S 285 Deskは、1935年にマルセル・ブロイヤーがThonet社のために設計した、バウハウスの理念を完璧に体現したデスクである。芸術と技術の融合という課題に対する見事な解答として評価されるこの作品は、クロムメッキされたスチールパイプと木材という対照的な素材を、驚くほど調和のとれた形で組み合わせている。

訓練を受けた家具職人であったブロイヤーは、スチールパイプという産業素材に関する知識と、インテリアデザインにおける経験を融合させ、新即物主義(ノイエ・ザッハリヒカイト)の精神を体現する傑作を生み出した。連続する一本の曲線で構成されたスチールフレームの中に、天板と収納要素が浮遊しているかのように配置されたその構造は、現代においてもなお革新的である。

まるでブロイヤーが今日のホームオフィスやモバイルコンピューターの時代を予見していたかのように、S 285 Deskは現代のワークスタイルにも完璧に適応する。1930年代からThonet社によって独占的に製造され続けているこのデスクは、時代を超越したデザインの証明であり、現代デザイン史における重要な一章を形成している。

特徴・コンセプト

S 285 Deskの最大の特徴は、スチールパイプと木材という異質な素材の革新的な組み合わせにある。クロムメッキされたスチールパイプは、単なる構造材としてではなく、装飾的要素としても機能し、その連続する曲線は空間に軽やかさと優雅さをもたらす。

デザインの核心には、バウハウスの根本理念である「形態は機能に従う」という思想が貫かれている。しかし、ブロイヤーはこの原則を教条的に解釈するのではなく、機能性と美的価値の完璧なバランスを追求した。天板と収納要素は、フレームの中に埋め込まれるのではなく、まるで浮遊しているかのように配置され、これによって家具全体に独特の軽快感と調和がもたらされている。

S 285は複数のバリエーションを展開しており、基本モデルから大型の収納ユニットを備えたものまで、使用者のニーズに応じて選択可能である。S 285/0は最もミニマルな構成で、純粋な作業面のみを提供。S 285/1とS 285/2は引き出しや棚板の配置が異なり、S 285/5は最大178cmの幅を持つ大型モデルとなっている。

素材の選択においても、伝統と革新の融合が見られる。フレームはクロムメッキまたはブラックパウダーコーティングから選択でき、木部はアッシュ、オーク、ウォールナットなど多様な樹種と仕上げが用意されている。特に「Pure Materials」シリーズでは、オイル仕上げのウォールナット突板を採用し、素材本来の美しさを最大限に引き出している。

エピソード

バウハウスとの出会い

マルセル・ブロイヤーがスチールパイプ家具のデザインに着手したきっかけは、1925年に購入した自転車であった。その軽量なスチールチューブフレームに感銘を受けた彼は、この素材を家具デザインに応用することを思いついた。当時、ドイツのマンネスマン社が継ぎ目のないパイプの製造技術を完成させたばかりで、これによってスチールチューブを曲げても崩れることがなくなり、ブロイヤーのアイデアは技術的に実現可能となった。

1925年から1928年まで、バウハウスの家具工房主任を務めていたブロイヤーは、構成主義とデ・ステイルの影響を強く受けながら、革新的なスチールパイプ家具を次々と開発した。S 285 Deskは、これらの実験と研究の集大成として1935年に誕生した。

Thonetとの協業

Thonet社との協業は、ブロイヤーのキャリアにおいて極めて重要な転換点となった。1796年に生まれたミヒャエル・トーネットによって創業されたこの会社は、19世紀から曲木家具の製造で世界的な名声を獲得していた。特に1859年に発表された「No.14」チェアは、世界初の大量生産家具として歴史に名を刻んでいる。

1920年代後期、Thonetはバウハウスのデザイナーたちとの協業を開始し、伝統的な曲木技術から新たなスチールパイプ家具の製造へと事業を拡大した。ブロイヤーのS 285 Deskは、この新しい方向性を象徴する作品となり、Thonetの製造技術とブロイヤーの革新的デザインが完璧に融合した傑作として評価されている。

評価

S 285 Deskは、20世紀デザイン史における最も重要な家具の一つとして広く認識されている。その革新性は、単に新しい素材を使用したことだけでなく、産業時代における新しい生活様式を予見し、それに対応したデザインを提示した点にある。

デザイン批評家たちは、このデスクが持つ形式的なバランスの完璧さを高く評価している。スチールと木材という対照的な素材の組み合わせは、硬と軟、冷と温、工業と自然という二元性を調和させ、モダニズムデザインの理想を体現している。

現代のデザイナーやアーキテクトからも、S 285は時代を超越したデザインの模範として引用され続けている。特に、ホームオフィスやフレキシブルワークスペースが一般化した21世紀において、このデスクのコンパクトさと機能性は再評価されている。その先見性は、まるでブロイヤーが現代のモバイルワーク時代を予見していたかのようだと評される。

美術館やデザインコレクターの間でも、S 285は重要な収集対象となっている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめ、世界各地の主要な美術館がブロイヤーの作品を永久収蔵しており、その中でもS 285は特に注目される存在である。

受賞歴・収蔵

  • ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久収蔵品
  • ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)収蔵
  • クーパー・ヒューイット・スミソニアン・デザイン博物館収蔵
  • ヴィトラ・デザイン・ミュージアム収蔵

基本情報

デザイナー マルセル・ブロイヤー(Marcel Breuer)
ブランド Thonet(トーネット)
デザイン年 1935年
製造開始 1930年代後期
サイズ展開 S 285/0: W121 × D76 × H73 cm
S 285: W164 × D76 × H73 cm
S 285/1: W164 × D76 × H73 cm
S 285/2: W122 × D76 × H73 cm
S 285/5: W178 × D76 × H73 cm
フレーム素材 スチールパイプ(クロムメッキまたはパウダーコーティング)
天板・収納素材 アッシュ材、オーク材、ウォールナット材(ラッカー仕上げまたはオイル仕上げ)
特徴 引き出しユニット、オープンシェルフ、中央ロックシステム(オプション)
現行生産 Thonet GmbH(ドイツ・フランケンベルク)