スパゲッティチェアは、イタリアの建築家ジャンドメニコ・ベロッティが1979年にAlias社のために製品化したダイニングチェアである。スチールパイプのフレームにPVCチューブを張り巡らせた独創的な構造により、視覚的な軽やかさと優れた座り心地を両立させた。イタリア合理主義の精神を体現する簡潔明瞭なデザインは、発表から45年以上を経た現在もなお、現代デザインの象徴として世界中で愛され続けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィトラ・デザイン・ミュージアム、ミラノ・トリエンナーレ・デザイン・ミュージアムの永久コレクションに収蔵されており、20世紀インダストリアルデザインを代表する傑作の一つとして高く評価されている。

特徴・コンセプト

スパゲッティチェアの最大の特徴は、クロームメッキまたは焼付塗装を施したスチールパイプのフレームに、透明または着色されたPVC(ポリ塩化ビニル)チューブを縦方向に張り巡らせた座面と背もたれにある。このPVCチューブは着座する人の体重と体形に柔軟に適応し、弾力性のある心地よい座り心地を実現している。

ベロッティのデザイン哲学は「使用に基づいたデザイン」であった。彼は伝統的な家具に対して謙虚に向き合い、革新を求めながらも人々の生活に唐突にアイデアを押し付けることを避けた。スパゲッティチェアにおいては、伝統的な籐椅子の構造を現代的な素材で再解釈するという「浄化と統合のプロセス」を経て、必要最小限の要素で最大の効果を生み出すことに成功した。

一見すると遊び心のある名称であるが、このチェアはベロッティのイタリア合理主義の精神を凝縮している。伝統的なイタリアの職人技を尊重しながらも、構造の処理、形態の扱い、素材の使用において最先端の技術を採用している。その結果、ほぼゼロに近いボリューム感と、空間に溶け込むような透明性を獲得し、小さな居住空間からギャラリー、店舗まで幅広い環境に適応する汎用性を備えている。

エピソード

「オデッサ」から「スパゲッティ」へ

スパゲッティチェアの原型は、1962年にベロッティがマリーナ・ディ・マッサにあるマリーナホテルの屋外テラス用に設計したチェアに遡る。当時は「オデッサ」と呼ばれ、後にAlias社を創設するエンリコ・バレリが立ち上げた実験的デザインセンター「Pluri」との協働プロジェクトとして生まれた。

「スパゲッティ」という愛称は、マーケティング目的で1960年代に付けられたものである。伝説によれば、ニューヨークでの展示会において、PVCチューブの外観がイタリアの人気パスタに似ていることから、この親しみやすいニックネームが与えられたという。

Alias社の歴史と共に

1979年、エンリコ・バレリ、マリリーザ・デチモ、カルロ・フォルコリーニ、フランチェスコ・フォルコリーニによってAlias社が設立された。ベロッティ自身も創設メンバーの一人として参画し、スパゲッティチェアは同社の最初の製品として発表された。ミラノのジョ・マルコーニのアートギャラリーでデビューを飾り、革新と創造性を重視する同社の方向性を象徴する存在となった。

1979年のAlias社による製品化にあたり、ベロッティは継続的な改良を重ねた。背もたれの横桟の湾曲を緩やかにし、支柱の上端に小さなゴム製ストッパーを追加し、中央の横桟をベースに移動させ、座面と背もたれの素材を最適化した。こうした細部への徹底したこだわりが、スパゲッティチェアを現代インダストリアルデザインの象徴へと昇華させた。

デザイナーによる再解釈

2019年には、スイスのデザイナー、アルフレド・ヘーベルリがスパゲッティチェアへのオマージュとして7点の限定版を制作した。「Dilatata」「Alta Tensione」「Alta Vista」「Fine」「Viceversa」「Fondamentale」「Suppletiva」と名付けられたこれらの作品は、元のデザインの構成要素を分解・再構築し、新たな形態を生み出した。背もたれを伸ばしてマッキントッシュの椅子を彷彿とさせるものや、二人掛けに再構成したものなど、ベロッティの遺産に対する深い敬意と創造的対話が表現されている。

評価

スパゲッティチェアは、その発表以来、デザイン史における重要な位置を確立してきた。1983年、ICF社からの寄贈によりニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵され、Alias社の製品として初めてこの栄誉を獲得した。その後、ドイツ・ヴァイル・アム・ラインのヴィトラ・デザイン・ミュージアム、ミラノ・トリエンナーレ・デザイン・ミュージアムにも収蔵されている。

デザイン評論家のクラウディオ・バガッティとマリアヴィットリア・スキネッティは、ベロッティの伝記(Electa、2004年)において、スパゲッティチェアの本質を「平均的な文化的需要を解釈し、流行に乗ることや新しさを追求することを企てることなく、正確で機能的な答えを提供するという職業上の必要性」から生まれたものと評している。

45年以上を経た現在でも、スパゲッティチェアはその現代性を失っていない。2024年にはAlias社創立45周年を記念し、写真家デルフィーノ・シスト・レニャーニによる新たなビジュアルプロジェクトが発表され、シンプルさの力を皮肉かつ深遠に探求した作品が制作された。

受賞歴・コレクション収蔵

  • ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久コレクション収蔵(1983年、ICF社寄贈)
  • ヴィトラ・デザイン・ミュージアム(ドイツ)永久コレクション収蔵
  • ミラノ・トリエンナーレ・デザイン・ミュージアム永久コレクション収蔵

デザイナー

ジャンドメニコ・ベロッティ(Giandomenico Belotti、1922年〜2004年)は、イタリア・ベルガモ出身の建築家、都市計画家、インダストリアルデザイナーである。ヴェネツィア建築大学(IUAV)を卒業後、研究、修復、都市計画、インダストリアルデザインの分野で活動した。

1960年に自身の建築事務所を設立し、イタリア各地で建築プロジェクトを手がけた。特にロンバルディア地方のポー川流域およびピエモンテ渓谷において、バレリ家の住宅兼ショールームを含む象徴的な住宅や工場を設計した。これらの作品は、同地域に特徴的な産業建築と住宅建築の結びつきを体現している。

ベロッティのデザイン哲学は、縦方向の形態、素材の連続性、テクスチャ、幾何学、色彩への関心に集約される。彼は「スプーンの形を再発明しようとするのは愚かなことだ。伝統的な物体に非常に謙虚に向き合い、革新できることを知りながらも、上からアイデアを人々の頭に落とさないよう注意しなければならない」と語っている。

基本情報

製品名 Spaghetti Chair(スパゲッティ チェア)/ Belotti 1001
デザイナー Giandomenico Belotti(ジャンドメニコ・ベロッティ)
発表年 1979年(原型は1962年)
メーカー Alias(イタリア)
素材 フレーム:クロームメッキスチール または 焼付塗装スチール
座面・背もたれ:PVC(ポリ塩化ビニル)チューブ
サイズ 幅40cm × 奥行51cm × 高さ84cm(座面高:約46cm)
フレームカラー クローム、ホワイト、ブラック、サンド、ライトグレー、コーラルレッド、ネイビーブルー、イングリッシュグリーン、マットーネレッド、オークルブラウン
PVCカラー クリア(透明)、ニュートラルオパール、ホワイト、ブラック、コーラルレッド、ベージュ
バリエーション スパゲッティ チェア(101)、スパゲッティ アームチェア(109)、スパゲッティ スツール各種、スパゲッティ ジェミニ(100)、レザーシリーズ
生産国 イタリア