシェルフシステム / ウォークインクローゼット / ブックケース |
デザイナー紹介:ジュゼッペ・バヴーゾ
ジュゼッペ・バヴーゾ(1959年生まれ)は、ミラノ北部の家具産業で名高いブリアンツァ地区のセレーニョを拠点に活動するイタリアの建築家・インダストリアルデザイナーである。そのデザインは、ほぼミニマリストと形容される厳格な造形言語と、革新的な素材を知的に駆使する卓越した技術的探究を融合させている点に特徴がある。
初期のキャリアにおいては、建築設計から大規模公共空間のインテリアデザイン、さらには鉄道車両や寝台車の内装設計、自動車産業に至るまで、多様な分野で経験を積んだ。1986年に自身のプロダクトデザイン事務所を設立し、医療機器メーカーとの協働も手がけている。
バヴーゾのデザイン哲学に決定的な影響を与えたのは、イタリアを代表するデザイナー・アーティストであるブルーノ・ムナーリとの出会いであった。「比類なき総合の才能を持つ偉大な知識人」と評するムナーリから学んだ本質への探究心は、バヴーゾのデザインに対するアプローチを根本から形作っている。
家具デザインの分野では、リマデシオのほか、エルネストメダ(キッチン)、ポリフォルム(ワードローブ)、アリヴァル(椅子張り家具)、エルコ(窓・ドア)など、国際的に著名な企業とデザイナーおよびアートディレクターとして協働している。1990年のケルン国際デザインアワード、1993年のヤング&デザイン賞、2013年・2019年のレッドドット・デザイン・アワード、2020年・2024年のアズ・アワードなど、数々の国際的な賞を受賞している。
ブランド紹介:リマデシオ
リマデシオは、1956年にフランチェスコ・マルベルティとルイージ・リボルディによって、ミラノ北部デージオに設立されたイタリアの家具メーカーである。当初は「リマ・ヴェトラリア(Rima Vetraria)」という社名で、板ガラスの加工を専門としていた。エングレービング、金箔仕上げ、着色などの技法を一点一点手作業で施す、熟練した職人技と革新への強い意志が、創業当初からの企業文化であった。
1980年代初頭には、空間の建築的定義に注力し、初のミラーガラス製ウォールユニット「モドゥーロ(Modulo)」を発表。1992年には、ジュゼッペ・バヴーゾとの協働により本格的な家具部門への進出を果たし、現在のリマデシオのデザインアイデンティティが確立された。2000年代には、ミラノ北部ジュッサーノの新本社・工場(21,000㎡)へ移転し、さらなる成長を遂げている。
リマデシオは、環境への配慮をDNAに刻む企業としても知られる。2006年、イタリアの家具メーカーとして初めて、すべてのガラス塗装に水性塗料のみを使用する「エコカラーシステム」を導入。本社屋根には5,242枚の太陽光パネル(出力1,270kWp)を設置し、イタリア家具業界最大規模の太陽光発電システムを運用している。さらに、ヨーロッパの産業界で初となる大規模蓄電システムの導入、リサイクル段ボールによる100%リサイクル可能な梱包材の採用など、持続可能性への取り組みを継続的に推進している。